「ようやく動き始めた」
リテールメディアを活用すると、小売りの現場やマーケティングはどう変わるのか。
従来、ECサイトや実店舗は商品を販売する場であり、広告などのマーケティングはそれとは異なる場で行われてきた。たとえば、メーカーが新商品を発売すると、ターゲット層の含有率が高いテレビ番組でCMを流し、実店舗の棚を確保して商品を販売してもらう。消費者はその棚を見て「テレビCMで見たことがある」と気づき、商品を手に取る。さらに、おまけなどの販促によって購入が促される。そういった流れが一般的だった。
リテールメディアを導入すると、より直接的な流れになる。ECサイトにおいて、メーカーやブランドが直接広告を出稿し、マーケティングや販促をする。実店舗に設置されたデジタルサイネージなどに広告を出すケースもある。販売の場でマーケティングをすることが可能になるのだ。
楽天市場は当初から、購買の場と広告を配信するメディアの両輪でECサイトを運営してきた。日本は欧米と比べてリテールメディアの活用が進んでいなかったが、現在はその状況も変わりつつある。松村氏によると、この2~3年で「ようやく動き始めた」という。
「5年ほど前までは、楽天市場にリテールメディアとして予算を付けてくれる企業は限定的だった。変わったきっかけはコロナ禍。オフラインでモノが売れなくなったため、デジタル施策を真剣に考える企業が増え、意識も変わってきた」
日本でリテールメディアといえば、コンビニなどのデジタルサイネージ広告をイメージするだろう。しかし、米国ではECサイト事業者が実施する広告事業がメイン。日本でも、オンラインチャネルにおけるリテールメディア市場が拡大している。
急成長の理由は、全国展開する大手企業によるナショナルブランドが、リテールメディアにマーケティング予算を投入し始めているからだろう。楽天市場でも、従来は出店歴の長い中小規模の店舗が広告を出すケースが中心だったが、近年は変化している。
「日系・外資系問わず、百貨店やスーパーで商品を展開するブランドが楽天市場でも販売するようになった。加えて、テレビCMなどに投下していたマーケティング予算の一部を楽天市場に回し、ブランディング広告を出すようになっている」と松村氏は説明する。楽天市場としても、近年は特にナショナルブランドへの訴求を強化している。
そういった背景もあり、楽天グループの広告事業は、2023年度の第2四半期の売上収益が前年同期比12.7%増と好調だ。通期の売上収益は2,000億円を見込む。松村氏は「主要テレビ局の広告事業に匹敵する規模に成長している」と強調する。そのうちの7割ほどがEC関連の広告で、主に楽天市場のサービスによるものだ。