幅広い年齢層向けにレディス・メンズ用品を展開するアパレル大手の株式会社ジュンは、さまざまな事業に参入しています。とくに近年、力を入れているのがEC事業の強化です。デジタルシフトが加速し、EC事業者同士の競争が激化するなか、同社ではどのようなDX施策を展開しているのでしょうか。
この記事では、実店舗と変わらないEC体験の提供を目指すジュンのDX戦略について解説します。
株式会社ジュンの企業情報・事業内容の概要
まずは、株式会社ジュンの基本的な企業情報や事業内容について解説します。
株式会社ジュンの企業情報
以下の表は、株式会社ジュンの企業情報をまとめたものです。
| 社名 | 株式会社ジュン |
|---|---|
| 本社所在地 | 東京都港区南青山2-26-1 D-LIFEPLACE 南青山4F |
| 設立年月 | 1958年12月9日 |
| 代表者名 | 代表取締役社長 佐々木進 |
| 株式公開 | 未上場 |
| 資本金 | 11億円（グループ総計） |
| おもなグループ会社 |
など |
株式会社ジュンの事業内容
株式会社ジュンは、レディスやメンズ向けの衣料品企画や販売を手がける大手アパレル企業です。自社で有するブランドの数はファッションブランドだけで25にものぼり、その事業規模の大きさがうかがえます。
また同社では、アパレル事業で培った建築や室内内装のノウハウを活かした施工設計、ラジオ番組のプロデュース、広告事業など、多角的な事業経営を進めています。
さらに近年はゴルフ場やレストラン、ワイナリーの経営にも着手し、会社全体で全国に340の店舗と、計2万2,600平方メートルの倉庫面積を有しています。
株式会社ジュンの沿革
以下の表は、株式会社ジュンの沿革を簡単にまとめたものです。
| 年 | 沿革 |
|---|---|
| 1958年 |
株式会社ジュン創業 メンズブランド「JUNMEN（ジュンメン）」誕生 |
| 1968年 | レディスブランド「ROPÉ（ロペ）」誕生 |
| 1972年 | オープンカフェ「Café de Ropé（カフェ ド ロペ）」誕生 |
| 1990年 | ファッションブランド「Adam et Ropé（アダム エ ロペ）」誕生 |
| 2006年 | オリジナルレーベル「リリシズム」が東京コレクションに初参加 |
| 2013年 |
ライフスタイルショップ「SALON adam et ropé（サロン アダム エ ロペ）」誕生 自社EC「J’aDoRe JUN ONLINE（ジャドール ジュン オンライン）」開設 |
| 2019年 | 「La Bouche Rouge （ラ ブーシュ ルージュ） 」と日本におけるパートナーシップを締結 |
1958年、メンズスイムウェアの販売事業からスタートした株式会社ジュンは、当時からヨーロピアンスタイルのアパレル展開や内装を手がけ、ほかのアパレル会社にはない洗練されたブランドづくりを進めてきました。男性が明るい色の服を着る習慣がなかった時代に真っ赤なセーターを発売し、男性がおしゃれをする時代を切り開いた歴史もあります。
メンズ服の要素をレディスに落とし込み、南フランスのテイストを織り交ぜたレディスブランド「ROPÉ（ロペ）」は、1968年の誕生から今なお軸として同社を支える主要ブランドで、今でも日本全国で目にするさまざまな同社のブランドや店舗に名付けられています。
1972年には日本にオープンカフェの文化を根付かせた「Café de Ropé（カフェ ド ロペ）」をオープンし、以降も飲食事業へ積極的に取り組みます。また同社は、ヨーロッパの各ブランドとつながりを持っており、2019年にはパリのコスメブランド「La Bouche Rouge （ラ ブーシュ ルージュ） 」と日本におけるパートナーシップを締結し、同ブランドの日本展開を手がけています。
株式会社ジュンが有するおもなブランド
株式会社ジュンは数多くのブランドを全国展開しています。前出の「ROPÉ」や「Adam et Ropé（アダム エ ロペ）」などは、同社を代表するアパレルブランドで、トレンドとポップさを強調した「ROPÉ PICNIC」、メンズ向けの「JUNRed」なども人気です。
飲食ブランドとしては、カフェ業態の「SALON adam et ropé（サロン アダム エ ロペ）」を中心にさまざまな派生ブランドが存在します。
株式会社ジュンが推進する実店舗とECの融合
実店舗を中心とした多角的な事業経営を半世紀以上続けてきた株式会社ジュンですが、近年は実店舗とECを融合させた独自のDX施策も進めています。
EC強化で順調に売上へ貢献
株式会社ジュンでは、ECにおける売りかたの改善に取り組んでいます。
具体的には、クーポンを使った割引などを実施するオフ施策を控え、定価販売を徹底したことで、2021年から2022年の営業利益の約22%増加に成功しました。ECチャネルは「ZOZO」と「楽天ファッション」、自社ECを運用していますが、外部モールでのクーポン施策も減らし、正規価格での販売に注力しています。
また、2020年9月にはコスメやライフスタイル商材を扱う「Life&Beauty by JUNONLINE」をECに新設するなど、新カテゴリの取り扱いを強化している点も特徴です。
このように同社では、アパレルにおけるニーズのみならず、自宅での時間を豊かなものにしたいというニーズにも応えることで、売り上げを伸ばしています。
チャット専属スタッフの常駐で満足度の高いOMOを実現
モール販売の割合は依然として高いものの、株式会社ジュンでは自社ECサービスの強化にも取り組んでいます。
同社は顧客体験を実店舗に近いものとするための取り組みの一環として、チャット専属スタッフの常駐を実現し、チャット接客の強化を進めました。アンケート結果によると、同社サイトのチャット利用者の約85%が「非常に満足」と回答するなど、成果につながった取り組みといえます。
また、チャットでの接客によって「顧客がどの商品を比較しているのか」「どのポイントで悩んでいるのか」など、数字に表れない顧客のフリクション（購買に至るまでの障壁）の可視化も実現しました。ネット上では売り切れの商品も、チャットを通じて相談することにより、店舗から在庫を取り寄せるOMO施策も導入するなど、新サービスの提供も功を奏しています。
店舗接客経験のあるベテラン社員を中心にチャット専属スタッフを構成するなど、チャットを通じた顧客とのコミュニケーションを重んじる姿勢は、同社のECサービス向上に貢献しているといえるでしょう。
株式会社ジュンの近年の動向
以下では、株式会社ジュンの近年の動向をピックアップして紹介します。
Shopify Plus導入でEC・リアル店舗相互での顧客体験実現を目指す
株式会社ジュンでは自社ECをリニューアルし、人気ECプラットフォームであるShopifyの上位サービス「Shopify Plus」をシステム基盤とし、2021年5月より稼働させています。
クレジットカード払いはもちろん、d払いやAmazon pay 、Paidyによるあと払いなども利用可能となり、おもに決済面でのサービス改善が進みました。
日本ワイン専門EC「ワシュ」オープン、ワイナリーとの共同開発アイテムを発売
2020年12月、株式会社ジュンは国産ワインに特化したEC「ワシュ オフィシャルオンラインショップ（wa-syu OFFICIAL ONLINE SHOP）」をオープンしました。
同サイトでは、1979年より山梨県でワイナリーを運営する自社のブランドワインはもちろん、全国のワイナリーから厳選した希少価値の高い銘柄など、500銘柄以上の日本ワインを取り扱っています。
近隣店舗からのダイレクト発送を実現する新システムを導入
2022年10月、株式会社ジュンは自社店舗から顧客へ商品をダイレクトに発送する「マイクロフルフィルメントシステム」サービスをスタートしました。
従来の配送フローの場合、大規模な物流センターを経由するケースもあり、商品がユーザーの手元に届くまでにタイムラグが発生することがありました。そこでジュンでは、同システムを順次実装することで、既存の店舗や営業所など、顧客の近くにある小規模の倉庫からでも配送できる体制を実現させています。最終的には全店舗の在庫がシステムに統合される見込みです。
株式会社ジュンの気になるトピックス
そのほか、株式会社ジュンの気になるトピックスを以下でまとめています。
日本生まれのものづくりを発信する「NIPPON CULTURE by SALON」をスタート
ジュンが運営する「SALON adam et ropé」では、日本の技術とものづくりにこだわって生み出されるアイテムを「NIPPON CULTURE」と題し、持続可能な社会を目指して、さまざまな取り組みを実施する。
2022年8月30日：【VIS（ビス）】2022秋冬シーズンより、ブランドロゴを一新。新たなブランドコンセプトのもと、より上質で、高感度なブランドへ
ジュンが運営する「VIS（ビス）」は、2022秋冬シーズンより、ブランドロゴを一新。新たなブランドコンセプトのもと、より上質で、高感度なブランドへと進化する。
2021年10月4日：ジュングループが不要なダウン製品を回収する新キャンペーンをスタート
全国のジュングループ134店舗では、10月1日(金)よりダウン製品を回収し、SDGs活動の一環としてサステナブルなライフスタイルを積極的に提案していく。
2021年7月20日：ジュンのビューティブランド「ポロロッカ」誕生、植物の力でトータルウェルネスをサポート
ジュングループから、トータルビューティブランド「ポロロッカ（Pororoca）」がデビューした。ファッションやフード、フィットネスなど多様な事業を展開してきた同グループの知見を活かし、知性と感性に働きかける新時代のウェルネスビューティを提案。
まとめ
メンズスイムウェアの販売からスタートした株式会社ジュンは、独自のヨーロピアンスタイルを強みに瞬く間に巨大アパレル企業として成長しました。さまざまな事業に携わる同社ですが、全国に展開する実店舗とECの融合にも取り組んでおり、優れたチャットサービスを提供するなどして、顧客体験価値の向上に努めています。
最近ではワインのECもスタートさせるなど、今後も同社のEC事業の多角化に注目したいところです。
