矢野経済研究所は、国内食品宅配市場を調査し、業態別8分野の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。
2020年度国内食品宅配市場概況
2020年度の食品宅配市場規模(主要8分野合計値)は、前年度比114.3%の2兆4,969億円と推計。
2016年度に2兆円の大台に乗り、少子高齢化の進行で国内の食関連市場が縮小傾向にあるなかでも、成長を続けてきた。2020年度の食品宅配市場は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で宅配需要が急拡大し、近年稀に見る二桁成長を記録した。 これまでも、少子高齢化や女性の社会進出といった社会的要請を受けて、食品宅配サービスは年々、その重要性を増してきた。コロナ禍で一気に注目を集めた形だが、引き続き異業種のみならず、業態間の競争も激化している。
注目トピック~新時代のフードデリバリーサービス(ゴーストレストラン)市場
新型コロナウイルスの感染拡大以降、飲食店のデリバリーサービスが充実するなかで、店内に飲食スペースのないキッチンのみの飲食店が注目を集めている。ゴーストレストランやバーチャルレストランなどと呼ばれ、複数の店舗が共同利用する施設の場合はクラウドキッチンやシェアキッチンとも呼ばれる。
ゴーストレストランは米国発祥と言われ、主にネットで注文を受けて店舗(キッチン)で調理を行い、デリバリーで顧客に料理を届けるサービス形態である。来店客がいないため店舗の立地にこだわる必要がなく、ホール(飲食スペース)やスタッフルームといったスペースも接客のための従業員も不要なことから、開業コストを大幅に削減できる。クラウドキッチンを複数の店舗でシェアすれば、より少ない資金で出店することも可能である。また、従来の飲食店が空き時間を利用して、別業態(ブランド)のゴーストレストランを展開するスタイルもあり、コロナ禍で来店客が激減している飲食店の新たな“副業”としても注目されている。
ゴーストレストランの躍進に不可欠なのが、宅配代行サービスの「出前館」や「Uber Eats」といったプラットフォーム事業者である。ゴーストレストランは通常、集客や注文受付、配達、集金といった業務を自らは行わず、プラットフォーム事業者にアウトソースすることで係る時間と労力、コストを削減、調理に集中することができる。
外食・中食・給食業界におけるデリバリーサービス(宅配事業)の実施状況を把握するため、2021年7月に日本全国の主要な外食・中食・給食業者80社に対して電話によるアンケート調査を実施したところ、過半数(53.8%)がデリバリーサービスを実施していた。また、デリバリーサービスの受注・配達方法として最も多かったのは、「宅配代行サービス(Uber Eats、出前館等)の受注・配達システムを利用」(55.8%)であり、プラットフォームの進化と充実がゴーストレストランに代表される新時代のフードデリバリーサービス市場の拡大を支えていることが示された。
将来展望
食品宅配市場は2020年度から2025年度までのCAGR(年平均成長率)が3.3%と引き続き順調に推移し、2025年度の食品宅配市場規模(主要8分野合計値)は2兆9,321億円に達すると予測。コロナ禍を契機として急拡大した市場は、感染収束の兆しが見えないなかで2021年度以降も拡大を続けており、今後はフードデリバリーの日常利用が進んで、生活に不可欠なサービスとして定着するものと考察している。
調査要綱
- 調査期間: 2021年6月~8月
- 調査対象: 在宅配食・食材(惣菜)宅配サービス企業、ファストフード・外食チェーン店運営企業、生協、小売・百貨店、乳業メーカー、その他食品宅配関連企業・団体等
- 調査方法: 同社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話・e-mailによるヒアリング取材、ならびにアンケート調査併用
- 発刊日:2021年08月31日