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小売業者に必要な三つの視点
過去5回にわたり連載してきた「小売りの変革」。最終回となる今回は、これからの小売りの在り方を考えたい。
前回までに、小売業者にとって「DXによるオムニチャネル化」「顧客との関係性を強めるD2C化」が、コロナ禍を生き残るためにも必要だったと説明した。
こうした取り組みと同時に、小売業者はより多くのファーストパーティデータを収集して、CRMの進化やリテールメディアによる収益性の改善を目指す。ファーストパーティデータの強化を見据えたビジネスを展開していく。
不確実性の高い時代が続く中でも、確実に小売業者が向き合っていかなければならない事項を三つ提言しよう。
- AI/生成AIの有効活用
- サーキュラーエコノミーに即したビジネスへの変革
- 人の働き方と新たなキャリアデザイン
AI/生成AIの有効活用
2024年は、AI/生成AIが本格的に民主化されるはずだ。厳密には、既に民主化されているツールを、多くの企業が取り入れることになるだろう。
2024年1月14日~16日まで、米国のニューヨークで開催された「NRF 2024:Retail's Big Show」には、約4万人の小売り関係者が集結。190以上のセッションから、2024年以降の小売りの在り方を確認するイベントとなった。
ほとんどのセッションやブースは、AI/生成AIの話題で溢れていた。NRFのスポンサー企業が、AI/生成AIを組み込んだ自社ツールやそれらを活用した事例を発表する場と化していた。
その象徴ともいえるのが、ウォルマートUS CEO ジョン・ファーナー氏と、セールスフォース 会長/CEO マーク・ベニオフ氏の対談だ。
マーク・ベニオフ氏は「10年以上前から『Salesforce Einstein』を軸としたAI/生成AI活用を行ってきた。現在では、1週間のうち1兆件の取引に当社のAI/生成AIが関わっている」と語った。その効果として、セールスフォースの生成AI製品を導入した「GUCCI」の売上高が、ほぼ一晩で30%増加したという驚きの数字を公表した。
これは、顧客との通話中に追加の商品情報を提供するという生成AI技術によるもの。マーク・ベニオフ氏は、「GUCCIは生成AIでカスタマーサービスを“まったく別のレベル”に引き上げた」と伝えた。さらに、「AI/生成AIは小売業界の雇用を奪うのではなく、従業員のパワーを増強させる」と、ジョン・ファーナー氏と共通の見解を示した。