実店舗が賑わうにつれ離れていく優良顧客
コロナ禍は小売業界にとって未曾有の危機だったとともに、変革の大きなきっかけとなったのは間違いない。実店舗を閉めることを余儀なくされた結果、eコマースやライブコマースが強化された。従業員と顧客の接触頻度や時間を減らすために、コンタクトレス決済の導入やBOPIS/BORIS、カーブサイドピックアップなど、買い物の多様化も進められた。
これらのデジタル投資は、いつ終わるかわからないコロナ禍において素早い対応が求められた。デジタル化が遅れていた企業が経営危機に追い込まれていると、ニュースなどで見聞きした人も多いだろう。
コロナ禍の混乱が落ち着くと、リベンジ消費の動きでリアル回帰が起き、実店舗が賑わいを取り戻した。今の日本では、多くの小売業がコロナ禍前の2019年を上回る業績で盛り上がっている。
実店舗に活気が戻り店員が忙しくなるのは、一般的には良いことなのだが、インフレが進む中この状況が長く続くとは思えない。実店舗に顧客がいるから上手くいっているという幻想を捨てなければならない。
必要以上に混雑している実店舗で、求めていた接客が受けられずに帰ってしまう優良顧客はいないだろうか。このままでは、実店舗やレジにできる行列を見て、「忙しい、忙しい」と喜んでいる昭和の光景に逆戻りである。
百貨店などは、特にこの傾向が強い。様々なオンライン上の接点を持つことで多くの顧客が来店するようになった。訪日外国人の復活もあり、実店舗は入場制限をするなどの対応を強いられている。
こうした企業は、SNSなどで多くの人に情報が届き、比較的購入しやすい価格の商品が増えたことで集客が進んだ。しかし、その結果、LTVの低い一見客が増え、本来重視しなければならないLTVの高い優良顧客が実店舗に入れない、求める商品を買えないなどを理由に離反する状況となっているのだ。
この課題に対応するには、「接客を求める顧客」「接客することでLTVが上がる顧客」「目的の商品だけが欲しい顧客」「ただ情報をみて他社含むeコマースで購入する顧客」など、顧客の特性を見極める必要があるだろう。
つまり、顧客の利便性により過ぎていたコロナ禍のDXを、企業の利益向上システムに変えていかなければならない。