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Cookie完全廃止の撤回から見えるGoogleの苦悩
2024年7月22日にGoogleがブログにて発表した「ウェブ向けプライバシーサンドボックスの新しいアプローチ」。2020年に告知されたサードパーティCookie廃止の方針を、当初の計画の2022年以降、3度にわたり延期した上で下された今回の発表は、実質直近でのCookie完全廃止を断念した形といえる。
「今回の発表について、GoogleはサードパーティCookie廃止を見送る代わりに『ユーザーが選択できる新たなアプローチを提案します』と語っています。英国の競争・市場庁(CMA)、情報コミッショナーオフィス(ICO)などといった規制当局やパブリッシャー、ウェブ開発者など、様々な関係者からのフィードバックを踏まえた上での決断だといいますが、プライバシーサンドボックスで描いていた理想図は、正直実現するのがかなり難しい設計だったと思います。開発と関係各所との調整の折り合いが付かず、いったん白紙にして他の道を探りますというのが、本当のところなのではないでしょうか」
プライバシーサンドボックスは、ユーザーのプライバシー保護を強化した新たな技術の構築を目指すべく、Googleが主導で開発を進めていた取り組みで、パブリッシャーやウェブ開発者、広告業界関係者など、あらゆる業界関係者を巻き込んで進められていた。
イメージとしては、ユーザーの匿名性を保つためにGoogle自身もアクセスできないボックス(箱)を設置し、その中に同取り組みに賛同するパブリッシャーが収集した匿名データを蓄積。プライバシーの保護と、既存のターゲティング広告などの仕組みを両立させる、新たなエコシステムの構築が目指す先であった。
しかし、この仕組みはGoogle1社だけでは実現できず、既存のアドテク企業などの手を借りる必要がある。サードパーティCookie廃止の流れや、リテールメディアなど新時代の広告枠出現を経て、各社が新たなDSP(Demand-Side Platform)を構築するなど、足並みがそろわない状況が続いたのも、Googleにとっては痛手だったといえるだろう。
また、「既存市場での地位を強化するような形でプライバシーサンドボックスの提案を設計、開発、使用しないようにする」「運営面での長期的なガバナンス体制を明確にする」など、CMAから提示された条件の調整が難航した点も、今回の発表につながったと考えられる。
「プライバシーサンドボックスの整備を行っていた主な理由は、Googleディスプレイ広告(GDN)やGoogle AdSenseのターゲティング精度を可能なかぎり保つためですが、Googleからすれば、既にこれらで得る売上よりもYouTube単体から得る広告収益のほうが大きいのが実情です。売上の伸びしろや今後期待できる成長率の割に調整に苦戦していた点も、今回の判断につながるのではないかと私は推察しています」
なお、前出のようにGoogleはプライバシーサンドボックスの整備を完全に諦めたわけではなく、「ユーザーが選択できる新しいアプローチを提案する」と語っている。こうした語り口を見て、岡田氏は「エコシステムの整備や規制当局などとの調整、テクノロジー面の環境が整えば新たな仕組みがリリースされるかもしれない」と前置きした上で、こう続けた。
「今は、技術のスタンダードが変わるタイミングなのでしょう。『Cookie廃止が見送られたからもう気にしなくて良い』のではなく、今後もGoogleの動きは気にかけておくべきだといえます」