最近では、インターネット上で衣服を購入したり、コーディネートを楽しんだりすることは珍しいことではありません。アパレル業界においてもDX化が進んでおり、各企業がさまざまな取り組みを進めているのです。
一方で、アパレル業界はDX化が遅いともいわれています。アパレル業界におけるDXの動きや課題点、具体的な事例などを詳しく知ることで、その実態を把握していきましょう。
アパレル業界がDXを推進するうえで抱えている課題と施策
アパレル業界のDX化は、他の業界と比べてまだまだ進んでいないとされています。ここでは、どのような課題を抱えているのか見ていきましょう。
試着できる工夫が必要
アパレルでは商品の性質上、試着というプロセスが重要になります。サイズや色が自分に似合っているかを判断するには、現物を手に取って確認しないと不安な面があるのです。
そのため最近では、試着をして合わなければ返却ができるサービスなど、気軽にインターネットで注文できる仕組みを整えている企業も増えつつあります。
また、AIを活用してユーザーに似合った服のコーディネートをWeb上で確かめられるサービスを展開している企業も出てきているので、アパレル業界にもDX化の流れが浸透しつつあるといえるでしょう。
「試してみたい」「実際に見てみたい」という顧客のニーズにデジタル技術をうまく掛け合わせて顧客満足度を高めていくことが、アパレル業界のDX化の課題なのです。
顧客ニーズの把握が不足している
これまでアパレル業界は、自らトレンドを生み出し消費者に提供していくというスタイルをとっていたため、顧客データの収集や分析は十分ではありませんでした。また、販売スキルは属人的な要素が強く、オンラインでの販売に反映しづらい点も課題となっています。
しかし、顧客のニーズをうまく捉えられない場合、競合他社と同じような商品を提供することになり、ブランドとの差別化が困難になります。顧客のニーズをスタッフや店舗間で共有し、きめ細かなサービスを提供するためにも、統合的なデータベースの構築が必要といえるでしょう。
アパレル業界がDXに取り組むときの施策例
アパレル業界におけるDX化の例にはさまざまなものがあります。たとえば、展示会やファッションショーをデジタル化し、現地に出向くことができない人に対して情報発信する方法もその例です。
また、実店舗の販売にこだわらずに、オンラインでの販売に力を入れてみる方法も効果的です。ECサイトから注文して、受け取りは実店舗で行うといったように、顧客のニーズに対応できる仕組みを整えてみましょう。
さらに、RFIDタグを活用した在庫管理によって作業負担を軽減することもできます。RFIDとは、電波を使ってタグデータを非接触で読み書きするシステムのことで、電波が届く範囲であれば高い棚に置かれた商品のタグも脚立を使わずに読み取りが可能です。
このほか、AIを活用したデジタル採寸などを取り入れる方法も有用でしょう。デジタル採寸とは、身長や体重を入力して、正面と側面の写真を撮影して登録すれば、胸囲や裾まわりなどをAIが自動的に計算してくれる仕組みのことです。オンライン通販での返品率を下げることにもつながり、店舗と顧客の双方にとってメリットがあります。
アパレル業界がDX化するメリット
アパレル業界におけるDX化は、さまざまなメリットをもたらします。ここでは、具体的にどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
顧客満足度の向上につなげられる
DX化によって、商品の検品や採寸などから得られる多様なデータを一元的に管理・共有することで、作業効率や組織全体の生産性を高めていくことにつながります。
また、顧客の個人情報や好み、ニーズといったものをデータベース化することで、顧客一人ひとりに合った提案を行うことも可能です。
さらに、顧客が使うアプリをスタッフも利用したり、チャットツールやビデオアプリなどを積極的に活用したりすることも、よりきめ細かな顧客のフォローアップにつながります。
顧客ごとにきめ細かな接客や提案ができるようになるので、顧客満足度を高めることにもつながるでしょう。
業務の効率化を図ることができる
店舗の運営そのものをDX化していけば、少ない人数でも店舗を維持できるようになり、コストの削減につながります。
たとえば、タブレット端末やハンズフリーデバイスなどを導入することで、商品の補充やレジのフォローなどが少人数でも効率的に行えるようになります。
スタッフの無駄な動きを減らすことは、労働環境の改善にもつながるため、現場スタッフの意見も取り入れながら、デジタル端末などを活用していきましょう。
DXの導入によって発生するデメリット
DX化には多くのメリットがある一方で、気を付けておきたいデメリットも少なからずあります。 デメリットとしておもに2つの点があるので、事前に対策を練っておきましょう。
個人情報の取り扱いに注意する
DX化を進めていくにあたっては、オンライン上でのプロセスが増えるため、セキュリティ対策を強化する必要があります。顧客の個人情報の取り扱いに問題がある場合、ブランドや企業の信用やイメージに影響するため、個人情報の取り扱いには十分な注意が必要です。
また、データ管理には常に情報漏えいのリスクが伴うため、運用システムを最新の状態にアップデートしたり、定期的にメンテナンスを実施したりする必要もあります。
システムの導入コストがかかる
一口にDX化といっても、顧客対応や店舗管理など、その内容は多岐にわたります。
顧客情報や在庫情報などのデータベースを構築するには、大きなコストがかかるため、DX化を積極的に推し進めていく一方で、自社にとってどのようなシステムが必要であるかを精査することが大切です。
導入後の運用面も考慮してシステムを選び、無駄なコストを減らしていきましょう。
アパレル業界におけるDXの導入事例
アパレル業界に属する企業のなかには、DX化を率先して推し進めている企業が複数あります。そのなかでも特に目立った動きを見せている3社の事例を紹介します。
ZOZOTOWN
衣料品のインターネット通販で知名度のあるZOZOTOWNでは、一部の商品を対象に「マルチサイズプラットフォーム」(MSP)というサービスを実施しています。身長と体重を入力すると、自分の体のサイズにあったおすすめの商品を紹介してくれるサービスで、ユーザーがサイズ選びで迷わないよう配慮がされている点が特徴です。
また、MSPでは単純に既存のサイズを提案するのではなく、ユーザーに合わせて縦と横のサイズを組み合わせた商品を提案することもできます。縦は長めで横はスリムに、など個々の体型に合わせて衣服のサイズを調整することができるのです。
そもそもZOZOTOWNの場合は、このMSPの商品開発を効率化するためにDX化を推し進めてきました。DX化の具体的な内容としてはまず、洗濯方法などが表記されたケアラベルの自動化が挙げられます。
ケアラベルが自動化される前は、デザイナーが1種類ずつケアラベルのレイアウトを行っていましたが、繁忙期には作業量が多くなってしまうことが課題となっていました。
解決のためにケアラベルの自動化が進められ、最終的に人手が必要な部分は表示内容を決める部分の工程だけとなりました。
そのほかにも、検寸データや検品データなどを連携させることによって、作業の効率化を図っています。
グンゼ
下着メーカーとして知られるグンゼ株式会社では、着用するだけで消費カロリーや心拍数がわかるウェアラブル端末の機能を備えた服を開発しました。電気を通す導電性繊維と、体が発する信号をキャッチするためのセンサーなどが組み込まれた薄型デバイスを組み合わせて作られています。
服は常に身に着けているものだからこそ、健康管理をスムーズ行うことができます。下着メーカーならではのDX化だといえるでしょう。
Badgley Mischka(バッジェリーミシュカ)
高級ブランドのBadgley Mischka(バッジェリーミシュカ)では、ファッションショーをDX化しています。
従来ファッションショーの招待客は限定されていましたが、SNSでファションショーを配信することで、関心のある消費者に広く商品の魅力を伝えることができるようになりました。
また、ランウェイを歩いているモデルの服に小型の装置を付けることで、視聴者が服の情報を得られるような仕組みも整えています。
さらに、視聴者は「いいね」ボタンを押して評価できるようになっているため、主催者側は消費者の反応をリアルタイムに把握することが可能です。
このように、バッジェリーミシュカではファッションショーの情報提供と、視聴者のリアルな声を収集するために、DX化を進めているといえます。集めた情報を次の商品の開発のヒントにすることで、ユーザーニーズに沿った商品展開ができる環境を整えようとしているのです。
まとめ:DXの特性を把握してアパレルの分野でも活用してみよう
顧客ニーズの変化とともに、DX化の流れはさまざまな業界で起こっています。アパレル業界においてもDX化の流れは広まってきており、RFIDタグの活用やデジタル採寸の導入、ファッションショーのデジタル化など、その内容も多彩です。
DX化を進めて顧客データを一元的に管理することで、オンラインでもオフラインでもきめ細かな接客を行えるようになります。自社に合った形でDX化を推進し、作業の効率化や顧客満足度の向上につなげてみましょう。