昨今はさまざまな業界にデジタル化の波が迫っており、ユーザーの購買行動にも影響を与えています。アパレル業界も同様で、実店舗が苦戦を強いられるなど、ECサイト経由での売上が拡大しています。
今回は、そんなアパレルECサイト種類や実例、発生する課題に対する対応策について解説します。
アパレル業界におけるECサイトの市場規模と業界動向
新型コロナウイルスのパンデミックを機に、多くの業界が従来通りの事業展開を行うことが難しくなりました。アパレル業界も例外ではなく、ユーザーの購買行動に大きな変化が発生しています。実店舗における購入機会が減少し、代わりにECサイトでの商品購入が増えたのです。
1-1.アパレル業界の近年の傾向
まず、直近のアパレル業界全体の売上推移を見てみましょう。株式会社矢野経済研究所が公開している資料によると、2020年の時点で日本のアパレル業界市場規模は以下のように縮小しています。
2020年の国内アパレル総小売市場規模は7兆5,158億円で、前年比約81.9%と大幅に減少しています。
このように、アパレル業界全体の市場は縮小傾向にある一方、アパレルEC市場は拡大しています。経済産業省が公開している「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」によると、多くの業界においてE C市場は拡大傾向にあり、「⑥衣類・服飾雑貨等」に該当するアパレルEC市場も同様です。
前述の矢野経済研究所の報告書で市場を販売チャネルごとに見てみると、百貨店や量販店、専門店といった実店舗は苦戦を強いられており、ECサイトや通販などだけが売上を伸ばしているということが分かります。
1-2.アパレルEC拡大の要因
アパレルECの市場規模が拡大している要因としては、各社が行っているデジタル化の推進が挙げられます。多くの実店舗の閉店や撤退が相次ぐ状況下において、設備投資や人件費コストが抑えられるECにシフトしているのです。
また2021年のデジタル庁発足など、国家レベルで急速なDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいることもアパレルEC市場に影響を与えている要因のひとつといえるでしょう。
さらには、「スマートフォンの普及」「新型コロナウイルスのパンデミック」が重なったことによるユーザーの購買行動の変化も、アパレルEC市場が拡大している背景といえます。
以上の要素を勘案すれば、アパレル企業が今後EC事業にリソースを割く意義は大いにあるといえるでしょう。
アパレル系ECサイトの種類と特徴
企業が運営するアパレル系ECサイト(消費者間ECサイトは除く)は、大きく3種類に分けられます。それぞれの特徴について見ていきましょう。
メーカー・ブランド直販型
「メーカー・ブランド直販型」は、メーカーやブランドの実店舗を持つ企業がオンライン上で商品を直接ユーザーに販売するためのECサイトです。近年、グローバル規模で拡大している形態でもあります。
運営方針を自社で決められるため、SNSなどと連携したブランド価値の訴求やユーザーとの距離の近いコミュニケーションによるロイヤリティの向上が期待できます。また、出店料や手数料などのコストが発生しないため利益率が高い点もメリットです。
一方で、集客しなければユーザーは訪れないため、SEO対策や広告配信などに積極的に取り組む必要がある点には注意しましょう。
モール型
多種多様なブランドが単一のECサイト上にまとまっている点が、「モール型」の特徴です。
モール型は、「ZOZOTOWN」のようにアパレルのみを販売する「特化型」と、アパレル以外も取り扱う「Amazon」や「楽天市場」のような「総合型」に分けられます。
規模感の大きなアパレル企業にとって、モール型ECは小売店と同じく販路の一つとして活用可能です。一方で、ECサイト内に自社ブランドを出店することになるため、ユーザーとのコミュニケーションを取りづらかったり、システムの仕様や利用規約などの制約を受けたりする点がネックです。
サブスクリプション型(シェアリングエコノミー)
「サブスクリプション型」は、プラットフォームを通じて自社商品をユーザーに貸し出す形のECサイトです。モノや技術などの資産をオンライン上で取引する「シェアリングエコノミー」のECビジネスとして、近年注目が集まっています。
商品のクリーニングやメンテナンスはプラットフォーマー側で行うことが一般的で、企業は最小限の負担で利益を得られる点が特徴です。さらには、近年問題となっている衣料品の廃棄問題を解決する手段の一つにもなり、サステナブルな社会に向けた取り組みとしても有用です。
一方で、ユーザーが一度に支払う金額が少額のため、利益が出るまでに時間がかかる点はデメリットといえるでしょう。
アパレルECで売上トップの各社の特徴
ここでは、アパレルEC市場において成功を収めている企業の事例を紹介します。日本ネット経済新聞によると、2020年におけるアパレルEC売上ランキングでは、以下の5社が上位にランクインしました。
- 株式会社UNIQLO(ユニクロ)
- 株式会社ベイクルーズ
- 株式会社アダストリア
- 株式会社オンワードホールディングス
- 株式会社TSIホールディングス
各社のECサイトの売上高や特徴について見ていきましょう。
1位UNIQLO(ユニクロ)
日本のファストファッションの代表的企業である株式会社ユニクロは、2020年度アパレルEC売上高ランキングで1位を獲得しました。同年のECサイトの売上高は1,269億円と、2位のベイクルーズとは、約2倍もの差があります。
そんなユニクロのECサイトの特徴は、ECサイトと実店舗、アプリを連携させた「オムニチャネル戦略」です。
2017年以降「いつでも、どこでも」をテーマに、オムニチャネル化に取り組んでいる同社は、ECサイトと連携させた自社アプリにも力を入れています。アプリで買い物をするだけでなく、会員証として活用したり、アプリ限定クーポンを発行して実店舗に送客したりするなど、総合的な売上拡大を図っています。
さらには、チャットボットによる在庫確認やサイズ選びのサポートなど、よりコンバージョン率の上昇につながる機能を自社ECサイトに実装しています。
こういったユニクロの施策例は、直販型の自社ECサイトで売上拡大を図る際の参考となるでしょう。
2位 ベイクルーズ
2位は株式会社ベイクルーズで、2020年のEC売上高は545億円です。1位の株式会社ユニクロとは大きく差があるものの、前年比の成長率自体はユニクロと比較しても遜色ありません。ベイクルーズは、グループ会社で飲食業も展開しています。
ライセンスを持っているファッションブランドは、「JORNAL STANDARD(ジャーナルスタンダード)」や「NOBLE(ノーブル)」「IENA(イエナ)」「Spick & Span(スピック&スパン)」などで、単価が高めの傾向があります。
ベイクルーズが運営するECサイトの特徴としては、グループ総合の直販型ECサイトである点や、スタッフのスナップ写真やブログ、特集記事などのコンテンツ作成を行っている点などが挙げられます。
ベイクルーズではユニクロと同じくオムニチャネル戦略を実施し、自社ブランドの実店舗とECサイト間を相互につなげる施策を行っています。これにより、実店舗・ECサイト間で相互に送客が可能になり、売上拡大につながりました。
さらに、スタッフが商品を着用したスナップ写真や記事コンテンツの作成などを行うことにより、ECサイト内におけるUX(顧客体験)向上を図っている点も特徴といえます。
スナップ写真や記事コンテンツの掲載といった取り組みは、ユーザーの購買意欲を高めるうえで有効な施策になり得るでしょう。
3位 アダストリア
2020年度のEC売上高ランキング3位の株式会社アダストリアが運営するECサイト「.St(ドットエスティ)」では、538億円を売り上げました。コロナ禍におけるオンライン接客への取り組みも話題になっており、2020年に3ヶ月間で会員数が約20万人も増えるなど、目覚ましい規模感拡大を実現しています。
アダストリアがライセンスを保有するブランドは、「GLOBAL WORK (グローバルワーク)」や「niko and…(ニコアンド)」「LAKOLE(ラコレ)」などです。ECサイトでは、衣料品以外に生活雑貨も取り扱っています。
アダストリアのECサイトは、ベイクルーズと同様にスタッフによるスナップ写真の投稿に力を入れている点が特徴的です。
アダストリアは、コロナ禍で実店舗の運営に大きく制限がかかってしまったタイミングで、2018年から実施していたスナップ写真掲載コンテンツである「STAFF BOARD」への参加スタッフ数を約1.5倍に増強しました。
それによりコンテンツの拡充を図り、店頭での比較検討が難しくなったユーザーに対して、なるべく多くの商品の着用感を伝える工夫を凝らしたのです。
さらに、より実店舗に近い形で購入してもらうため、Instagramのライブ配信機能を活用した、スタッフによるオンライン接客も実施しています。ライブ配信では、ユーザーが質問を投げかけたりスタッフがコーディネートを提示したりするなど、実店舗にいるような接客サービスを体験できます。
ほかにも、商品購入後にレビューするとアダストリアECサイト内で使えるポイントを付与するなどのキャンペーンも実施していました。商品購入までのハードルを下げるためにレビューを集める施策で、結果的に投稿件数は前年比150%以上となりました。
このようなアダストリアの取り組みは、ECサイトにおける顧客との接点構築や具体的なコミュニケーション方法を考える際の参考となるでしょう。
4位 オンワードホールディングス
2020年度のEC売上高ランキング4位は、総額415億円を売り上げた株式会社オンワードホールディングスです。同社はアパレル事業だけでなく、ライフスタイル関連の事業を展開しています。
同社は1927年に樫山商店として創業後、さまざまな合併や新規市場への参入を経て、2007年に現在のオンワードホールディングスに商号変更した経緯があります。
オンワードホールディングスでは、「23区」や「Paul Smith(ポール・スミス)」「ANA SUI(アナスイ)」といった、百貨店にも出店される商品単価の高いブランドを取り扱っている点が特徴です。売上構成のうち、ECサイトは3割程度と、実店舗のみならずオンラインでも売り上げが好調に推移しています。
5位 TSIホールディングス
5位の株式会社TSIホールディングスが運営するECサイトは、2020年度に406億円の売上高を記録しました。同社は、グループ企業で飲食事業も大々的に展開しています。
レディース・メンズを問わず幅広いブランドを取り扱っており、代表的なブランドとしては「nano universe(ナノユニバース)」や「JILLSTUART(ジルスチュアート)」、「MARGARET HOWELL(マーガレット・ハウエル)」などが挙げられます。
TSIホールディングスが運営するECサイトの特徴は、ユーザーをロイヤルカスタマー化させるための以下のような施策にあります。
- 会員登録で決済時に3%のポイント還元
- 会員ランクに応じた最大10%のポイントバック
- 無料ギフトラッピングサービス
- ロイヤルカスタマー向けの受注会や展示会、オンライン限定カスタムオーダーの実施
TSIホールディングスがライセンスを保有するブランドは、ZOZOTWONなどのモール型ECサイトにも出店しているため、自社ECサイトを伸ばすには差別化が必要でした。そこで上記のような取り組みを行い、ユーザーが自社のECサイトで商品を購入するメリットを明確化させたのです。
同社のようにモール型ECサイトに対して自社ECサイトの優位性を形づくり、ユーザーのロイヤリティを高める施策は有効でしょう。
特に、すでにモール型ECサイトで商品を取り扱っている企業の場合は、積極的に参考にできる事例といえます。自社ECサイトならではの強みを構築できれば、モール型ECサイトへの依存からも脱却可能でしょう。
アパレルECの課題
アパレルEC市場は拡大傾向にあると前述しました。しかし、現状ではいくつかの課題も抱えています。
ここではアパレルEC市場における代表的な課題と、それに対する施策について解説します。
アパレル実店舗との差別化が必要
日本ではアパレル業界における人口あたりの実店舗の数が、アメリカやイギリスと比較して多い傾向があります。経済産業省が公開している調査資料によると、2018年における小売店舗数は以下のとおりです。
上記データの調査年である2018年以降、新型コロナウイルスのウイルスの影響により多くの実店舗が閉店したとはいえ、日本におけるアパレル実店舗はいまだ多く存在すると想定できます。そのため、日本でアパレルEC事業を推し進める場合、実店舗にはない付加価値をユーザーに提供し、差別化を図る必要があるでしょう。
たとえば、メンズアパレルECサイト「Dcollection(Dコレ)」では、メンズ向けのファッション情報や着こなしポイントなどを解説するYouTube動画を公開し、売上拡大につなげています。
実際に商品を着た印象をすぐに確認できる点は、実店舗にはない、ECサイトならではの魅力といえるでしょう。
エンドユーザー視点ではサイズがわかりづらい
ECサイトで衣料品を購入するユーザーにとって、「自分に合ったサイズがわかりづらい」という点は、購入意思決定の妨げになりがちです。そのため、アパレルECを運営する際には、この課題を解消するための何かしらの施策が求められます。
たとえば、ユーザーにいくつかの質問に答えてもらうことで、おすすめのサイズを提示する機能の実装なども有効です。ユニクロが提供している「MySize ASSIST(マイサイズアシスト)」機能では、ユーザーがいくつかの質問に回答すると、おすすめのサイズがサジェストされます。
また、購入後にサイズが合わなかった場合に備えて、商品を返品しやすい仕組みを作っておくこともユーザー視点では有効です。
在庫の一元管理が求められる
直販型とモール型のECサイト両方を運用する場合、自社商品の在庫管理が課題になることがあります。自社ECで販売する商品は自社倉庫で管理できますが、モール型ECで販売する商品在庫はプラットフォーマー側の倉庫に送らなければならないケースがあるため、在庫管理を一元化できない可能性があるのです。
特にアパレル市場は、シーズンによって商品の売れ行きが大きく変動するため、売れ残りの商品が発生した場合は大きな損失が生まれます。そのため、複数のECサイトを利用する際にも、在庫を一元的に管理したうえで効率よく運用するための体制を構築しなければなりません。
このような課題を解決するシステムのひとつが、2019年10月に株式会社ZOZOの子会社である株式会社アラタナからリリースされた「Fulfillment by ZOZO(フルフィルメント バイ ゾゾ)」です。
同サービスでは、自社ECサイトで販売する分も含めた在庫の全てを、ZOZOTOWN管理の倉庫「ZOZOBASE」に預け、一元管理できます。各販売チャネルと連携しながらZOZOTOWN側が在庫をまとめて管理するため、効率的な販売が可能です。
サービスを利用するためにはZOZOTOWNへの出店が前提となりますが、複数のECサイトを運用している場合は、欠品などによる販売機会損失の最小化や在庫管理の効率化が期待できるでしょう。
自社ECでの集客や新規獲得が難しい
アパレルEC市場では、ZOZOTOWNやAmazonをはじめとするモール型ECサイトの集客力が目立ちます。とはいえ、包括的に安定した売り上げを実現するためには、モール型ECサイトに依存するのではなく、自社ECサイトの構築・運用も必要です。
前述のとおり、ユーザーのロイヤリティを高めるうえでは、自社ブランドの直販型ECサイトを構築し、運用する方法が望ましいといえます。しかし、サイト構築には多くの費用がかかり、構築後も戦略的なマーケティングの実施による集客増を図らなければなりません。
自社ECサイトでより多くの流入を獲得し、売上を伸ばすためのマーケティング施策には、以下のようなものがあります。
- SEO
- デジタル広告
- SNSアカウントの運用
- インフルエンサーマーケティング
ECで新規顧客の認知を獲得するためには、検索結果上の表示順位を上げるSEO対策や、Webサイトやストリーミングコンテンツなどのオンラインチャネルを通じたデジタル広告運用が有用です。
そのほか、SNSアカウントの運用やインフルエンサーマーケティングも有効といえます。
まとめ
アパレルEC市場が拡大している背景には、社会情勢やユーザーの購買行動の変化などが挙げられます。また、各社が取り組んでいる売上拡大のための戦略も、大幅な市場規模の増加に寄与しているといえるでしょう。
アパレルEC市場の拡大傾向は今後も続くと予想されます。本稿で紹介した課題を踏まえつつ、上位企業の施策なども参考にしながら、EC売上拡大につなげていきましょう。