顧客軸のデータ連携を シングルソース化の鍵を握る4つの要件とは
デジタル化が進む中で、すでに多くの企業がデータの分断が成長を阻害すると認識し、データ連携の取り組みそのものは進んでいる。しかし、「その多くは社内プロセスの自動化や業務効率化といった内部向けの連携であった」と大森氏は指摘する。これからの時代に求められるのは、「顧客体験を向上させるためのデータ連携」だ。
たとえば、ECサイトで商品を購入した際に配送状況を確認しようと思っても、チャットボットでは対応ができなかった。もしくはコールセンターに問い合わせをしてもオペレーターが別のシステムを使って確認しなければならず、その場でスピーディーに確認ができなかった、といった経験をしたことはないだろうか。こうしたデータ連携の不備が顧客の離脱につながっては本末転倒である。顧客体験が重要視される今の時代だからこそ、体験向上に目を向けたデータ連携は欠かせないと言える。
しかし、データ連携を進めるにも大きな壁が存在する。デジタルファーストな現代の顧客は複数のメールアドレスや電話番号、SNSアカウントを持ち、常に複数のチャネルを用いて情報収集や企業とのやり取りを行っているため、企業は顧客の全体像を掴むことが難しくなっている。点在した情報をひとまとめにし、さまざまなチャネル・顧客接点を通して一貫性のある体験提供を目指すべく、顧客ID統合に力を入れるケースが増えているのも実情だ。顧客IDの統合ができれば、パーソナライズされた体験の質をより高めることができる。
データ統合・顧客ID統合とひとことに言っても、実際にはどのようにシングルソース化を進めれば良いのだろうか。大森氏は、どのような業種・業態の企業であっても重要となる4つのポイントを解説した。
- 顧客ID、アクセスの管理:顧客IDとアクセスを管理し、顧客のログインを一本化
- データ管理:すべての顧客データを内部的に連携させ、管理するための単一のプロファイル
- 顧客データプラットフォーム:すべての顧客データを保管する大規模なデータストア
- プライバシーとコンプライアンス:顧客のプライバシーとコンプライアンスの管理
顧客に関するさまざまなデータをつなぎ、一貫性のあるフレームワークで統合すれば、集約データとしての共有・活用が実現できる。具体的には「41歳女性」、「過去90日以内に省エネ洗濯機のメールを開封」、「未解決の問い合わせやトラブルなし」、「過去5年以内に家電製品を購入」、「プロモーションメール受信に同意」といった複数のセグメントを掛け合わせた高度なマーケティング、レコメンドも可能だ。しかし、こうした施策を実現し成果につなげるにはデータの蓄積だけでなく、それらを瞬時に活用できるカスタマーデータプラットフォームを選ぶことも重要となる。
「プラットフォームは『乗り降りする場所(乗降口)』という意味を持ちます。つまり、inとoutを大量に迅速に行うための土台を指すと言えるでしょう。そのため、データを蓄積するだけでなく、入ってきたデータを処理し、アウトプットしていく発想も必要です。すぐには実現できなくとも、将来を見据えたデータ基盤構築に今から着手しなくてはなりません」(大森氏)
なお、AI活用においても統合された情報は不可欠と言える。なぜなら、断片化されたデータでは正しい予測を行うことが困難だからだ。たとえば、ECサイトでは靴を多く購入する顧客が店舗では服を主に購入していた場合、ECサイトで靴のレコメンドのみを行うのは不十分だろう。ここでECサイトの購入データとPOSデータを連携することができれば、より適切な情報提供が可能となり、さらなる購買喚起も夢ではない。
「データをどれだけ統合し活用できるかが、AIの成果にも大きく影響する。そう言っても過言ではありません」(大森氏)