DXは目的化すると失敗する データ統合・活用を成功に導くふたつの考えかた
コンタクトセンターが中心となり、顧客視点の経営を行う上で欠かせないのが、「CX戦略中枢(CoE:Center of EngagementもしくはCenter of Excellence)」の構築だ。そのために考えるべきは、顧客のカスタマーエンゲージメントにおけるタッチポイントである。
ここで重要となるのは、企業が顧客のニーズに応えて多種多様な顧客接点を用意しながらも、その場で「何が起きているのか」をとらえることだ。状況を把握するために多く用いられるものとして、「カスタマージャーニーマップ」が紹介された。
たとえば、次の図の右側に位置する「顧客サービス(コール・メンテナンス)」に到達するまでに、顧客は自社・他社を問わず多種多様な「マーケティング」の機会に触れている。また、商品・サービスをすでに購入した顧客については、ECや店舗などのチャネルで「営業・販売」のステップを踏んでいる。
「CRMの領域では各社がシステムを導入し、すべてのチャネルで得たデータを統合することで『ひとりの顧客に何が起きているか』を可視化していました。それをさらにBIツールを使って分析し、その結果とAI活用を組み合わせて得た示唆をフィードバックしようと試みてきましたが、これは本当に難しいことです。各社がなんとか仕組みを作り上げて顧客情報や行動履歴、通話録音データなどのVoCを蓄積していますが、そこから価値あるフィードバックを抽出できているかは、いまだに疑わしい状況です。実際に当社への相談も、こうした仕組み作りやPDCAサイクルの回しかた、粒の揃った情報の収集・統合を課題としたものが多くなっています」(アビームコンサルティング 竹谷氏)
ここで米林氏が、データ統合・活用で失敗しないためのふたつの考えかたを紹介した。
- データ統合の目的を明確にする
- カスタマーサクセスのKPIが進化していることを踏まえる
「DXが目的化し、何のためにデータを統合するのか明確にしないまま作業に着手して失敗する。こうした事例を私は至るところで目にしました。マーケティングから営業につなぐオンボーディング、営業から顧客へのカスタマーサクセスというように、部門の垣根を越えて顧客のエンゲージメント創出を目指すことが大切です。さらには『情報を受け渡す』、『訪問する』といった表面的なKPIから、『売上につながる』、『ロイヤルティが上がる』など、本質的なKPIにフォーカスすることも必要と言えます」(NTTマーケティング アクトProCX 米林氏)
米林氏の話を受け、竹谷氏は「DXが目的化することによる弊害を実感している」と語った上で、こう続けた。
「当社では、長期的な指標であるLTV向上を最終ゴールとして提示し、実現に向けて必要な施策やデータを考えるアプローチを提案しています。しかし、そこに到達することすら難しい企業が多いのも現実です。『そもそも必要なデータが収集できていない』という基本的な問題はもちろん、そもそも『顧客満足度と収益性の相関関係を整理できていない』『最終目標とKPIの設計ができていない』といったステータスにある企業も少なくありません」(アビームコンサルティング 竹谷氏)