高機能な検索で、買いたい気持ちが高いお客様に実店舗のようなCXを
CXの向上は、続々と登場する新しいツールを追いかけるよりは、必須機能の見直しから。ZETAの山崎さんは「ECサイトの商品検索やサイト内検索をテコ入れすることにより、伸びる余地はおおいにある。今はまだこれらの取り組みを行っていないことによる機会損失のほうが大きい」と提起する。
「ECサイトに流入した後に検索を行う消費者は、購入に対してもっとも前向きになっている状態と言えます。検索は文字を入力したり絞り込みを行ったりと、時間と手間がかかる行為であるにもかかわらず、そのコストを払ってでも買いたいものがあり、それを見つけたいと思っている。そのタイミングで適切な商品を出すことは、最大のマーケティングチャンスだと考えています」
能動的に商品検索を行っている消費者は、自ら積極的に欲しいものの情報をECサイト側に提供してくれている状態とも言える。つまり、そのキーワードは消費者の今の需要を明確にとらえたものであり、与えられた情報に対して表示する検索結果一覧は、過去の購買履歴や閲覧履歴よりも精度の高いレコメンドとも考えられる。カスタマーエクスペリエンスのなかでも購入により近い位置にいる人に対し、入力されたキーワードや条件にぴったり合致した情報を提示することができれば、そこから購入のステップへ進む確率は格段に上がるはずだ。しかし、それほど重要な「検索」に目を向けていない事業者はいまだに多く、「本来であれば得られるはずのチャンスを逃してしまっているECサイトも多く存在する」と山崎さんは語る。
たとえば、検索で生じる機会損失には、キーワード入力時のゆらぎの吸収ができていないといったものがある。ZETAが提供するサイト内検索・EC商品検索エンジン「ZETA SEARCH」では、「もしかして検索」や「表記ゆれ吸収」機能により、タイプミスや表記ゆれが招く0件ヒットを防止するほか、正しいつづりや正式名称が曖昧な商品も簡単に検索することができる「サジェスト機能(画像付き)」を備え、消費者の需要に合わせた商品検索結果が提供できるよう、万全を期している。
このほかにも、商品カテゴリや色、サイズ、価格帯などの項目で段階的に絞り込みができる「ドリルダウン型絞り込み」機能や、絞り込み検索を行う時点でヒット件数をあらかじめ表示する「ファセットカウント」、各ユーザーが優先したい要素に合わせて検索結果を表示する「並び替え(ソート)」機能といったように、サイト内検索エンジンの基本と言える機能を用意。また、豊富な事例を活かし、個々のサイトの特性に合わせた機能・マッチングロジックの実装やチューニングにも対応している。サイト来訪者のニーズを的確にとらえた検索結果を出せるよう、機械学習と実運用を併用し、日々機能のブラッシュアップも行っていると言う。
「ECサイトにおける検索は、実店舗で行われる『店員との会話』と同等のものです。たとえば、店頭で店員に商品名や型番を少し間違えて伝えてしまったとしても、『もしかしてこの商品ですか?』と提案してくれますよね。『いや、その商品はありません』と言ってしまうダメな店員はほとんどいません。しかし、検索ではこのようなケースが多々ある。ダメな検索はダメな店員と同じです。相当優先度を上げて取り組むべきものなのですが、現状後回しにされてしまっている。この状況は良くないと考え、私はずっと検索の啓蒙を行っています」
機会損失を最小限に食い止めるためには、圧倒的な速さが必要
商品検索やサイト内検索に対して策を講じようと思っても、何からやるべきかわからない、適切な検索結果を出すために取り組むべき物事の優先順位がつけられないという人もいるだろう。優先すべきロジックや適切な並び順は扱う商材によって異なるが、商材を問わず圧倒的に必要とされる技術があると山崎さんは言う。それは、「処理速度」だ。
「どんなに適切なロジックを組んだとしても、検索に10分かかるようではできていないのと同じです。検索に必要なテクノロジーは、どのようなロジックも実現できる速さなのです。ZETA SEARCHでは、2,000qps(queries per second:1秒間に処理できる問い合わせの数)の速さで検索結果を処理することが可能です。他社は200~400qpsほどであることが多いので、ZETA SEARCHだからこそ実現できるロジックも存在しています」
検索結果の処理スピードだけでなく、データを取り込む速さも重要なポイントだ。あるサイトでは、ZETA SEARCHを利用する以前はサイト内のデータを更新するのに1時間半を要しており、その間サイトを停止する必要があったが、切り替え後は数分で更新を完了することができるようになったと言う。サイトを停止させるのは、その間にアクセスしようとした顧客の購買チャンスを逃すことでもある。機会損失を最小限に食い止めるには、こういった部分にも目を向ける必要があると言えるだろう。
また、消費者が求める検索結果を適切に提供するためにも処理速度の速さは欠かせない。ECサイトである商品を検索した際、「キーワードのマッチング度合い」と「売れ筋ランキング」が適切に掛け合わされ、検索結果一覧に表示されることが最適と考えられている。しかし、このふたつの要素は数学的には軸の異なるスコアであり、どうミックスし違和感のない見せかたをするかは終わりの見えない取り組みとも言える。場合によっては、カテゴリや製品ごとに適したロジックを組む必要があるが、これら膨大なパターンを記録させ、実行するにも速さは重要だ。
とくにアパレルでは、各商品に色とサイズのバリエーションがあり、検索軸が他の業態よりも多くなることに加え、セールによる瞬間アクセスも受け止められるキャパシティの広さが求められる。「良い検索エンジンを入れたい」と考え、ZETA SEARCHを導入する事業者も多く、直近では集英社のFLAG SHOPやジュングループのオンラインショッピングサイトなどにも導入されていると言う。
消費者が求めるのは第三者の声 レビューでECをソーシャル化
検索軸に用いられる指標として近年注目を集めているのは、レビュー(クチコミ)だ。ZETAでも「ZETA CXシリーズ」のラインナップにレビューエンジン「ZETA VOICE」を揃え、複数の評価軸から多面的なレビューが表示できるサービスを提供している。先述したZETA SEARCHの検索軸にZETA VOICEで集めたレビューのスコアを加えたり、レコメンドエンジン「ZETA RECOMMEND」でレビュー内容を加味したレコメンド表示を行ったりすることも可能だ。山崎さんは「今の時代、ほかの消費者のコメントは非常に重く受け止められます。検索結果を『評価順』に並べ替える需要も日に日に高くなっています」と語る。
「レビューがあるとECにソーシャル感が出てきます。ECサイトがオウンドメディアではなく、ソーシャルメディア化していくのです。レビューはフェイクでなければ非常に良いオーガニックコンテンツと言えます。オリジナルのコンテンツが増えることでSEOにも強くなると考えられますし、検索の並び順をより最適化することもできる。検索とレビューの相性は非常に良いと言えます」
サンエー・ビーディーの公式オンラインストア「SANEI bd ONLINE」では、ZETA VOICEを導入した直後から商品の売上が伸びたことに加え、返品率の減少が期待されている。投稿者の身長や着用した際のサイズ感も入力項目として設けることで、「購入前に着用感をイメージしやすくし、納得度を高めたうえで購入してもらうことで商品が届いてから『イメージと違った』といったがっかり感を減らすことに貢献できるのではないか」と山崎さんは言う。商品検索エンジンとレビューエンジン双方を提供しているからこそ、シームレスにつなぎ込みや検索軸の追加が実現可能なことも、EC事業者にとっては魅力のひとつと言えるだろう。
2020年、選ばれる事業者になるために取り組むべきことは
来たる2020年のEC業界の動向を山崎さんに予測してもらったところ、「OMOがより進むのでは」と答えが返ってきた。なかでも、「店頭ECが進む」と考えていると言う。
「マーチャントによっては、実店舗とECを対立概念として語る傾向がいまだにありますが、本来はお互いに活用し合える存在です。消費者の目線で見ると、実店舗で商品を見ながらECで検索し、レビューを駆使して最適な商品を見つけ、買う商品を決めるというハイブリッドな使いかたをしたいはず。それこそがOMOと言えますが、日本ではまだあまりその流れが進んでいません。
先日、ポルトガルのリスボンで『Web Summit』に登壇した際に市内の視察も行いましたが、ある店舗では売れ筋商品に大きなPOPが掲げられていて、そこには二次元コードが印刷されていました。コードをスキャンすると、その商品のECページに飛び、色やサイズなどを選んで購入することができるようになっていたのです。こういった取り組みが2020年、日本でも増えていくのではないかと思います。当社でも引き合いが増えている状況です」
OMOに取り組むには、自社ECの機能拡充がカギとなる。検索の精度を高め、店頭で探している商品が適切に検索結果に表示されるようにしたり、商品選定に悩む消費者に対し、決め手となる購入者の生の声をレビューで提示したりと、積極的に情報提供を行うための手法はさまざまだ。しかしながら、現状はほとんどのECサイトがそこまでの機能実装に至っておらず、顧客はAmazonなどのモールに掲載されたレビューを見て、そのまま商品購入を行ってしまう。
「店頭で積極的に自社ECサイトの情報を見てもらえるように誘導する。そういった取り組みをしないと、実店舗を持つ事業者はみすみすチャンスを逃し、EC専売業者にどんどん負けてしまいます」
ZETAの OMOソリューションに関する事例は、「2020年の早い時期に公開できる見込み」だと山崎さんは語る。このほかにBtoC EC市場の20倍のマーケットがあると言われているBtoB ECについても鋭意マーケットリサーチを行っており、2020年以降も検索の重要性を世の中に浸透させ、より快適な検索ができる環境を世の中に提供し続けていくとしている。
顧客体験、信頼、そしてリアルとの融合。2020年以降も「選ばれる事業者」になるためには、OMOを支えるECサイトを頼りがいがあるものに強化していくべきではないだろうか。その現実的な第一歩は、旬なツールを追いかけるのではなく必須機能の見直しから始まるのかもしれない。