n1分析がブランドに愛着をもってもらうための一歩
まずは、黒澤氏がアパレル業界の課題から語り始めた。イベント開催日の2023年9月22日は、一般消費者にとっては秋物が気になり始める時期だが、アパレルの企画担当者にとっては、翌2024年の春夏シーズンの企画が大詰めになる頃合い。半年以上先のことを予想して、トレンドや気温といった変数に頭を悩ませているわけだ。
これらの変数に対応している間に商品の賞味期限は短くなっていく。その上、予測が容易ではない変数に対し、施策を実行し続ける負担は小さくない。そこで三陽商会では「定数」に着目し、顧客のエンゲージメントを上げる方法をとった。
「変数と対峙する『定数』が、アパレルではブランドです。当社は、短いサイクルで変わる商品だけでなく、ブランド自体に愛着をもってもらうことが最も重要だと考えました。そして、ブランドは好きになってくださるお客様がいて初めて成り立つもの。ブランドに愛着をもつお客様がどのような方なのかを知ることが、課題解決の一歩になるのです」(黒澤氏)
では、こうした課題解決のためになぜ三陽商会では「KARTE Blocks」を導入したのか。その背景には、n1分析を重んじる思想に加え、公式サイトのリニューアルと新たなブランドラインの誕生がある。
同社が運営する「CRESTBRIDGE ONLINE STORE」は、2019年に公式サイトをリニューアルし、ブランドサイトとオンラインストアの2機能を併せもつ形態となった。公式サイトのトップページで目当てのブランドラインを選択すると、各ブランドサイトに遷移する。そこから商品詳細ページやオンラインストアにも遷移できる仕組みだ。
そのため、顧客がCRESTBRIDGEのオンラインストアを訪問する際の動機にも、「ブランドを知りたい」と「商品を購入したい」の2種類がある。
さらに2022年には、CRESTBRIDGEのレディースライン「BLUE LABEL CRESTBRIDGE」とメンズライン「BLACK LABEL CRESTBRIDGE」に加え、新ラインとして「CB CRESTBRIDGE」が誕生。一つの公式サイトに対して、合計六つの訪問動機が生まれることとなった。
この状況から、訪問動機の異なる顧客に合った情報を伝える必要があると考えた三陽商会では、顧客理解を深めるためにCX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」を導入した。
「KARTEを用いて一人のお客様を徹底的に分析していくことで、お客様の解像度が上がり、様々な気づきが得られました。次はその気づきをもとに、アクションしなければなりません。お客様が求めているブランドサイトおよびオンラインストアへ素早く反映したいと考え、ノーコードで直感的にサイト改修が行える『KARTE Blocks』の導入を決めました」(黒澤氏)
主に商品購入のステップにおいて、障害となっている要素を排除する方針で進めることにしたという。
「今回行った施策は、すぐに売上に直結するものではありません。しかし、あるお客様の良い体験を別のお客様にも体験いただけるようにしたり、お客様が困っていることを解決したりすることで、全体売上の底上げに貢献できると思います」(黒澤氏)