「MOUSSY」や「SLY」などのブランドで知られる、バロックジャパンリミテッド。従来は外部に運営を委託していた自社通販サイトの自社システム化、店舗とウェブ両方の利用でポイントが貯まる「SHEL'TTER PASS」ほか、8ブランドの公式アプリなど、積極的なデジタル投資を行っている。
海外展開においても、越境ECは現地のプラットフォームに出店して、という傾向が強い中、2017年11月にアメリカ市場向けサイト「MOUSSY GLOBAL EC」を独自ドメインでローンチ。ほかのブランドについても、ブランド単体ではないが、「SHEL’TTER GLOBAL EC」として、今後展開を予定しているとのこと。
さらに、ソーシャルメディア運用にも力を入れている。MOUSSYは50万フォロワー超え、SLYも40万が見えてきた。フォロワー数順にランキングを見ると、ほとんどが芸能人という状況の中、国内のアパレル企業だけで見れば、どちらもトップ10に入る勢いの人気アカウントだ。
驚異的なスピードでデジタル投資を進め、成果に結びつける背景には、どのような変化があったのか。同社の柴田さんと池谷さんに話を聞いた。
Instagramやアプリをいち早く 各コンタクトポイントを最適に
日本において、EC市場は伸びているといっても、EC化率はひとけた台。実店舗の売上と比較すると、デジタル関連の部署はまだまだ肩身が狭いものだ。わかりやすい指標として、マーケティングオートメーションやLINEなど、デジタルへの投資となると、実店舗を持つ企業の名前はそれほど目立たなかったのがこれまでだった。しかし最近では、複数のアパレル企業が積極的な姿勢を示している。
なかでも、バロックジャパンリミテッドの展開は、群を抜いて目立っている。それは、「バロック発のファッションブランドを日本の代表的なファッションブランドとして世界へ飛躍させる」を掲げ、2016年11月に東証一部に上場していることも理由のひとつだろう。しかし、ツールを導入するだけでは、全社にデジタル化が浸透することはない。アパレルで言えば、ブランド部門に活用してもらってこその、本当のデジタル化である。バロックジャパンリミテッドでは、各ブランドにSNS専任の担当者を置き、日々のコーディネートを発信。Instagram経由で売り切れが続出するに至っている。
同社デジタル化の立役者のひとりは、柴田幸男さん(EC事業本部 副本部長)だ。2017年に入社、デジタルコンテンツを提供する企業からの転職で、デジタルのプロである。
「大きな流れでいくと、ここ2年ほどで、店舗中心の販売体制からECを強化する方向に変わっていこうと、本気で取り組んでいます。ブランド主導で、ECだけでなく、SNSやアプリも含めて見るという体制がここ1年くらいで確立し、非常に好調です。なかでもInstagramは、ブランドも力を入れてコーディネートを中心に発信しています。ある1ブランドで全身をコーディネートするのが、一般的ではなくなり、ユーザーが自ら情報を仕入れ、目利きとなり、自分が好きなアイテムを選び、組み合わせる流れになってきている。究極的には、当社のブランドでないものを組み合わせたコーディネートを発信することも、あり得ると考えています」(柴田さん)
アパレルでは、古くはブログで、店舗スタッフがコーディネートを発信する文化があった。しかし、Instagramは画像が勝負の、感度の高いユーザーによって場が形成されているSNSだ。それにいち早く、いち店員でなくブランド全体が対応できたのは、デジタル活用が全社的に浸透し、オムニチャネルが推進されている証拠だろう。
「オムニチャネルについては、単に同じ価格で商品を提供するだけではなく、実店舗とECのユーザー体験を同一に持っていきたいという考えを持っています」
具体的な施策として、2017年10月にアプリ「SHEL’TTER PASS(以下、シェルパス)」をリリース。各ブランドの実店舗、同社直営ECサイト「SHEL'TTER WEB STORE」「AZUL BY MOUSSY WEB STORE」で、アプリの会員情報と連携して買い物すると、マイルが貯まり、1マイル1円換算で利用できる仕組みとなっている。また、これまでスタンプカード、ポイントカード、メンバーカード等の会員証が発行されてきたが、それらをアプリで一括管理できるようにもなった。当然、クーポンや新商品の情報なども提供される。ブランド公式アプリでは、コーディネートなどのコンテンツを発信し続けた結果、リピーターに活用され、ECの売上の3~4割、ブランドによっては半分以上を占めるそうだ。
「ブランドごとのアプリでも、SNSと同様、マスというか、すべてのお客様に向けたコンテンツ発信を行ってきました。しかしシェルパスによって、1人ひとりのお客様の複数チャネルにわたっての行動データを取得できるため、個々のお客様に最適なレコメンドや情報発信が行えるようになっています。それはLTVという視点でも、非常に有効に働くと考えています」