ローカライズに欠かせないQCDバランス ポイントを踏まえ適切な判断を
次に秦氏は、「ローカライズ対応のポイント」について解説を進める。膨大なコンテンツの翻訳フローを円滑に回して成果を得るには、良質なソリューションを活用するだけでなく、運用の適正化も鍵となる。「コンテンツによって異なるQCDバランスを考慮することが、ローカライズのポイント」と秦氏は語る。
QCDとは「品質(Quality)」「費用(Cost)」「納期(Delivery)」を指し、これらをコントロールするには「機械翻訳」「ポストエディット(機械翻訳結果を人力で修正)」「人力翻訳」を使い分ける必要がある。
品質は翻訳精度を指すが、コンテンツによって求められるレベルは変わる。たとえば、医療品の成分やコンプライアンスに関する情報であれば、高品質な翻訳が必要となるだろう。しかし、高品質な翻訳は時間を要する上、コストも高くなる。そのため、すべての情報に同品質を求めるのは現実ではない。
秦氏は「コンテンツに求められる翻訳の品質や文量で手法を使い分けると良い」と説いた上で、このように続ける。
「たとえば、従業員向けの情報サイトであれば、翻訳の品質以上に多くの情報をタイムラグなく提供することが重要となるため、機械翻訳を活用することをお薦めしています。社内の専門用語さえ間違いなく翻訳できれば、機械翻訳でも十分に目的を達成することが可能です。一方、医療に関する情報は品質を担保しなくてはならないため、人力で翻訳を行います。Webサイトの目的やビジネスの目標を明確にした上で翻訳手法を選びましょう」(秦氏)
なお、グローバルECサイトのローカライズでは、顧客が購入に至るまでの導線設計も忘れてはならない。たとえば、日本語で作られたECサイトでは自然な会員登録時の氏名カナ入力についても、外国人にはハードルが高い。仮に顧客がカナ入力できたとしても、アメリカ英語の「ミケランジェロ」や「ダビデ」がイギリス英語の「マイケランジェロ」「デイビッド」と同一であることを判断する必要があるなど、運用がより煩雑になる可能性もある。すると、カナ入力が本当に必要なのか、入力項目を設けないといった判断を下すのも必要だ。
このほかにも、衣類の「ワンピース」が中国語翻訳時に人気漫画『ONE PIECE(尾田栄一郎著:集英社)』と認識され、「海賊王」と変換されてしまうケースも機械翻訳ではあったと言う。利用頻度の高さが機械翻訳の優先順位に影響するため、「固有名詞やジャンルに特化した用語の翻訳は気をつけなくてはならない」と秦氏は付け加える。
「キャッチコピーなどは機械翻訳よりも、ニュアンスを活かして人力翻訳したほうが伝わりやすくなります。当社では機械翻訳、ポストエディット(機械翻訳後の人力修正)、人力翻訳などコンテンツによってさまざまな翻訳手法の選択が可能です」(秦氏)