チャット&Zoom接客、ただデジタル化するだけじゃダメなんです
森野 ECの「気軽に相談できる窓口」では、今話題のチャット接客という選択肢もあるかと思います。EC運営側がやるべきか、デジタルに不慣れでも販売員がやるべきか、どうお考えですか?
平山 私自身も試しているところですが、結論から言うと、ECのことを勉強した販売員に任せるのが良いと思います。販売員だからこそ、お客様が聞きたいことを推測できたり、深堀りして聞いたほうが良いことに気づいたり、提案する際に独自の表現が出てキャラクター受けがとれたりするかなと。
久保田 内容によると思います。システム関連のことはEC運営側が対応するべきでしょうし、商品の提案は販売員でしょう。ただし、チャット接客もまだまだこれからだと感じます。先日、あるブランドのチャット接客を見ていたところ、お客様が「黒のジャケット」と入力すると、いくつもの黒のジャケットがバババッと表示されました。私の感覚では、「黒のジャケット」だけでよく提案ができるなと。素材もあれば、形も、丈感もあるでしょう。
森野 単純に、「黒」「ジャケット」で絞り込んだんでしょうね。
久保田 大量に提案したものの中からお客様に選んでいただくという手間をかけてしまう。提案する前にもっと多くの情報を聞き出して、「こちらとこちらがすごくオススメです」と、二択くらいの提案をしたほうが、お客様にとって、チャットを使った意味があるんじゃないかと思いました。
森野 ECだとすぐ、マニュアル化しようとするでしょうからね。
久保田 ECでは個別対応の数をこなすのもたいへんでしょうから、ある程度マニュアル化していいと思います。「黒のジャケット」のほかに聞くべき質問は、販売員ならわかりますから。お客様からよく聞かれる事項はデータ化できますし、それを使うことで絞り込みができる。お客様にとっても、たくさん候補が出てきて、質問を追加されて、また選んでという流れを繰り返すよりも良いのではないかと思います。
平山 マニュアル以上を求められるブランドもありますよね。たとえばDCブランドが、マニュアル化されたチャット対応をしてしまったら「このブランドでこの程度なのか」という印象を与えるでしょう。店頭の接客レベルにあわせてECの対応も変えていかないと、ブランドイメージがそろわないとは思います。
森野 その視点は重要ですね。
平山 今日、たまたまワイン専門店のECでチャットを使ったんです。店舗にもよく行くので、販売員の方の顔をイメージしながら使っていたことを思い出しました。もうひとつチャット接客は、提示された選択肢に当てはまらないときに答えにくいと感じました。自宅用とギフト用2本買おうと思っていたのに、「自宅用」「ギフト用」「その他」の3つから選ぶしかないとか、赤ワインの「軽めと重めどちらが好みか」を聞かれたけれど、自分にとってどちらがいいかわからないとか。もっと会話がしたいのに、消化不良感があったんですよね。
森野 正解にたどり着くために、絞り込んでいく仕組みだからでしょうね。
平山 そこまで求めるのならリアル店舗へ、ということかもしれませんが……。販売員の活躍の場にするならば、有料の予約制にして、30分程度のカウンセリングにしてもいいのかなと思いながら、ワインを数本買いました。
森野 Zoom接客も流行っていますが、どんな印象をお持ちですか?
久保田 Zoom接客はハードルが高いだろうと、LINEでの接客を試してみました。結果として、販売員から「イマイチ」という声があがっています。理由は、リアルでの対話ならもっと伝えられるのに、LINEでは難しいと。会話はお互いのテンポが重要ですが、デジタルだと遠慮して変な間が生まれたりしますよね。今後は慣れてうまくなる人もいるでしょうし、お客様を引っ張っていくタイプの販売員には向いているかもしれません。テキストのチャットよりも、顔が見えたほうが安心感はあると思います。
森野 デジタルでは「それだけ時間をかけて接客したのに、売上は……」という評価もあると思います。
平山 そうなんです。デジタルでは、単品しか売れない場合が多いので、時間と手間をかけたわりに利益が生まれにくいのが難点かなと思います。先日、シャツを羽織って着るタンクトップを買おうとチャット接客を利用したのですが、提案されたものの「これじゃない」感にがっかりしました。その時は「話が通じていないな」と購入をやめてしまったのですが、後から考えると「アリだったかも」と。接客時に、シャツを羽織ったところを見せてもらえたら違ったかもしれない。それならチャットよりZoomのほうが適している。相談したい段階ごと、接客スタイルも選べると良いのかもしれません。