石川森生さんがCECO(Chief e-Commerce Officer)として入社し、ECをさらに強化しているディノス・セシール。紙の雑誌がデジタルに移行する例も相次いでいることもあり、同社もカタログをウェブにリプレースするのかと思いきや、「それは間違いだった」と石川さん自ら話してくれたのが、2016年4月だった。それから1年後には「紙やテレビをやめてウェブ、はますますヤバイと確信」したとのこと。「瞬発的に欲しい!と思わせるパワーでウェブはカタログに勝てない」というのが、その理由だった。
それから1年を待たず、2017年11月に発表されたのが、「EC」と「紙」をリアルタイムで連携させたCRMである(本格運用は2018年4月)。11月から開始した施策として、ECサイト「ディノスオンラインショップ」において、カートに商品を入れたまま離脱(カゴ落ち)した顧客に対し、最短24時間で紙のDMを印刷・発送する取り組みを開始。すでに成果が出ていると言う。本取り組みを行う、ディノス・セシールの石川さん、佐々木さんにお話を聞いた。
資産であるカタログの強みを活かす
紙のカゴ落ちDM施策を実現
ECのプロフェッショナルとしての実績を評価され、若くしてCECOという地位でディノス・セシールに招かれた石川さん。デジタルのプロとして入社し、一時期は紙のカタログをウェブにリプレースすることも考えていたが、ディノス・セシールは歴史あるカタログ通販会社。カタログのビジネスは、徹底的に研究され、無駄が省かれた洗練されたモデルだった。そしてカタログの注文を受ける役割のECでは、注文の大きな山を迎えるのがカタログ送付のタイミングとなっている。こうした理由から、石川さんはカタログを重んじる方向に舵を切った。このような経緯がなければ、おそらく今回の「EC」と「紙」をリアルタイムで連携させたCRMは生まれてこなかっただろう。
「ディノスのEC戦略を考えていく中で、ウェブに閉じていても勝ち目がないこと、当社のいちばんの強みは紙であることから、ECであっても紙を活用しないと、価値がお客様に届かないと考えました。その結果生まれたのが、今回の『紙』と『ウェブ』をリアルタイムに連携させたCRMであり、最初に行った施策が、紙のカゴ落ち対策DMです」
最短24時間で届くことから、印刷など技術的な要因があっただろうと想像できるが、このタイミングでリリースとなった理由とは。
「ひとつは実現するスキームがなかったこと。今回はカゴ落ちDMでしたが、最終的にはカタログまで考慮に入れてスキームを考えておかないと、当社のアセットとしては、ごく一部になってしまう。ですから、全体像が描けるまでは動かなかったわけです。次に、カタログ通販企業として、当社が求めるスペックとクオリティのデジタルプリンタが見つからなかったこと。そして、デジタルプリンタに指令を出すドライバーのようなものも見つけられなかった。この3つがそろうまでに、2年ほど時間を要しました」
そんな中出会ったのが、日本HPのデジタル印刷機とグーフ社のITソリューションだ。このふたつの組み合わせにより、ECのデータをもとにパーソナライズされたコンテンツを自動で生成し、デジタルデータからオフセット品質の印刷物を出力、最短24時間で送付することが可能になっている。
「カゴ落ちのようなシナリオを作り、紙媒体でアプローチするという発想自体は、新しいものではなく、ソリューションもいくつかあったようです。でも、印刷の質とスピードが伴わなかったので、採用には至りませんでした。すべての環境が整ったのが、このタイミングだったんです」