“地道にやる”が近道 海外顧客向けの“オンライン外商”
松屋銀座がmatsuyaginza.comで顧客接点の拡大とともに重視しているのが、いかにリピート購入につなげるかだ。同店では、継続的な関係構築を重視したアプローチを重ねている。
昨今は、特にインバウンドによってプラスの影響を受けているという。しかし、海外からの顧客は、毎週来日するわけではない。一度購入して以降、関係が終わってしまう可能性も十分に考えられる。そんな訪日客に、どう再来店を促すかは重要な課題だ。
「リピーターをどう定義するのかが、難しい点です。一定の金額以上購入しているお客様のうち、仮に2年間で3回来店してくださる方をリピーターとします。すると、当店では中国からのお客様の約30%が当てはまります。これは、決して少なくない数字です」
こうしたロイヤルカスタマーの離脱を防ぐ施策の一環として、松屋銀座では100万円以上の購入歴がある人をVIP顧客と定義。松屋銀座の3階に設置された専用のサロンで接客を行うなど、密なコミュニケーションを取る方針だ。実店舗でつながった海外顧客に、matsuyaginza.comを紹介、会員登録を促すことで、オンライン上での継続的な関係構築を目指している。また、彼らの帰国後には、WeChatを通じてOne to Oneのやり取りを行っており、服部氏は「オンライン外商のようなイメージ」と表現する。
「現在、WeChatでつながっている海外のお客様は約100名です。メッセージを通じて購入のお礼を伝えたり、『来週、日本に行く予定』と連絡をいただければ、おすすめ商品をご紹介したりしています。今年の夏には、松屋銀座の屋上にあるビアガーデンに招待する企画も進行中です」
このような地道かつ細やかな対応は、松屋銀座が長年培ってきた接客文化の延長線上にある。服部氏は「次の百貨店ビジネスの肝になる」と意気込む。
地方・若年層にもアプローチしたい 多様な入口の作り方
「銀座」「百貨店」と聞くとインバウンドのイメージが先行するが、matsuyaginza.comの立ち上げ背景には、国内顧客へのアプローチを強化する狙いもある。地方の富裕層が、その一例だ。
「地方にも、松屋銀座の外商が付いているお客様はいらっしゃいます。そのお客様から、別のお客様を紹介いただくケースも少なくありません。しかし、地方在住の方の場合、すぐに実店舗に行くのは難しいといえます。そこで、代わりにmatsuyaginza.comを利用してもらえる流れを作りたいのです」
また、同店はオンラインチャネルによって若年層からの認知獲得にも期待している。服部氏は「現在拡充中の品ぞろえで勝負する」と続けた。
matsuyaginza.comに並ぶのは、必ずしも高価格帯の商品だけではない。若者に人気ないわゆる「デパコス」の中には、数千円代の商品も含まれる。銀座の百貨店への入店となると気おくれするかもしれないが、オンライン上なら気軽に接点をもってもらえるだろう。口コミやSNSによる情報の拡散も見据え、若年層向けにはまず松屋銀座での体験に触れてもらう“入口作り”に力を入れる。