過去の教訓がユーザーを支える武器に 法人が選ぶサービスへの進化
昨今、多くの人が当たり前のようにECサイトで買い物をするようになった。この数年で、自社ECサイトの開設や運営を支援するサービスは増加。今まで一部の実店舗のみで商品を販売していた中小・地方事業者が、EC販売を開始する事例も見られる。しかし、20年以上前の2000年頃を振り返るとどうだろうか。
当時、オンライン上での商品販売といえば、Amazonや楽天市場といったECモールへの出品を真っ先に思い浮かべる人が少なくなかった。そんな中、寺井氏は「早い段階で自社ECサイトの需要の高まりに気付いた」と語る。
「GMOペパボは、2001年からウェブサイトを運営できるサービス『ロリポップ!レンタルサーバー byGMOペパボ』を提供していますが、サービス開始後、徐々にウェブサイトに商品情報を掲載するユーザーが現れたのです。そこで、当社は2005年2月に比較的容易に自社ECサイトの運営が始められる『カラーミーショップ byGMOペパボ』をスタートしました」(寺井氏)
初期の「カラーミーショップ byGMOペパボ」は、自身の作品を販売するなど、表現活動の一環として活用する個人ユーザーの割合が多かった。それが近年では、新規ユーザーの7割以上が法人となり、個人事業主のみならず、従業員規模が大きい事業者にも選ばれるサービスへと進化したという。
「中には、『カラーミーショップ byGMOペパボ』に対して『法人に必要な機能が備わっていない』というイメージをいまだに持っている人がいます。しかし実際には、サービスの提供開始当初から活用している個人ユーザーの事業が成長し法人化するケースも多く、法人化後も『カラーミーショップ byGMOペパボ』でEC運営を継続するユーザーは珍しくありません。当社がこれまで蓄積してきた機能やノウハウは、法人ユーザーのEC運営でも十分に効果を発揮しています。たとえば、BtoB取引に対応した卸販売、複数アカウントでEC運営が可能な副管理者設定などがEC事業の成長を支える基盤となっています」(寺井氏)

かつては、注文が集中するタイミングで一時的にサーバーへの負荷が高くなり、自社ECサイトが開きにくくなるケースもあったカラーミーショップ byGMOペパボ。サービスの提供開始後、段階的にインフラの強化も行ってきた。
「ユーザーの事業拡大にあわせて、必要な機能を拡充してきました。特にEC市場の成長とともに、2010年以降はトラフィック増加に対応するためサーバー構成の最適化やクラウド技術の導入などを実施しています。これにより、EC運営の安定性が向上しました。
コロナ禍による影響でEC需要が急速に拡大した2020年以降、ECサイトには高負荷に耐えられるキャパシティがより求められるようになりました。こうした背景を受けて、2021年からは大規模なインフラ投資も行っています。サーバースペックの強化や負荷分散技術をさらに改善し、大量のトラフィックにも耐えられる環境が整いました。今では、大規模セールや一時的なアクセス増加の際にも、安定したEC運営が可能です」(寺井氏)
急成長が将来的な売上停滞を招く可能性 プロのノウハウを取り入れるには
同サービスのユーザー層が大きく広がったタイミングが二つある。一つ目が、2013年のAPI公開だ。これにより、単に自社ECサイトを構築するだけでなく、他社が提供するEC支援ツールとの連携を実現。売上を伸ばすためのマーケティング施策を実行できる環境が整った。
そして、2016年に行われた決済の拡充が二つ目のターニングポイントとなった。元々用意されていた代引きやクレジットカード決済、コンビニ支払い、後払いに加えて、複数の電子決済を導入。購入直前での離脱を防げるように、多様な需要をカバーする仕組みが加わった。対応サービスは徐々に増えており、「Amazon Pay」「PayPay」など様々な決済が選択可能となっている。
こうしたアップデートを続ける中で、寺井氏は「個人から法人へ成長する上での注意点を見つけた」と話す。
「事業規模の拡大には、受注量の増加がつきものです。大量の注文を処理するためのオペレーション業務も増えます。既存リソースや一時的な業務委託だけでは事業を回せなくなるケースが多く、売上をさらに上げるためのサイト改善に工数が割けないことから事業成長が停滞する可能性もあります」(寺井氏)
そこで生まれたのが、ユーザーが自社ECサイト運営のプロに相談できる新たなプランだ。
「現在、ECサイトの制作会社と提携し、ユーザーのリクエストに応じて最適な依頼先を紹介する『制作代行サービス』を提供しています。また、2023年には『プレミアムプラン』の提供も開始しました。施策の提案やアクセス解析のレポーティングといったサポートを行う『ECアドバイザー』が、ユーザーのEC運営に伴走するプランです。EC事業を始めたばかりのユーザーは、まず認知の獲得に苦戦するケースが多いため、ECアドバイザーが集客方法を提案するなど伴走型の支援を行っています」(太田氏)
販路を拡大した二つの事例 売上増の理由は○○
実際に個人ユーザーが法人化し、現在も事業成長を続ける事例として、2011年にスタートした食品ECサイト「かわしま屋」がある。
国内外の生産者・職人から仕入れた商品を販売している同サイト。取扱商品数は、2023年時点で600点以上にのぼる。当初は代表者が自宅の冷蔵庫を倉庫にして、一人で自社ECサイトの編集や出荷作業を行っていたが、現在はスタッフ数40名規模のEC事業者へと成長を遂げた。売上も順調に伸長し、今では倉庫を併設したオフィスを構えている。
「かわしま屋」の事業成長を後押ししたのが、健康や食に関する記事の掲載、YouTubeを通じたレシピの紹介など、積極的な情報発信だ。商品の購入+αの価値提供が評価され、GMOペパボ主催のコンテスト「カラーミーショップ大賞2023」で大賞に選ばれている。
「『カラーミーショップ大賞』は、各ユーザーが努力してきた成果を紹介し、かつ当社が感謝を伝える場でもあります。ユーザーの事業規模が変化しても、変わらず濃いコミュニケーションを取るのがモットーです」(寺井氏)
また、2010年に自社ECサイトをオープンし、卸売りから直販へ販路を切り開いた秋田県発の「じゅんさいときりたんぽ 安藤食品」も、「カラーミーショップ byGMOペパボ」で事業成長を実現した事例の一つだ。
同サイトが取り扱う水草の一種「じゅんさい」は、一般的に知名度が高いとはいえない。そのため、SNSを通じたオンラインコミュニケーションを強化するなど、集客に力を入れている。加えて、「じゅんさいとは?」「秋田県の観光情報←じゅんさい次郎が勝手におすすめ!」といった記事を自社ECサイト内で公開している。
「ECサイト運営では、商品の魅力を適切に伝えるために、視覚的なデザインやSEO(検索エンジン最適化)を意識した情報発信が欠かせません。ほかにも、定期的にコンテンツを更新することで、お客様の興味を引きつけ、リピーターを増やす効果も期待できます。こうした取り組みを効率的に実現するのが、WordPressの活用です。記事制作やメディア運営が容易にでき、より多くの顧客にリーチできる仕組みを構築できます」(太田氏)
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「当社は、WordPressで自社ECサイトと同一ドメイン内に情報発信の場を無料で開設できる『カラーミーWPオプション』を提供しています。実際に、同サービスを通じてコンテンツ作りに力を入れている『じゅんさいときりたんぽ 安藤食品』は、2023年の年間売上高がスタート時の数十倍にも成長しました」(太田氏)
情報にリーチしづらい地方事業者のEC進出 どう後押しできるか
「じゅんさいときりたんぽ 安藤食品」の事例からもわかるように、近年は地方でのEC需要が高まっているという。しかし、EC運営に関する勉強会やイベントなど、情報収集の場が少ない地域があるのも事実だ。
「カラーミーショップ byGMOペパボ」では、オンラインセミナー開催のほか、EC運営のコツやノウハウを誰もがインプットできるように、公式のYouTube チャンネルでの情報発信に力をいれている。また、地方でも定期的にリアルイベントを実施。太田氏は「EC運営を学ぶための入口を多数用意している」と話す。
「地方の事業者は、今まで地元でしか販売していなかった商品を全国に届けることで、新たなお客様と出会い、売上規模を拡大できます。こうした事業成長を後押しするため、当社は地方自治体と連携し、現地の事業者のEC進出を支援する取り組みも進めています」(太田氏)
加えて、「カラーミーショップ byGMOペパボ」は地方のEC/ウェブ制作会社との協業にも意欲的だ。
「地方のEC運営を支援するのに最適なのは、やはりその地域に根差した制作会社です。彼らとも深いコミュニケーションを取り、結果的に各事業者のEC運営のハードルを下げたいですね」(太田氏)
自動電話応答にCRM機能 “EC周辺”もカバーする「カラーミーショップ byGMOペパボ」次の20年
この20年で全国のユーザーを支援し、ともに成長してきた「カラーミーショップ byGMOペパボ」。2025年以降に目指すのは、“EC周辺”までカバーするサービス力の強化だ。
「商品を売るだけで終わらないのがEC運営です。商品の認知拡大から配送まで、包括的に支援できる体制を整えます」(寺井氏)
既に提供が開始した機能の一つに、電話自動対応(IVR)がある。中小規模や地方のEC事業者の中には、自社ECサイトだけでなく電話でも注文を受け付けているケースが少なくない。また、事業規模にかかわらず、顧客から問い合わせが集中するタイミングはあるだろう。自動で対応可能になれば、工数が削減できる上に顧客データの蓄積・活用にも役立つ。
さらに、会員プログラム機能の拡張も予定されている。「カラーミーショップ byGMOペパボ」では、顧客がLINEアカウントで自社ECサイトにログインできる新機能を準備中だ。寺井氏は「コミュニケーションツールであるLINEとの連携によって、ロイヤル顧客を育成する施策が生まれる」と説明する。
新たに追加される機能は、リアルイベントをはじめとするユーザーとの交流からアイデアを得たものも多い。それにあわせて、「カラーミーショップ byGMOペパボ」は制作会社とも定期的にコミュニケーションを取りながら、EC事業者の悩みやトレンドをインプットしている。そんな生の声からニーズを捉えられる強みを、どう生かしていくのだろうか。
「ユーザーを支援しながら、それぞれの事業成長を肌で感じています。法人ユーザーが求める機能の拡充をより一層加速し、今後も伴走していきたいです」(太田氏)
「その鍵を握るのは、他社ツールとの連携だと思います。『カラーミーショップ byGMOペパボ』は、在庫管理など様々なEC支援ツールとの掛け合わせによって、包括的にユーザーを支える地盤を作ってきました。将来的には、さらに大規模な事業者も支えられるようなサービスに成長したいです」(寺井氏)