生き残るにはカスタマーセントリックの考えかたが必須
続けて大西氏は、アパレルを中心とした小売各社の店舗数推移を見せながらこう説明する。
「これは、2019年8月と2021年9月の店舗数を各社比べた図表です。百貨店系アパレルブランドや、紳士服はコロナ禍を契機に店舗数が減少しています。逆に売上推移でも好調だったワークマンやニトリは店舗数を伸ばしています」(大西氏)
深田氏はこれを受け、「環境変化が大きい中、どのような視点で店舗やビジネスに取り組むと良いのか」と大西氏に質問する。すると、こう答えが返ってきた。
「私は、カスタマーセントリックの考えかたを持つことをお薦めしたいです。顧客を真ん中に据えた際に、ニーズや課題に対してどうバランスを取るのが自社の『ブランドらしさ』なのか。これを考え、突き詰めることができたところだけが生き残っていくと思っています。
今までは良い立地に店舗を構えれば、ある程度の売上や客数を確保できる時代でしたが、今やそれは強みになりません。こうした既存の武器をどう変えていけるかもひとつの勝負どころと言えるでしょう。もちろん、『デジタルを使える』ことも十分武器になり得ます。デジタル活用で新たな顧客と1からどうコミュニケーションを取っていけるか、といった視点も大切です」(大西氏)
各社が新たな強みを見つけるべく、OMOなどさまざまな挑戦を続けているが、深田氏は「日本でOMOをうまく実現できている企業はどこなのか」と大西氏に問いかけた。それに対し、大西氏は「中国のデジタル社会のようになんでもスマートフォンで解決できる状態ではないが、スマートフォン起点でオンラインとオフラインをまたぎ、不便が解消されているのが今の日本のOMO」と語りながら、次のように事例を紹介した。
「今の日本のOMOで実現できている価値提供は、主に『時短』『非接触』『学び』『蓄え』です。スターバックス コーヒー ジャパンや日本マクドナルドは、モバイルオーダーのサービスで顧客が列に並ぶ時間を短縮できています。
たとえば、店舗に入店して座席を確保し、座った状態でスマートフォンからゆっくりオーダーをする。もしかすると企業側はこうした使いかたを想定していなかったかもしれませんが、これは『利用方法の拡張』と言えるでしょう。『後ろに人が並んでいるから、カスタマイズにチャレンジしたくてもなかなかできない』という人も、スマートフォンから自分のペースで選ぶことができれば、やってみようと考えるかもしれません。すると、この体験は既存顧客だけでなく新規顧客に向けても良い体験を提供できているということになります」(大西氏)
続けて大西氏は、ニトリやカインズのアプリについて、良い点を説明した。
「両社のアプリには、店頭で自身が求める商品の棚の位置がわかる機能が実装されています。感染症対策として非接触の推奨や店舗運営の効率化が進んでいますが、アプリがあれば顧客は自らのペースで欲しい商品を探すことが可能です。ニトリアプリには、AR機能を使った設置場所の採寸機能『サイズwithメモ』も実装されています」(大西氏)
このほかにも、アプリで注文後、最短2時間で希望する店舗での商品受取を実現するユニクロの「ORDER & PICK」を紹介。「良い顧客体験が提供できれば、顧客もサービスやブランドにより興味を持ち、知識を蓄えてくれる」と続けた。