日本発の総合スポーツメーカーとしてグローバル展開を行い、強力なブランド力を誇るミズノ株式会社。競技スポーツ事業で培った強みや知見を活かし、トレーニングウェアやライフスタイルウェアの開発・製造・販売、スポーツ施設の運営やスクールビジネス展開など、幅広く事業を行っている。そんな同社が2016年度より本格展開を始めたワークビジネス事業は右肩上がりの成長を続け、2019年度には事業部化。ミズノのビジネスの新たな柱として、コロナ禍でも最前線で働く建設・運輸業、医療・介護、製造業向けの制服・ユニフォームやシューズを提供している。顧客の声を踏まえながら着実にビジネスとして形にすることができた経緯や、新ビジネスから得た新たな気づき、デジタル・ECの活用と未来への展望について、同社ワークビジネス事業部 次長の香山信哉さんに聞いた。
実業団ユニフォーム制作から広がったワークビジネス事業
さまざまなスポーツ競技で、プロ・アマチュアを問わず多くの選手が愛用するミズノ製品。スポーツ用品のイメージが強い同社だが、既存事業の製品開発力を武器に2016年度からはワークビジネスにも進出。3年後の2019年4月には事業部に昇格し、社内においても世の中においても着実に頭角を現している。ミズノが同ビジネスを始めた経緯について、香山さんはこう説明する。
「実は、企業のスポーツチームや実業団向けウェアを担当する法人営業部宛に、『ユニフォームの素材を使って、社員が着用する制服をつくることはできないか』というご相談を度々いただいていました。最初にご依頼をいただいたのはスポーツチームのウェアを提供していた佐川急便で、もう30年以上前のことです。最初はこうした付き合いがあるお客様に対し個別対応を行っていたのですが、依頼が増えるにつれ『機能性の高いワークウェアは今後ますます需要が高くなるのでは』と確信しました。そこで、新たな時代の戦略的ドメインのひとつとして位置づけ、ワークビジネスに本格的に取り組むことになったのです」
もともとスポーツウェアは選手のパフォーマンスを最大化させるため、動きやすさやフィット感、速乾性や通気性といった柔軟性・快適性が重視される。当然ながら、開発においてはさまざまな技術やノウハウが必要だ。「創業から110年以上かけて蓄積してきたノウハウを活かす場所はスポーツ以外にもあるはず」─そう考えながら歩みを進め、2年後の2018年2月にはワークビジネス商品のみのカタログ展開を開始。伸びゆく需要をとらえて事業部化すると同時に営業体制も強化され、開始当初は27.7億円であった売上が2020年度には68.9億円と、約2.5倍にまで成長している。
「toB向けのビジネスですから、いくら良い製品をつくっても企業との出会いを増やさなくては事業拡大にはつながりません。そこで、ワークビジネス事業部が発足すると同時に法人営業部の体制強化も行い、部員が約20人から80人へと増員されました。スポーツチーム・実業団のユニフォームを担当する社員が、事業母体である企業の制服・ユニフォームもご提案する。行政や教育施設に対しては、従来から付き合いがある外商部の社員がワークウェアも併せて提案しています。商品ラインナップの増加や世の中の需要の変化以上に、社内組織の枠組みを越えた団結が売上増という成果に結びついていると言えます」