大手アパレルをはじめ、あらゆる分野のMD改善に携わっているエムズ商品計画。代表取締役の佐藤正臣さんは、15年勤務したアパレル企業で培った物流、販売員、MD・バイヤーの経験を活かし、日々現場目線のアドバイスを行っている。目まぐるしい変化の渦中にあるアパレル業界で、企業・ブランドの伝統を守りながらも業界の明るい未来を創るべく奔走する佐藤さんは、現状をどのように見ているのだろうか。MDアドバイザーの視点から見たアパレル業界の課題と解決方法、ブランドが愛され続けるための秘訣を聞いた。
“適量”を見極める環境整備が大量廃棄問題を解決する
企業にとって、ものを売る以外にも考えなければならないことが多い時代。世間ではアパレル用品の大量廃棄が問題視され、サスティナビリティの観点からこれらを悪とする風潮がある。しかし、「それは大きな間違いだ」と佐藤さんは言う。
「MDの視点で見れば、廃棄につながる要因は商品の過剰供給にあります。また、大量生産ができなくなった際にアパレル業界にどのようなことが起きるのか、企業や雇用の存続という視点からも考えるべきです」
佐藤さんは、自身が過去にブランドを立ち上げた経験を振り返りながら、「規模が小さい企業・ブランドほど大量生産の恩恵を受けている」と続ける。たとえば衣類を製造する際に欠かせない生地も、少量での生産・発注はコストとの両立が難しい。生地メーカーは大量生産をする企業・ブランドからの発注があってこそ事業を存続することができ、小ロットで生産・発注を行う企業・ブランドは、こうした土壌が整っているからこそ作りたいものを作ることができているのも事実だ。
「また、大量生産は人々の雇用を守っている側面もあります。世の中から大量生産という概念がなくなれば、多くの人が職を失うでしょう」
佐藤さんはMDの仕事の基本に「お客様に必要な量の商品を提供する“適量”という考えかたがある」と語る。適量を見極める精度を高めることが、廃棄される商品の量を減らすというアパレル業界の課題解決には適切であり、「業界の未来を守るためにも正しいアプローチをしてほしい」と提唱した。では、実際どのように“適量”を判断すれば良いのだろうか。
アパレル業界に欠けている視点として、佐藤さんは「データをまとめ、検証・活用すること」を挙げた。しかし、ただ闇雲にデータを取得するだけでは成果につなげることは難しい。そこで求められるのは、「自社と顧客を理解し、両者をつなぐ方法を考えること」だと言う。
「必要なデータを見極めて活かすには、“前始末”が重要です。“前始末”とは、ブランドを立ち上げる前に事業計画やコンセプトをしっかりと固め、顧客ターゲットを明確にすることを指します。実店舗・EC共に1日に何人の顧客が訪れ、CVRはどの程度を目指すのか。それが業界やターゲットの現状と合致しているのかを具体的に掘り下げる必要があります。また、“前始末”は商品管理においても重要です。顧客の購買行動を読み解くには、きちんとルールを設け、共通認識を持った上で運用することも欠かせません。たとえば、『コート』と『ブルゾン』というカテゴリー分けをしている企業・ブランドで、ダウンジャケットはどちらに区分されるか。きちんと定義づけを行っていない場合、分散して数字が計上されてしまう恐れがあります。すると、いくらデータを取得しても正しい状況把握はできません」
商品管理ルールは、「既存ブランドでも統一されていないケースが往々にして存在する」と佐藤さんは続ける。ビジネスを走らせながら改めて決まりごとを作るのは大変な作業だが、避けていては適正な運用も実現できない。コスト・工数面からも負担が大きいため、現場レベルで判断は難しく、経営側がMDを理解した上で舵を切る必要があるだろう。