アパレルを中心に、近年はライフスタイルに関連する事業を幅広く展開するベイクルーズ。コロナ禍にもかかわらず、2020年8月期のEC売上高が510億円、前年比129%を記録し注目を集めている。EC売上高のうち77%は自社ECの売上であり、5年で6倍という驚異的な成長を遂げている点が大きな特徴だ。こうした成果の裏には「自社EC中心の事業構造改革やユニファイドコマースの推進、データ資産活用、顧客体験向上などといったさまざまな取り組みがあった」と執行役員 EC統括の加藤利典さんは語る。こうした戦略の背景にある考えかたや施策の実践法、今後の可能性について聞いた。
自社ECを戦略の軸に携え 分散する情報・組織・目標を統合
ベイクルーズは、約10年前よりEC戦略の軸足を自社ECに置いている。その目的を加藤さんは「外的リスクの最小化と内的価値の向上・最大化」と説明する。
「ECモールなど外部のチャネルに依存することで、自社でコントロールできない外的要因によるビジネスリスクが増大してしまう点を私たちは課題に感じていました。加えて在庫廃棄のリスク軽減や、OMOを実現するにあたって取り組む必要がある実店舗との連携、データ資産を保有することによる競争優位性を考えた際、自社ECの強化が重要だという判断に至ったのです」
こうした流れを踏まえ、同社は2013年に実店舗とECを融合すべくオムニチャネルに着手し、その進化形として、2017年9月より「ユニファイドコマース戦略」を進めている。同戦略は、単に実店舗・ECどちらでも購入できるようにするというものではなく、シームレスな統合プラットフォーム上で、顧客1人ひとりにリアルタイムで快適な買い物体験の提供を目指すものだ。これを実現すべく、近年はデータ資産の融合と組織体制構築に取り組んできたと言う。
「インフラなどのバックエンドやフロントエンドを手がけるエンジニアから、UI/UXデザイン、ウェブデザインを手がけるスタッフ、メディアプランナーやCRMなどマーケティング領域のスタッフまで、ユニファイドコマース戦略を推進するにあたり必要なコア機能に携わる者を全ブランド横断型で配置しています。ここまで内製化するのは、ファッション業界においては稀有だと思います。大変な面もありましたが、横断型でチームを組み意思決定した内容を直接共有することで施策の展開速度が上がり、全体最適化が進みました。内部にナレッジが蓄積できていることも大きな成果だと考えています」
加藤さんが取りまとめるEC統括には、ブランド出身のスタッフが約75名、専門職採用のスタッフが約60名在籍し、技術だけに偏らない絶妙なバランスを保っている。さらに基幹システムや店舗システムなどの管理を行う情報システム部門とWEB開発部門とを融合させ、ワンチームとして高速にPDCAを回すことで、全社的なDXの加速にも成功しているそうだ。
「チームで意思決定を行う際は、組織やブランド側の事情を極力排除し、あくまで『顧客がどう感じるか』を判断基準としています。個々の施策や議論の際にこうした基本を大切にしながらも、半年に1度NPS(Net Promoter Score)を取得し、顧客ロイヤリティを可視化することでアクションプランの答え合わせを行っています。リテンション(顧客維持率)も大事な判断基準のひとつです」
ベイクルーズが現在進行系で実践するユニファイドコマース戦略は、オムニチャネルを実現した上での取り組みと言える。同社は、2013年から2016年にかけて、次の4つの統合を進めてきたと加藤さんは語る。
「まずは、会員データの統合に着手しました。ECと実店舗双方で共通の会員情報を持ち、購入履歴を把握できるようにしたのです。また、従来はブランド別だった会員プログラムの共通化やブランドごとのアプリもひとつにし、サービスを統合。『ECで取り置きして店舗で試着』といったシームレスな買い物体験を提供できるようにしました。物流に関しても、在庫データを統合することに加え、5ヵ所に点在していた物流拠点を1ヵ所に集約。これにより、入庫から販売までのリードタイムを圧縮し、機会損失の最小化につなげています。そして、マーケティング施策についても統合を行いました。これまではブランド・チャネルごとに行われていたフェアや割引を共通化し、価格の統一を徹底したのです」
このように各所に分散していたものや情報を統合することで、ベイクルーズとして顧客にわかりやすく情報を伝えるだけでなく、同社がプラットフォームを起点に顧客1人ひとりに対する理解を深め、常に最適な情報を個別提供することも可能となった。
「こうした土台を固めることができたからこそ、より価値ある買い物体験を提供するための次の目標として、ユニファイドコマース戦略を掲げました」