EC事業者に立ちはだかるアンバサダープログラム4つの壁
アンバサダーを語るには、「インフルエンサー」と比較するとわかりやすい。ソーシャルメディアでフォロワーが多く、その投稿がフォロワーを中心に行動に影響を与え、ECで言えばモノが売れる人たちを「インフルエンサー」と呼んでいる。中国のECでは、KOLというインフルエンサーと組まずして、モノは売れないと言われるほどである。一方でインフルエンサー活用は、LTVの視点では疑問の声も上がるほか、やりかたを間違うと「ステマ」として炎上しかねないリスクもはらんでいる。
一方の「アンバサダー」は、「ブランドについて積極的に関わり、発言・推奨する熱量の高いユーザー」である。彼らは、企業が100%コントロールできない存在だ。好意的な投稿はうれしいけれど、日々、数字に追われるEC担当者にとっては、時間を割きがたい存在かもしれない。しかし、インターネットやSNSが登場した時点から、企業が100%情報をコントロールすることは不可能になっている。「広告は無視される」と言われて久しい。日々運用している担当者は、以前ほどその効果が万能ではないと感じているはずだ。
しかしながらそういった現実と向き合いながらも、日々の業務にSNSアカウントを活用した顧客とのコミュニケーションを組み込めるかというと、すぐには難しい。
「アンバサダープログラム的なアプローチの特徴についてお話しする前に、まずマスマーケティングのアプローチから整理しておきましょう。通常マスマーケティングでよく使われるのが、認知から行動や購入まで、下に向かって狭くなっていく逆三角形のファネルです。ECにおけるダイレクトマーケティングの手法は、インターネットを活用しているものの、マスマーケティング的な考えかたで行われるのが通常ではないでしょうか。バナー広告を幅広い層に向けて出し、メルマガを大量に出して知らせ、最終的には数%が購入してくれればいいという考えかたが軸になっている企業は多いはず。そういった従来のマスマーケティング的なやりかたでやってきたところに、アンバサダープログラムを入れようとすると、大抵4つの壁が立ちはだかります」
ひとつは、アンバサダープログラムが「既存顧客」向けの取り組みであること。従来のマスマーケティング的ECの販促手法は、主に新規獲得を目的とした手法である。
「従来のマス手法は、できるだけ多くの見込み顧客に自分たちの製品を知ってもらおうとするので、大量の露出量や認知を取りにいく選択をすることになります。一方でアンバサダープログラムは、既存顧客が商品を利用して感動したことによってクチコミし、結果的に新規顧客を連れてきてくれるかもしれないけれど、投資先はあくまで既存顧客。言葉を選ばず言えば、『釣った魚に餌をやる』活動なわけです。コミュニケーションする数のケタが圧倒的に違う。1,000万人を対象に広告を打っていた人に、『今日から1,000人のお客様と丁寧にコミュニケーションしてください』と言ったらどうでしょう。『それって意味あるの?』となりますよね」
ふたつめが、アンバサダープログラムが「アーンドメディア」で行う活動であること。
「ECでは、露出に対する売上の確率がある程度見えているはずです。ですから、お金を払えば確実に露出できる広告のような『ペイドメディア』を活用するのは予測が容易で安全です。100万人に広告を表示したり1万クリックが欲しいとなれば、それで広告の投資金額も予想できるからです。一方のクチコミなどの『アーンドメディア』は予測が難しい。担当者の人にはリスクしかない施策だと思われてもしかたない」