https://eczine.jp/article/detail/10643百貨店のECサイトの現状
現状では、百貨店のECサイトは成果を出しきれているとは言えないようです。特に、新型コロナウイルス感染症の流行下で休業を余儀なくされた間、ECサイトも休止を迫られた百貨店は少なくありませんでした。こうした背景には、後述する百貨店の仕入れ、商習慣などの体制の問題があったのです。
そんな百貨店のECサイトは総売上高の1%に満たない状態で、これはECサイトへの参入が始まった2010年代初頭と比べても大きな変化はありません。さらに、その内訳も約4分の3がギフトやお中元・お歳暮商品で、Amazonなどのネット専業事業者、日用品を主に取り扱うネットスーパーなどと比べると大きな違いがあります。
百貨店の実店舗とECサイトの違い
では、百貨店自身は実店舗とECサイトをどのように位置づけているのでしょうか。それぞれのポジショニングから、違いを見ていきましょう。
ECサイトの位置づけ
百貨店業界において、当初、ECサイトはあくまでも実店舗の延長線上にありました。店頭にある商品在庫をECサイトに掲載し、注文が入ったら店頭から在庫をピックアップ、発送という仕組みで、実店舗ありきの非常に手間がかかる手法を使っていたのです。
百貨店は長年培ってきた商習慣があるからこそ、歴史を重んじるあまりどうしてもECサイトを実店舗の下流に置きがちでした。そのため、なかなかユーザーフレンドリーな使いやすいECサイトに結びつかず、利用者数が低迷していたことは否めません。
実店舗の位置づけ
このように、百貨店業界において商戦略は常に実店舗ありきです。これは、そもそも百貨店では「消化仕入れ」という商習慣が根づいていたため、在庫を保持する方法が一般的な他の小売店での取引形態と異なるからです。
百貨店では、店頭に並んでいる在庫の段階では「商品提供元の在庫」と区別されています。そして、レジを通すのと同時に「百貨店が仕入れ、顧客に販売した」と認識されます。これを「消化仕入れ」と言います。このため、百貨店の店頭で接客している販売員のほとんどは、商品を提供している会社の社員なのです。
この取引形態は、百貨店側は在庫を抱えるリスクを負わず、商品提供元は百貨店という人の集まる場所で商品を販売できるという、実店舗が勢いを持っている限りはメリットの大きい方式でした。しかし、ECサイトにおいてはこの商習慣が裏目に出てしまったのです。
百貨店のECサイトにおける課題
前述のように、百貨店のECサイトにおける最大の課題は、「消化仕入れ」という商形態、実店舗に頼った販売形態であると考えられます。つまり、百貨店という実績や規模のある場所では商品提供元の企業もどんどん商品在庫を置いてくれますが、販売実績の少ない百貨店ECサイトに在庫を置こうとする提供元は少ないのです。
また、百貨店の多くが歴史と実績ある大きな規模の会社であることも、ECサイトに対応するための機動スピードという点では裏目に出てしまったと言えるでしょう。社内での意識の統一化が遅れたり、トップページが部署ごとにバナーを設置するだけの場所になってしまったりと、ネット専業事業者に比べるとユーザビリティの面で一歩遅れています。
つまり、百貨店のECサイトにおける課題解決策は次のふたつにまとめることができます。
- 商品の在庫確保を中心とした、商形態の見直し
- ユーザーフレンドリーな設計のECサイト作成
ここからは、これらの課題を解決する「オムニチャネル化」という考え方についてご紹介します。
百貨店の生き残り戦略、オムニチャネル化とは
前述のように、ECサイトが台頭する現代において百貨店が生き残るためには、課題を解決し現状を打破しなくてはなりません。そのためのひとつの考え方として、オムニチャネル化というものがあります。オムニチャネル化の概要と成功した実例を見ていきましょう。
オムニチャネル化とは
「オムニチャネル」とは、企業と顧客の接点(チャネル)や販売経路をすべて統合し、メディアを総合的に活用して顧客にアプローチすることを指します。オムニチャネルを意識した戦略を進めていくことで、ユーザビリティが向上し、ひいては商品の販売機会が増えることにつながります。
オムニチャネルとして活用できる接点(チャネル)には、次のようなものが挙げられます。
- 実店舗
- ECサイト
- メールマガジン
- テレアポ
- SNS(Instagram、Twitter、LINEなど)
また、オムニチャネルと似た言葉に「マルチチャネル」や「クロスチャネル」があり、それぞれ、オムニチャネルとは次のような違いがあります。
マルチチャネル
商品の販売機会を増やすため、複数のチャネルを用意すること。各チャネルは独立しているため、連携の側面は薄い。
クロスチャネル
マルチチャネルを連携させたものがクロスチャネル。前述の百貨店がECサイトを作成したところまではマルチチャネル、クロスチャネルと言える。クロスチャネルをさらに発展させたものがオムニチャネルで、連携を強化して総合的なアプローチに努める。
阪急百貨店の実例
ひとつめに紹介するのは、ECサイトと実店舗の融合を目指す阪急百貨店の例です。阪急百貨店では、2016年に「オムニチャネル推進室」を立ち上げ、オムニチャネル化に取り組んでいます。
新しい取り組みは「阪急うめだ本店」で挑戦することが多いようで、2021年9月には、LINE公式アカウントで事前予約し、来店後に待ち時間なく買い物ができるサービス「HANKYU FITTING SALON」の取り組みも発表されました。
ECサイトをユーザーフレンドリーにするためのわかりやすい取り組みとして、Amazonの決済サービス「Amazon Pay」を導入しています。Amazon Payが導入されているECサイトでは、ユーザーはログインすると、Amazonにすでに登録してある住所やクレジットカード番号を入力することなく買い物ができます。初めて買い物をするECサイトで、住所やクレジットカード番号を入力する際に、面倒なのはもちろん、情報漏洩について不安を覚えた人も多いのではないでしょうか。
Amazonは既に利用者の多いネット通販サイトであることに加え、セキュリティシステムに対する安全性・信頼性も高いことから、決済手段として利用したい人は多かったようです。Amazon Payの導入により、実店舗の販売圏外である関東からも顧客を増やしたほか、実店舗ユーザーの利便性もアップ、情報漏洩リスクを防ぐことができたそうです。
渋谷PARCOの実例
百貨店の商習慣を上手くECサイトにも適用したオムニチャネル化の例として、渋谷PARCOの「PARCO CUBE」が挙げられます。「PARCO CUBE」はオンラインとオフラインの融合を掲げる売り場であり、出店している店舗は自社のEC在庫をPARCOのオンラインストアと連携しています。
店頭販売はおすすめ商品のみに絞り込まれているものの、ショップに設置された端末や自分のスマートフォン・タブレットから他の商品も検索・検討できます。そのため、実店舗にある商品をその場で購入することも、店頭に在庫がない商品をオンラインストアで購入することもできるのです。
さらに画期的なのは、その場にある商品をオンラインストアで購入し、持ち帰りの手間を省くこともできるようにした点です。在庫をすべて連携するようにシステムを設計したことで、百貨店ならではの商習慣を活かしながらもユーザーにとって全く新しい、使いやすいオムニチャネル化を推進できた好例と言えます。
百貨店のECサイトは、実店舗とのオムニチャネル化がカギ
百貨店のECサイトが生き残るためには、実店舗とECサイトを別々に発展させる「マルチチャネル化」ではなく、実店舗と連携した「オムニチャネル化」が重要です。百貨店のECサイトが振るわない背景に、在庫確保の問題やユーザビリティの問題があったからです。
オムニチャネル化を進めることで、これらの課題を解決できる可能性が高いと考えられます。既に成功をおさめている実例はもちろん、今後も各百貨店はさまざまな方法でのオムニチャネル化が求められるでしょう。