EC・実店舗それぞれの特徴と強み
消費者の購買チャネルとして主流となっているECと実店舗。オンラインとオフラインという大きな違いがありますが、それぞれどのような特徴や強みを持っているのか見ていきましょう。

EC
ECは、場所や時間を選ばずに販売できるのが大きな強みです。一度ECサイトを開設できれば24時間365日営業でき、世界中の消費者に商品を届けられます。
また、EC構築サービスを活用すると、サイト構築のスキルがなくても比較的手軽にサイトを作れます。EC構築サービスにはもともと多様な機能が搭載されており、クーポンや割引などの機能を活用してキャンペーンを打ち出したり、外国語対応も可能です。
ECは利便性の高さも特徴。消費者はほしい商品を簡単に検索できて、夜間や土日でも購入できて便利です。
実店舗
実店舗の大きなメリットは、消費者が商品を実際に目で見て手に取れる点です。デザインや質感、サイズなどを消費者が実際に確認できるため、商品の魅力を伝えやすいと言えるでしょう。
また、対面接客ができる点も特徴のひとつ。販売スタッフが親身に接客することで、消費者との信頼関係を構築してファンを創出しやすいのは実店舗ならではのメリットです。消費者と直接話せるため、その場で消費者のニーズや質問などを聞き出すこともできます。
EC・実店舗の違い
ECと実店舗それぞれの特徴・強みを見てきましたが、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。4つの視点で比較してみましょう。
集客
ECと実店舗では集客方法が異なります。
ECの場合は、検索エンジンやインターネット広告、SNSなどを活用してデジタル施策の集客をします。そのため、検索結果で上位になるようにSEO施策に取り組んだり、リスティング広告やSNSを運用したりする必要があります。
一方、実店舗は商圏内に特化した集客がメインです。通行人や近隣住民の流入が期待できる立地を選び、店頭のプロモーション、新聞チラシやポスティングなどのオフラインの施策がメインです。
時間
ECは24時間365日営業できます。定期的なメンテナンスの時間は必要ですが、サイト訪問者が少ない時間帯に行うことで大きな機会損失を防げるでしょう。
実店舗の場合は、営業時間を設けていることが一般的で、定休日がある店舗も見受けられます。夜間も集客が期待できるエリアであれば24時間営業する店舗もありますが、夜間スタッフを確保しなければなりません。
コスト
実店舗をオープンするには、膨大な初期費用がかかります。土地や店舗を契約する際の契約金や保証金のほか、新たに店舗を建設する場合には建築費が必要です。さらに、毎月の地代家賃や人件費、光熱費などもかかります。
EC運営に必要なコストは、ECサイト構築にかかる初期費用と、サーバー費用やシステム管理費、集客のための広告費などのランニングコストがメインです。必要に応じてEC運営を行う人件費や、在庫を確保するための場所の賃借料などが必要となりますが、実店舗よりは低いコストで運営できます。
コミュニケーション
実店舗は対面で接客できるため、消費者と密な関係を築けます。実際に商品を手に取ってもらい、購買意欲に働きかけるアプローチができるでしょう。
一方、ECではオンラインでコミュニケーションを行います。購入方法がわかりにくかったり、不明点があっても直接聞けなかったりするため、離脱につながりやすくなります。このデメリットを解消するため、チャットサポートやFAQページなどオンライン接客を充実させることが重要です。

ECと実店舗を連携するメリット
最近では、スーパーマーケットや百貨店、アパレルショップなど、ECと実店舗どちらも運営している企業が多く見られるようになってきました。ECと実店舗を別々のものとして運営するのではなく、連携することで効果を最大化できる可能性があります。
ECと実店舗の連携により、以下のようなメリットが期待できます。
- ECと実店舗の購入ポイントを統合する
- EC利用者に実店舗のクーポンを配布して来店を促す
- ECから店舗受取を指定したり、実店舗に在庫がない商品をECから注文したりできる
- 実店舗の販売スタッフのコーディネートをECに掲載する
このようにECと実店舗を連携すると、より消費者にとって利便性が高くなり、機会損失を防ぐ効果があるでしょう。
オムニチャネル化とは

「オムニチャネル」とは、企業と顧客の接点(チャネル)や販売経路をすべて統合し、メディアを総合的に活用して顧客にアプローチすることを指します。オムニチャネルを意識した戦略を進めていくことで、ユーザビリティが向上し、ひいては商品の販売機会が増えることにつながります。
オムニチャネルとして活用できる接点(チャネル)には、次のようなものが挙げられます。
- 実店舗
- ECサイト
- メールマガジン
- テレアポ
- SNS(Instagram、X(旧Twitter)、LINEなど)
オムニチャネルとOMOの違い
オムニチャネルと混同されやすい言葉に「OMO」があります。OMOとは「Online Merges with Offline」の略称で、オンラインとオフラインを融合させるマーケティング戦略です。オンラインとオフラインのシームレスな融合により、消費者の購買体験の向上を目指します。
オムニチャネルは、企業側が複数の販売チャネルを連携して、販売機会を最大化することに重点を置く戦略です。対してOMOは、オンライン・オフラインの垣根をなくし、購買体験を向上させるという消費者視点での戦略である点が異なります。
その他にも「マルチチャネル」「クロスチャネル」といった類語が存在します。
マルチチャネル
マルチチャネルとは、商品の販売機会を増やすため、複数のチャネルを用意することです。各チャネルは独立しているため、オムニチャネルのように連携することに重点を置いていません。
クロスチャネル
マルチチャネルを連携させたものがクロスチャネルです。実店舗がECサイトを立ち上げるとマルチチャネル、実店舗とECを連携させた場合はクロスチャネルと言えます。クロスチャネルをさらに発展させたものがオムニチャネルで、連携を強化して総合的なアプローチを実現します。
オムニチャネル化の事例紹介
オムニチャネルについて、具体的な事例を紹介します。
Watts
100円ショップ「Watts」は、実店舗とECどちらも運営しています。EC上で店舗受取サービスを始めたところ、コロナ禍ということもあり利用者数は配送を上回る勢いで伸びていきました。店舗受取サービスを利用した顧客が実店舗でついで買いをしている傾向もあり、実店舗の売上にも寄与していると言います。
アーバンリサーチ
セレクトショップを経営するアーバンリサーチは、リアル店舗型オンラインストアをコンセプトとするECオンリーのショップ「URBAN RESEARCH BUYERS SELECT(URBS)」を運営しています。バイヤーと表参道ヒルズ店スタッフが運営し、チャット機能で店舗スタッフとコミュニケーションを取れたり、在庫状況を店舗と一元化してリアルタイムの情報を反映したりするなど、実店舗と変わらない購買体験が可能です。
エービーシー・マート
シューズ販売を手掛けるエービーシー・マートは、ECと店舗の利用促進を目的に2018年に自社アプリをリニューアル。実店舗とECで共通ポイントが貯まる会員証機能や店舗受取サービス、店舗から自宅までの配送サービスなどオムニチャネルのサービスを提供しています。
阪急百貨店
ECサイトと実店舗の融合を目指す阪急百貨店では、2016年に「オムニチャネル推進室」を立ち上げ、オムニチャネル化に取り組んでいます。
新しい取り組みは「阪急うめだ本店」で挑戦することが多いようで、2021年9月には、LINE公式アカウントで事前予約し、来店後に待ち時間なく買い物ができるサービス「HANKYU FITTING SALON」の取り組みも発表されました。

渋谷PARCO
百貨店の商習慣をうまくECサイトにも適用したオムニチャネル化の例として、渋谷PARCOの「PARCO CUBE」が挙げられます。「PARCO CUBE」はオンラインとオフラインの融合を掲げる売り場であり、出店している店舗は自社のEC在庫をPARCOのオンラインストアと連携しています。

店頭販売はおすすめ商品のみに絞り込まれているものの、ショップに設置された端末や自分のスマートフォン・タブレットから他の商品も検索・検討できます。そのため、実店舗にある商品をその場で購入することも、店頭に在庫がない商品をオンラインストアで購入することも可能です。
さらに画期的なのは、その場にある商品をオンラインストアで購入し、持ち帰りの手間を省くこともできるようにした点です。在庫をすべて連携するようにシステムを設計したことで、百貨店ならではの商習慣を活かしながらも、ユーザーにとって新しく使いやすいオムニチャネル化を推進できた好例と言えます。
実店舗・ECサイトのオムニチャネル化が成功のカギ
消費者の購買行動が多様化している現代では、実店舗とECどちらのメリットも理解したうえで自社に最適な方法を取り入れることが重要です。どちらも良さがあるため実店舗もECも運営したいという場合には、実店舗とECサイトを別々に発展させる「マルチチャネル化」ではなく、実店舗と連携した「オムニチャネル化」が重要です。
オムニチャネル化を進めることで、消費者の利便性を向上して満足度を高められるでしょう。今回紹介した企業事例を参考に、自社ならではのオムニチャネル施策を検討してみてください。