「利用シーンのデータ蓄積」が今後のひとつのキーワード
近年では、機械学習を導入することによって、よりきめ細かなユーザーのニーズに対応することも可能になっているが、基本的な設計思想はやはりパターン化の延長にあることは否めない。では、そんな問題を抱えるECサイトに対して、樋口氏が考える未来のECはどのようなものだろうか。現在は取得されていない「商品の利用シーン」「利用行動」のデータ蓄積がひとつの打開策ではないかと、樋口氏は語る。
「多くのECサイトで蓄積されるのは、購買履歴やオンライン上のトラッキングです。購入した洋服が、パーティで利用されたのか、それとも家族の祝い事で利用されたのか。そういった購入商品の利用データを取得することができれば、ファッションECにおける接客の質は格段に向上します。たとえば、『このアイテムはナイトプールでインスタ映えしますよ』『キャンプに最適な商品はこちらですよ』といった提案をすることで、これまでユーザーが考えていなかった需要を喚起することができるんです。
しかし、現在は購買商品の利用シーンはもとより、10代はどんな行動をしているのか、30代はどのような行動をしているのかと言った基礎的なマーケティングデータも取れていません。正確には、商品開発サイドはそのようなデータを取っているところもありますが、実際にECを運営しているチームがそこに関心がないことが多いのです。多様なデータがツールを使って簡単に統合できる時代になったにも関わらずです」
また、実店舗をつぶさに観察すると、そこにはECサイトには存在しない魅力の数々が見えてくるという。
実店舗における販売では、売場づくりが大きな意味を持つ。陳列什器の配置や、商品の並べ方、マネキンのスタイリングなど、売り場のデザインによって顧客の反応は大きく異なり、売上にダイレクトに反映される。実際の売り場には、商品を購入する場所としての機能だけではなく、店舗からの生活(ライフスタイル)提案で潜在需要を換気する効果があるのだ。
「商品や品揃えを企画する担当者は、利用シーンや世界観、ターゲットイメージやライフスタイルなど、さまざまなイメージを込めています。販売員は、そんなイメージを伝達しながら商品を提案することによって、新しい自分を見つけたいお客さまの欲求を満たしています。しかし、定型的なサムネイル画像の機械的な商品一覧から商品を選び出すECサイトには、そのような『提案』に相当するものが存在しません」
【調査資料DL】実店舗とECを併用している人の割合は?ファッション購買行動調査
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