「今のウェブ接客ツールは『接客』に値しない」その真意とは
「ZOZOTOWN」「SHOPLIST」「MAGASEEK」などを利用して、洋服や靴をECサイトで購入することは当たり前になりつつある。近年「元気がない」と言われるファッション業界だが、EC市場に目を向けると、そこには豊穣な沃野が広がっているようだ。
そんな追い風を受け、各モールやブランドのECサイトはさまざまな進化を遂げている。特に近年注目を集めているのが、販促クーポンの配布やABテスト、メール配信、チャット機能などを備えた「ウェブ接客ツール」。ユーザーの利便性向上や、プロモーション機能によってコンバージョンの上昇が見込まれることから、導入するサイトが相次いでいる。しかし、そんな接客ツール拡大の背景には、ECサイト側のある事情が見えてくると樋口氏は語る。
「一般に数十万人の会員がいるECサイトは、どんなにいい方向にデザインを刷新しても一時的に売上がダウンしてしまいます。そのため、UIやUXを変える決断がしにくくなってしまう。そこで、各社ではサイトのデザインを変えるのではなく、接客ツールを既存のサイトにアドオンすることでコンバージョンの伸長を図ろうとしているケースが多いんです」(樋口氏)
しかし、ウェブ接客ツールによる利便性の向上は、実店舗やECサイトを分析し購買行動を見てきた樋口氏からすると、「『接客』と呼ぶには値しない」ものだと言う。
「今の接客ツールは目的が比較的明確な来店者や、サイトでなにを購入するか迷っているユーザーを助ける『パーソナライズツール』でしかありません。『これを探したい』という明確な目的を持っているユーザーに対しては効果的ですが、買うものが決まっていないユーザーに対応することは難しいんです。実際調査データを見ても、『買うものが決まっていないユーザー』はサイト訪問者のうち、35%を超えています」
一方で、リアル店舗における接客は全く異なりますよね。接客ツールのように『何が買いたいの?』『何がしたいの?』と、問い詰めてくるような接客はリアル店舗では嫌がられる。お客さまのライフスタイルや使用シーンを伺いながら、一緒になって考えて寄り添うことが本来の接客なんです。そんな接客を通して、お客さまがそれまで考えもしなかった商品をほしくなったり、新たな発見や出会いを楽しむことができる。顧客行動をタイプで分類して『Aタイプのユーザーにはこれ』『Bタイプにはこれ』と、紋切り型のパターンに落とし込むような接客ツールとは発想が異なります。
商品の魅力を生み出したり伝えたりするという意味では、現在のECサイトの実力は実店舗の30%にも満たないでしょう。僕自身、ネットショップを見ていても、新たな発見や出会いは得られません。それでもECサイトがこれだけ売れているのは、ひとえに『便利だから』の一点に尽きると思います。もしリアル店舗並みの商品提案力や接客が可能になれば、EC化率50%も夢ではないでしょう」
【調査資料DL】実店舗とECを併用している人の割合は?ファッション購買行動調査
シンクエージェントが実施した、ファッション購買行動調査の資料です。ECの利用の仕方、実店舗での接客ニーズなど、具体的な数字を明示しながらシンクエージェントが解説。ファッションにおける消費者行動の詳細なデータを知りたい方は、ぜひご覧ください。ダウンロードはこちら。
「利用シーンのデータ蓄積」が今後のひとつのキーワード
近年では、機械学習を導入することによって、よりきめ細かなユーザーのニーズに対応することも可能になっているが、基本的な設計思想はやはりパターン化の延長にあることは否めない。では、そんな問題を抱えるECサイトに対して、樋口氏が考える未来のECはどのようなものだろうか。現在は取得されていない「商品の利用シーン」「利用行動」のデータ蓄積がひとつの打開策ではないかと、樋口氏は語る。
「多くのECサイトで蓄積されるのは、購買履歴やオンライン上のトラッキングです。購入した洋服が、パーティで利用されたのか、それとも家族の祝い事で利用されたのか。そういった購入商品の利用データを取得することができれば、ファッションECにおける接客の質は格段に向上します。たとえば、『このアイテムはナイトプールでインスタ映えしますよ』『キャンプに最適な商品はこちらですよ』といった提案をすることで、これまでユーザーが考えていなかった需要を喚起することができるんです。
しかし、現在は購買商品の利用シーンはもとより、10代はどんな行動をしているのか、30代はどのような行動をしているのかと言った基礎的なマーケティングデータも取れていません。正確には、商品開発サイドはそのようなデータを取っているところもありますが、実際にECを運営しているチームがそこに関心がないことが多いのです。多様なデータがツールを使って簡単に統合できる時代になったにも関わらずです」
また、実店舗をつぶさに観察すると、そこにはECサイトには存在しない魅力の数々が見えてくるという。
実店舗における販売では、売場づくりが大きな意味を持つ。陳列什器の配置や、商品の並べ方、マネキンのスタイリングなど、売り場のデザインによって顧客の反応は大きく異なり、売上にダイレクトに反映される。実際の売り場には、商品を購入する場所としての機能だけではなく、店舗からの生活(ライフスタイル)提案で潜在需要を換気する効果があるのだ。
「商品や品揃えを企画する担当者は、利用シーンや世界観、ターゲットイメージやライフスタイルなど、さまざまなイメージを込めています。販売員は、そんなイメージを伝達しながら商品を提案することによって、新しい自分を見つけたいお客さまの欲求を満たしています。しかし、定型的なサムネイル画像の機械的な商品一覧から商品を選び出すECサイトには、そのような『提案』に相当するものが存在しません」
【調査資料DL】実店舗とECを併用している人の割合は?ファッション購買行動調査
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パターン化した接客から、ニーズを掘り起こす提案型の接客へ
樋口氏率いるシンクエージェントで提供する「SCreen SHOP(スクリーンショップ)」は、デジタルサイネージを活用したリアル拠点での販売ツール。このソリューションでは、ネットショップの良さと実店舗の良さを統合し、インタラクティブなタッチパネルを利用しながら商品の魅力を増幅して生活提案をするというハイブリッドな方法を採用している。
「通常の店舗のように商品を手に取ることができない代わりにデジタルサイネージを活用して、利用シーンやTPOなどのさまざまなケースをイメージさせることができます。タッチパネルの操作によってコーディネートの提案をすることができ、ユーザーの顔を取り込めば自分に似合うかどうかを確認することもできる。また画面の背景を変えれば、オフィスでどのように映えるのか、パーティー会場ではどのように見えるのかといった利用シーンごとの見え方も楽しめます。
今のECサイトは、『いっぱい商品を集めたから自由に選んでね』と、少しユーザーを放り出しているような状態にもみえますが、これらの機能を活用することによって、ユーザーは新たな気付きを得ながらショッピングを楽しむことができるんです」
この他にも、「Store Walks」では、VR動画でバイヤーが提案する実店舗の世界観をバーチャルに再現することによって、実店舗誘引とECの販促効果を高めることを可能とし、「VRooming3D」ではサイネージ上に3Dオブジェクトとして家具を展示・販売することができる。
「一見すると、弊社のサービスは現行のECの代わりのように見えますが、この仕組みが浸透することによって、既存のECとは全く異なった買い方が生まれるのではないかと考えています。
たとえば、現在、ECサイトで衝動買いのトリガーとなるのは、タイムセールがメインですよね。しかし、売り場や組み合わせも含めた商品提案をすることで、ユーザーが新たな価値に出会うことで商品を購入する。値段以上の生活価値を感じて購入する。これは、ECサイトではこれまでにない購買行動です。
デジタルテクノロジーは日々発達していますが、まだまだ手付かずの領域が山ほど眠っているのではないでしょうか」
ユーザーをパターン化した接客から、ニーズを掘り起こす提案型の接客へ。それによって、ユーザーに対して新しい発見や出会いを創出することができれば、サムネイルから商品を選択するだけのECサイトとは異なり、体験としてのECへと変わっていく。実店舗とネットショップそれぞれの魅力に精通した樋口氏だからこそ出した答えは、ECの未来を変える可能性を秘めているのではないだろうか。
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