ITPの影響が数字で見えてきた
売る側の都合よりユーザー体験重視を
今回は、運用型広告全般にかかわる2018年の大きな流れについて話してもらった。大きな流れとしては、「広告は広告ではないものから影響を受け始める」ということ。大きく3つの要素に分けられると言う。
ひとつめは、「ユーザーターゲティングvsプライバシー保護」だ。前回の定点観測において、AppleがOSアップデートの際にITPという、Cookieの利用を制限する機能について重点的に話してくれた。具体的には、広告効果測定、リターゲティング広告の配信に影響するとのことだった。
関連サービスを提供する企業は相次いで対策を発表したものの、直近の決算ですでに売上ダウンの発表も少なくなかった。とくにITPによってアフィリエイトのような成果報酬型広告では売上が正確に計測できず、見た目の上で売上が減少し、EC事業者における広告費用対効果の悪化を招いている。
前回の定点観測で、ITPの実装は、ユーザー体験を損なうほどに加熱した、とくにリターゲティング広告の出稿への対策だと解説してくれた。2017年のAppleの対応は、影響が大きいため注目されたが、これで終わりではないらしい。こうした動きは、2018年も加速するのではないかと田中さんは言う。
審査が通ったからOKではない 広告主が自分を律し、勉強を
ふたつめは、「広告表現vs法令遵守」。関連するトピックスとして2017年12月6日に「Google ウェブマスター向け公式ブログ」で発表された「医療や健康に関連する検索結果の改善について」を取り上げた。ブログによれば、「医療従事者や専門家、医療機関等から提供されるような、より信頼性が高く有益な情報が上位に表示されやすくなる」「今回のアップデートは医療・健康に関連する検索のおよそ60%に影響する」とのこと。医療系まとめサイト「WELQ」がそのコンテンツの内容を指摘され、運用休止に追い込まれた一連の騒動は、記憶に新しい。
「アップデートにより、SEOで順位が下がってくると、単純にウェブサイトへの訪問数が減少しますので、多少なりとも広告出稿を進める流れが起きると思います」
この動きは、単に健康食品やコスメといった商材のプロモーションに、アフィリエイト等の貢献度が落ちるといったことだけにとどまらない。
「Googleも重要視しているYMYL(Your Money orYour Life)は、お金や生活にかかわるコンテンツは、ほかのジャンルに増して高品質なコンテンツを提供すべきだという考えかたです。SEOだけでなく、広告も同様の流れになっていくでしょう」
たとえばこれまで、薬機法(旧:薬事法)に沿わない広告クリエイティブが、プラットフォーム側の審査を通り表示されることもあった。また、健康食品やコスメの定期購入モデルについても、ランディングページに小さい文字で記載しているだけで、気軽に商品を試すだけのつもりが、いつの間にか定期購入プランに入っていたというトラブルも多発している。
これについて田中さんは、プラットフォームの審査に通ったからOK、注意書きで小さく書いてあるから法には触れないのでは、といった言い訳は通用しなくなってくると言う。とくに複数回購入が条件の定期購入については、2017年12月1日に施行された改正特商法において、「定期購入契約に関する表示義務の追加・明確化」が謳われており、改正内容やガイドラインに沿った運用がすでに求められている。
「僕自身も、ショッピング広告にきちんと取り組む以前は、二重価格表示のことを考えたことがありませんでした。とても恥ずかしいことですが、知らなくても広告運用だけならできてしまう。でも、広告運用ができるだけでは通用しなくなる時代が、すぐそこまで来ていると感じています」