三陽商会の進めるコミュニケーション戦略とは?
オムニチャネルのさらに先へ デジタルショッピングの潮流と近未来
BtoCコマースの顧客事例として登壇したのは、「100年コート」で知られる三陽商会の安藤裕樹氏だ。
顧客接点が多様化・複雑化する中で、同社は「よいものを作れば売れる」という旧来のメーカー気質から情報発信が不足していたこと、販売宣伝も一方通行的・単発的であったこと、そしてECと店舗で別々の顧客管理を行っていたことなどを課題に感じ、オムニチャネルを推進。さまざまなメディアやチャネルを活用し、「顧客体験の価値向上」の実現を目指している。
2014年に自社ECサイト「iStore」にて、店頭在庫を引き当てる「お取り寄せ購入機能」を実装。2015年にはSAP Hybrisを導入してEC基盤をリプレイス、ECと実店舗の顧客データベースを統合した。2016年には、ECサイトで実店舗の取り置き予約が可能な機能を実装したり、会員ステージサービスを導入したりといったことを行ってきた。
「SAP Hybrisの採用は、単なるEC基盤ではなく、『オムニチャネル推進のハブ機能』として期待してのことです。とくにポイントとなったのは、複数サイトを共通プラットフォームで管理・運用できるマルチマルチサイト対応であること。ふたつめは、将来のグローバル対応も含めた拡張性です。今後も、新しいチャネルやメディアは増え続けるでしょうから、それぞれに合わせて、迅速に対応していきたいと考えています」
2013年からオムニチャネルを進めてきた結果、数値で見える成果も現れてきた。たとえば、リアル店舗とECとの買い回りについて、両方で購入する顧客のLTVは、どちらか一方だけでの購入する顧客の約3倍に(※両方利用する購入者は、全購入者の10%程度)、ブランド間の買い回りについては、複数ブランドを購入する顧客のLTVは、単一ブランド購入者の約3倍となっている(※複数ブランド購入者は全購入者の20%程度)。
しかしながら安藤氏は、こうした成果はオムニチャネルの一機能にすぎないとの認識だ。これからは、本来の目的である「チャネル横断のコミュニケーション」に取り組んでいくと、意欲を見せた。
さらなるオムニチャネル推進にあたり、安藤氏が感じているのは「データによるアプローチの限界」である。たとえばある条件のもとセグメントを切ったり、購買履歴(結果)だけを見ても、「新たにオススメするべきもの」の正解はなかなか見えてこない。一方でリアル店舗であれば、その場の接客から得られる情報をもとに、見えてくるものがあると言う。
「これからの取り組みとして、ただ基盤を整備すればいい、分析すればいい、効率を追求すればいいというものではないと思います。効率化は重要ですが、ただ単純化・短縮化するのではなく、事業者と顧客の双方顧客にメリットがあるような快適さが必要です。時間をかけてでも、リアル店舗で現物を確認したい顧客にはそのように対応するなど、『良い体験(接客等)』をリアルとネットのハイブリットで仕掛けていきたいと考えています」
具体的な取り組み例として、在庫を積みにくい店舗でも行える、新たなショールーミングの仕掛けを紹介してくれた。仕組みとしては、RFIDの商品データを、店舗接客端末やサイネージで読み取り、QRコードつきのレシートが出力されるというものだ。
「写真に撮っていただいたり、ブックマークしていただくだけでは、たくさんある情報の中に埋もれてしまう。でもレシートであれば、その場で購入しなくとも、とりあえずお財布の中などにしまっておいて、またあとで見ていただく機会もあるはず。こういったアナログ的な手法も混ぜていく必要があるのではないでしょうか」
最後にまとめとして、安藤氏は三陽商会のコミュニケーション戦略の図を示した。具体的には、メール・アプリ・SNS・ECサイト・実店舗など、さまざまなメディア・チャネルにおいて、コミュニケーション自体をパーソナライズし、お客様の「不満の解消」と「特別感の提供」を実現すること。
「お客様に買っていただくのは商品ではなく体験、使っていただくのはお金でなく時間だと考えています。そのためにインタラクティブなコミュニケーションを行うことで、顧客のファン化が進み、 その結果として、LTVやアクティブ率の向上が期待できるのではないでしょうか」
スノーピークが語る「顧客エンゲージメントのためのデジタル変革」
もうひとつ、マーケティング&コマース(BwithC)の顧客事例として、スノーピーク 皆川暁洋氏が登壇。「顧客エンゲージメントのためのデジタル変革」と題し、講演を行った。
デジタル変革を支援するソリューションとして、「SAP S/4HANA」「SAP Predictive Analytics」「SAP BPC」「SAP BO」「SAP Hybris Commerce」「SAP Hybris Marketing」と、SAP社が提供する基幹、アナリティクス、コマース、マーケティングの一連のサービスを採用している。
自社のビジネスの特徴を「BtoCではなく、BwithC」だと表現するスノーピークが目指すデジタル変革とは。SAP Hybrisのソリューションを活用し、実際に行った変革、その成果とは。次回の記事で詳しくお届けする。
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