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経営の泥沼にはまらぬよう「売りたい価格」「売れる価格」の見極めを
森野 連載第1回では、講演漫談家の吉村正裕さんからEC経営に必要な考え方や持っておくべき基礎知識について教えていただきました。今回は、会計・税務に関するより詳しい内容を「EC会計のプロ」といえる税理士の八木橋泰仁さんにお聞きしたいと思います。まずは、簡単に自己紹介をお願いできますか。
八木橋 東京でファシオ・コンサルティングという会計事務所に加え、保険代理店なども経営しています。税理士業務の中ではEC事業者からの相談も受けており、楽天グループが楽天市場出店者向けに提供するウェブ講座「楽天大学」でEC向け会計講座を担当するなど、ノウハウ提供も行ってきました。

森野 まさに「EC×会計」について教えていただくのにぴったりな八木橋さんですが、まずは基本的な「売値」の話からお聞きしたいなと思います。
利益を出す上で売値の設定は大変重要ですが、価格競争が激しいカテゴリーではどうしても「1円でも安くしないと」と思い込みがちです。当然ながら、安くする=利益が圧迫されるわけですが、売り手はどのように戦略を立てて価格設計や利益確保をしていくと良いのでしょうか?
八木橋 ECサイトの戦略を立てる際、型番商品を扱うかオリジナル商品を売るかで方針は大きく変わりますが、まずは「売りたい価格」と「売れる価格」は基本的に別のものだという考えを大前提として持っていただきたいです。
「売れる価格」とは「顧客に買っていただける価格」を指します。この価格設定は安くすれば良いので比較的容易ですが、問題はその価格できちんと利益が出るかどうかを見極めることです。安いから売れるのは当然なので、利益が出る「売りたい価格」で販売できるか。このセオリーを理解しているかどうかで、EC経営の明暗が分かれます。
森野 今はスマホ一つで簡単に価格の比較ができますし、消費者の節約意識も相まってほんの数円の差で売れ行きが大きく変わることもありますよね。「安くする」以外の戦略が重要だなと痛感します。
八木橋 安売りして売ること自体は誰にでもできますが、利益を出すには安く仕入れなければなりません。すると、資本力のある企業ほど有利になります。多少の赤字でも他の商品や事業で補填できる大手EC事業者は耐えられますが、中小EC事業者は価格競争に巻き込まれると勝ち目がありません。不利な戦略に自ら乗ると、泥沼にはまってしまいます。
森野 そこで大事になるのが、「売りたい価格」と「売れる価格」の見極めということですね。