多チャネル展開時は要注意 健全にEC運営するなら粗利益率何%が理想?
森野 「売りたい価格」と「売れる価格」を見極めるにしても、利益をどの程度確保すべきかわからない方もいるのではないでしょうか。適正な利益を残すための価格設定の方法や、目安とすべき利益率を八木橋さんに教えていただきたいのですが。
八木橋 利益率はビジネスモデルにもよるため、「何%」と一概に決めるのは難しいですが、健全に事業を継続していくにはあらゆるコストを差し引いた上で10%を切らないようにするのが理想的だといえます。
EC運営をしていると、広告宣伝費やクーポン発行などによる販促費、配送料などといった「販売管理費(販管費)」が常にかかります。しかも、これらは流動的なものもあるため、「1万円の商品を売ったら、1,000円の利益が残る」と単純計算できるわけではありません。それらも加味して利益を残せる価格設定をしなければならないため、1商品あたりの粗利益率は20%~30%程度確保しないと厳しいでしょう。
森野 ビジネスを長く続けるには、やはり粗利益率は20%~30%を維持しておきたいところですよね。

八木橋 そうですね。仕入れの段階から十分な粗利の確保が難しそうな場合は、「他の商品と抱き合わせて売ってトータルで粗利益率を上げられるのか」「自分に売る力があるのか」「どの程度売れるのか」を見極め、その商材を扱うべきかどうか、何個仕入れるのかを決める必要があります。
森野 この数字を理解しても、実際にEC運営に携わっていると入金と支払いのタイミングのズレから「最終的にどの程度利益が残るのか」が見えにくくなりがちです。「資金繰りができているか」「キャッシュフローは健全か」といった判断や管理は、どのようにすれば良いのでしょうか。
八木橋 キャッシュフローは、お金の流れを意味するものです。特に重要なのは、仕入れによる支出、売上による売掛金の回収というお金の流れです。ドロップシッピングのような商法ではないかぎり、事前に仕入れを行いお金の支払いが先行し、その後に販売し、その売上代金が入金されるまで、ある程度の期間がかかることになります。
そのため、出店するモールや顧客が利用する決済手段によって入金のタイミングは様々ですが、ECサイトの売上は直ちに現金化できないケースがほとんどです。キャッシュとして手元に入ってくるのは、おおよそ2ヵ月後と思っておくと良いでしょう。これを考慮すると、最低でも月商2ヵ月分相当のキャッシュを常に確保しなければ、売上減少時にすぐに資金不足に陥るリスクが増えてしまいます。安定した経営を目指すなら、仕入れに必要なキャッシュの他に、運転資金として月商4ヵ月分程度のキャッシュを確保しておくのが望ましいです。
森野 月商1,000万円なら、常に4,000万円程度のキャッシュを手元に置いておこうということですね。
八木橋 実際は、仕入れている商材やEC以外のビジネスの状況によって手元に持っておきたいキャッシュの額は変わります。特に季節商材が売上の柱となる場合、シーズン前に大量の在庫を確保しなければならないため、売り始める前にかなりのキャッシュアウトが発生します。売り切れば回収できますが、売れ残りが発生すれば翌年まで持ち越す、もしくは流行り廃りによっては廃棄などの損失が生まれるため、事前の需要予測や資金繰りの管理が非常に重要です。
森野 多チャネル展開している場合は、「どこでどれだけ売れるか」の計算もしなければなりませんよね。自社ECとモールでは販売手数料、決済手数料など差し引かれる金額が大きく変わります。それも踏まえて計算しないと「売り切ったはずなのに、思ったよりも利益が残っていない」となりかねません。
八木橋 売上や売掛金は、多くの場合手数料などを差し引いて入金されます。つまり、100万円売ったら2ヵ月後に100万円入ってくるわけではない、ということです。
特に、モール内で広告出稿もしている場合は気をつけなければなりません。商品がたくさん売れていても、広告費がかかりすぎていたら最終的な入金額が思った以上に少なく、利益率が下がってしまいます。キャッシュ不足に陥らないよう、資金の流れはしっかりと把握・管理しましょう。