ECモールで顧客の興味を引く難しさ 「もちはだ」の適材適所とは
「『もちはだ』を着用した人の世界から『寒い』をなくしたいのです。実現できれば、冬がもっと楽しくなると思いませんか」
ワシオの3代目を継いだ鷲尾氏は、そう語る。1955年に創業した同社は、人々の生活に寄り添った衣類を開発し続けてきた。その主力ブランドが、独自技術による裏起毛素材を使用した小物やインナー、アウターを取り扱うもちはだだ。編み目の切断を防ぐことで通常の起毛よりも保温効果を高め、独特の肌触りを生み出しているという。鷲尾氏は「他社には真似できない編み方が強み」と話す。
「当社は、靴下を販売する卸問屋としてスタートしました。現在は、靴下用の編み機を独自改良し、もちはだの商品を生産しています。この『鷲尾式起毛』と同じ編み方ができる企業は、ほかにありません」
著名人が自身のYouTube チャンネルで使用感を紹介するなど、徐々に支持を集めていたもちはだ。その知名度をさらに押し上げたのが、鷲尾氏が投稿した1本の「note」の記事だ。
記事では、同社が経営危機に瀕している現状やそこから脱却するための戦略が語られている。中でも、年間1億円を売り上げていた楽天市場からの撤退は、大きな選択といえるだろう。なぜ、全体売上の20%にあたる販路を手放したのだろうか。
「楽天市場に限らず、ECモールは多くの企業にとって重要な販路です。しかし、春夏の時期にはあまり需要がなく、トレンドに合わせた商品開発が難しいもちはだには、ECモールの販売方法が合いませんでした。
ブランドの強みである起毛の特徴などを伝えるには、細かな説明が必要です。自社以外の商品も掲載されているECモールで、お客様に振り向いてもらうにはハードルがあります。そのため、既にもちはだに興味があり、自社ECサイトを訪問してくれたお客様に焦点を当てたほうが良いのではないかと考えました」
自社の顧客と丁寧にコミュニケーションを取る。その実現に向け、ワシオは2024年2月に運営体制と自社ECサイト刷新への取り組みをスタートし、同年の4月に楽天市場への出店を停止した。
「これまで楽天市場が販売の軸だったため、自社ECサイトに掲載する情報も同モールに合わせていました。商品名や紹介文もSEOを意識した表現、かつ文字量が多くなっていたのです。そこで、新たな自社ECサイトでは文字情報や機能をかなり削りました。その結果『優しくてほっこりする雰囲気』が伝わる場に生まれ変わっています」