売上が自社販売の5倍となったブランドも
1716年に創業した奈良県の老舗企業・中川政七商店。自社で工芸をベースにした生活雑貨のSPA事業を行う一方で、同業界のコンサルティング事業や販路開拓のサポートも行っている。その一環として、同社が2023年10月に自社ECサイト内に立ち上げたのが、ECモール「さんち商店街 Selected by 中川政七商店(以下、さんち商店街)」だ。
「当社では、全国各地の工芸メーカーと協業したオリジナル商品を販売していますが、さんち商店街には、各メーカーが自社ブランドとして出店できます。自社ECサイト内の新しいコーナーという枠組みでスタートしました」(中武氏)
さんち商店街で販売されている商品は、食器やアクセサリー、ブランケットなど様々だ。2024年6月6日時点で、26ブランドが出店している。
「地方の工芸メーカーがEC事業を軌道に乗せるには、ECサイトのメンテナンスや在庫管理、集客、発送作業、問い合わせ対応など、様々なハードルがあります。しかし、ものづくりの傍らでこれらのタスクをこなすのは、容易ではありません。彼らがものづくりに注力できるよう、EC事業における課題を取り払い、商品を納品するだけでEC販売できる環境を提供しようと考えたのです」(中武氏)
さんち商店街では、中川政七商店が出店ブランドのウェブサイト制作から集客、物流業務の代行のほか、売上レポートの作成まで請け負う。出店ブランドが、中川政七商店に出店料やレポート作成費用などの手数料を支払う仕組みだ。同社の支援を受け、既に売上成長を遂げた事例も生まれている。
「さんち商店街のオープンと同時に販売を開始した2ブランドは、約半年で想定の1.6倍の売上を記録しました。中には、ブランドが運営する自社ECサイトの売上を、5倍上回った事例もあります。こうした中で、新たな出店ブランドも増えています」(中武氏)
会員数が約2年で3.5倍に CRM強化の効果
さんち商店街が好調なスタートを切れた背景には、中川政七商店が培ってきた「プラットフォームの強さ」がある。同社の自社ECサイトは、平均月間PV500万、月間訪問者数80万人と盤石な基盤を有するだけでなく、約5,000点の品揃えと、工芸にまつわる記事やメルマガなどといった豊富かつ多様なコンテンツをもつ。同社はこれらの特徴を生かし、現在進行系でCRM強化に取り組んでいる。
「当社が行うものづくりは、基本的に大量生産ではありません。数量が少なく欠品する頻度も高いため、シナリオメールによる商品提案などが難しく、集客に課題がありました。そのため、お客様と深くつながるCRMの強化を進めたところ、2022年比で自社ECサイトの会員数は20万人から70万人に、メルマガ会員数は10万人から30万人に増加しています」(中田氏)
取り組みを重ねる中で、同社は販促だけに特化したCRM施策では、LTVが改善できないことにも気づいたという。
「以前は、メルマガを中心に商品の訴求を行っていました。しかし、それでは当社全体のブランディングには効果がありません。そこで、お客様とのあらゆるタッチポイントを総合的に管理し、全体最適なアプローチを行う必要があると判断したのです。これをきっかけに、CRM戦略の抜本的な見直しを始めました」(中田氏)
CRM戦略の見直しにあたっては、次のような課題が洗い出された。
- 取扱商品が少量多品種のため、自動化による工数削減が期待できない
- 多様な商品に合わせて、多くのマーケティング施策が必要となる
- 各施策のROASが細分化され、広告効果の測定が難しい
既存のMA・CRMツールでこうした課題を解消するのは極めて難しい。そこで同社は、シナジーマーケティング株式会社らと共同開発したBRAND GAP SOLUTION「MONJU」を活用している。同ソリューションには、各種CRMデータを多角的に活用する中川政七商店メソッドを反映し、ブランディング全体をサポートできる仕組みが実装されている。
「販促に限らず、商品がお客様の手元に届くまでの各段階で適切なコミュニケーションが取れる体制を整えました」(中田氏)