買い替えサイクルが長い家電特有の課題が自社EC強化のきっかけに
Cookie規制や個人情報保護意識の高まり、法整備によって、重要度が増しているファーストパーティデータ活用。月間数百万セッションを記録する家電のEC専門ショップ「XPRICE」ではその価値に着目し、現在は自社ECを軸に適切なデータ活用と情報提示を行い、顧客が自分との結びつきを強く感じられるような「レレバントな体験(※)」の構築に挑んでいる。
※『BtoC向けマーケティングオートメーション CCCM入門』(岡本泰治・橋野 学、インプレスR&D、2015年)では、類似用語として「レリバンシー」の意味について次のように紹介されている。
「直訳では『関連性』だが、マーケティング用語として使うときには『その人にとって意味がある』『興味・関心がある』『好みや嗜好に合う』といったニュアンスとなる。文脈によっては『自分ごと』と言い換えることもできる。」
XPRICEの事業戦略やマーケティングを統括するエクスプライス株式会社 取締役 マーケティング本部長の城守豪氏は、実店舗をもたず100%オンラインで売上を創出するXPRICEについて「自社ECだけでなく楽天市場など主要プラットフォームも網羅するチャネル戦略をとっている」と紹介。同サイトは、メーカー各社と接点をもつ小売の強みを生かしたプライベートブランド(PB)展開や延長保証・家電設置サービスなど、利用体験の充実化にも目を向けることで、「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー2021」などの賞も獲得している。
城守氏は、モール展開について「高い集客力と知名度拡大の機会を得られる」とメリットを語る一方で、出店料や手数料の負担やプラットフォームごとのレギュレーションへの対応、マーケティングを実施する際の制限などといった課題を挙げた。
「家電は、購入サイクルが年単位と他商材と比べて長い傾向にあります。たとえば、冷蔵庫を購入した人に『新しい冷蔵庫を買いませんか』とアプローチしても、買い替えるのは数年後です。当社としては、たとえば製氷機のフィルターやクリーニングなど関連する商品やサービスを提案したいところですが、アプローチできる期間の制限やセグメントの粒度を踏まえると、モールでこうしたレコメンドを実施するのは難しくなっています。マーケティング施策のパフォーマンスを上げるためにも、自分たちで顧客情報をもち、有益なアプローチができる自社ECへ注力すべきだと考えました」(城守氏)
鍵となるのは「レレバントな体験」
自社ECであれば、性別・年齢・居住地域といったデモグラ(属性)から購入商品、決済手段など様々な「購買データ」を得られる。Rokt合同会社 ビジネス開発 ディレクターの大野皓平氏は、「こうしたファーストパーティデータの活用方法は無限大」とした上で、秘められた可能性を最大限に引き出すため、「購入の瞬間」に着目する重要性を強調した。
「『トランザクション・モーメント』と呼ばれる顧客が商品を購入する瞬間は、オンライン上の行動の中で幸福度が最も高いタイミングだといわれています(Rokt調べ)。しかも購入や決済の瞬間は、マルチブラウザ・マルチタスク時代のオンライン行動の中で、ほぼ唯一の『ながら』で行動しない、集中している時間だといえるでしょう。
そのタイミングで、データ活用による顧客理解を通して、その顧客が真に求めている情報提供(=レレバントな体験創出)をすれば、さらなるエンゲージメントを引き出せるはずですが、まだこの価値に気づいていなかったり、具体的なアプローチ方法を見出せていなかったりといった事業者が多いのが実情です」(大野氏)