CXの最適化における現実解としての3つのステップ
──そのような状態を脱却して、全社的なナレッジマネジメントに基づいた“最適なCX”をどのようにして実現させていくのですか。
理想としては、前述のように情報を一元管理し、統一的なガバナンスのもと、顧客像の共有や権限設定が行われている状態でオペレーションされていることが必須になります。しかしながら事業は継続しているわけですから、プラットフォームを整えてからCXに取り組むというのは現実的ではありません。現実解としては、情報が管理される場所、たとえばFAQサイトやポータルサイトをより良い形で作成し、最適化を図りながら、その過程で各部門に参加してもらいつつ、ナレッジを統合していくことが第一ステップとなるでしょう。
その上で次のステップとして、コンタクトセンターでの対応をベースに、顧客の反応や変化に合わせて、リアルタイムでアップデートできる仕組みを構築します。これまでコンタクトセンターは、「顧客サービスの最後の砦」などとも呼ばれ、お客様のクレームや要望の集結地であり、「対処すれば良い」との考えで運営されている企業が多かったと思います。しかし、コンタクトセンターの対応がもっともお客様に満足感や納得感を与えているのであれば、その内容がFAQサイトにリアルタイムで掲載されるべきです。第一ステップでFAQサイトが全社のナレッジマネジメントとして一元管理されていれば、自然とコンタクトセンターでのアップデートが全体に反映されることになります。
そして第三のステップとして、コールセンターで発生する会話集を可視化し、チャットbotなど顧客対応の自動化を行っていきます。対話型AIは手間やコストが掛かり、なかなか手が出しにくいと思われていますが、会話自体をデータ化してAIの教示データにできれば、想像以上に容易に構築することが可能です。これが実現すれば、コンタクトセンター以外のチャネルでも十分満足した回答が得られることになります。もちろん、チャネルによってさまざまなニーズがあるため、データを取得しながらトライアルアンドエラーすることで見定める必要があるでしょう。
このように述べると「AIによってカスタマーセンターの有人サービスが消える」と想像されるかもしれませんが、私は絶対にそんなことはありえないと考えています。たとえば、カウンターサービスを自動化するホテルも出てきていますが、高級旅館ではその方針は取らないのではないでしょうか。カスタマーセンターでも人が担うべき仕事は必ず残ります。しかし、人材不足や人件費の高騰などを考慮すれば、デジタルでできることや得意なことはデジタル、人が行うべきところには人が携わるほうが望ましいことは明らかです。いわゆる適材適所、最適配置ですね。そして、誰が何を担うかは時代とともに変化し、お客様のニーズも変わるため、常にアップデートし最適化する必要があると考えています。