久しぶりのリアル大型イベント フランスのVivaTech
「Viva Technology(Viva Tech)」は、2021年6月16日から4日間、フランス・パリで参加者を入れて開催されました。すべてのプログラムがオンラインライブ中継されたので、正確にはハイブリッド開催です。
VivaTechは、2016年から始まったフランスのベンチャーイベントです。主催はフランスの大手広告エージェンシー Publicis Groupe。2019年のイベントには、1万3,000ものスタートアップ企業と、3,300人以上の投資家が参加しました。来場者は12万4,000人という大規模なイベントです。
ヨーロッパのスタートアップイベント「Web Summit」と同様、VivaTechも毎回豪華なゲストが登場することで知られています。これまで、AlibabaのJack Ma氏、MicrosoftのCEO Satya Nadella氏などが登壇。今年もAppleのCEO Tim Cook氏、FacebookのCEO Mark Zuckerberg氏、ZoomのCEO EricY u a n氏、Magic LeapのCEO Peggy Johnson氏、Googleの元CEOで、現在は自身の財団運営やアメリカ政府の人工知能国家安全保障委員会にも参画しているEric Schmidt氏、IBMのArvind Krishna氏など、錚々たる顔ぶれでした。多くはバーチャルでの参加でしたが、アメリカから飛行機でやってきた登壇者もおり、世の中の変化を感じました。
多彩なゲストのひとりが、フランス大統領のEmmanuel Macron氏です。2017年に大統領就任以来、Viva Techにも頻繁に参加しています。同氏は投資銀行でのキャリアを持ち、投資のいろはを熟知しているため、就任後に経済・雇用政策としてハイテクベンチャーの奨励と立ち上げ促進をしています。ちょうど就任した年にフランスの起業家Xavier Niel氏が立ち上げたベンチャー施設「Station F」がオープンしたことも、Macron氏のベンチャー政策には追い風でした。
ヨーロッパの起業家数名とのラウンドテーブルで登壇したMacron氏は、「2017年から2020年で資金調達額は倍になった」「ユニコーン企業も今年だけですでに5社誕生した」と、スタートアップ政策の成功をアピールしました。フランスは2022年1月から6月に欧州連合(EU)の議長国を務める予定で、自国のスタートアップ成功のノウハウをEU全体にスケールさせる「Scale Up Europe」をアジェンダに入れる模様です。
印象的だったのは、同氏がしっかり40分起業家の質問に答えていたことです。たとえば「アメリカや中国のスタートアップと競争するには、人材と資金の迅速な確保が必要。政府は何をしてくれるのか?」という質問には、単一経済圏としてEU全体でスタートアップ支援を進め、ヨーロッパの金融機関の流動性を高めたり、アメリカや中国の投資家をヨーロッパに集めたりすることもできると回答しました。
ヨーロッパでは基本的に教育は無料ですが、市民の税金を注いで育てた学生の雇用が進まず納税者にならない、さらには優秀な人材の国外流出といった長期的な課題を抱えています。起業しても規模が大きくなると本社機能をアメリカに移転したり、IPO時に流出してしまったりといった課題が存在するのも現状です。
政治における技術の役割が大きくなる中、覇権争いにおいてもハイテクベンチャー育成は大切です。「政治的なアジェンダでもある」とMacron氏も認めています。
同氏は登壇前後にマスク姿で会場を歩き、展示を見たようです。大統領自らがこのように時間を割いて投資家と同じステージに立ち、会場を視察する。しかも毎回行っていると聞くと、スタートアップ政策への本気さが十分に伝わります。
VivaTechではスタートアップのピッチコンテストはもちろん、FinTechのKlarna(スウェーデン)、デジタル音楽のBelieve(フランス)といったヨーロッパのスタートアップのほか、フランスを代表するラグジュアリーブランドLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン グループのデジタル戦略なども紹介されました。イベント中、建物内にいる人数は最大5,000人になるように管理されていたそうです。