ECサイトリニューアル、トラブルが相次ぐ原因を探る
――田中さんは、アナグラムで運営しているブログで「eコマース2020年問題」を取り上げていました。ここのところ、大規模ECサイトのリニューアルトラブルが相次ぎ、予言か!との声も聞かれます。「eコマース2020年問題」について、改めて説明をお願いします。
田中(アナグラム) アナグラム社内では、2019年の秋口の頃から「2020年は、一定規模以上のeコマースのリニューアルが相次ぐだろう」という話は出ていました。○○Payなどの決済、データフィードを用いた広告、チャットボットやウェブ接客、CRM施策など、ECサイト上でさまざまな取り組みが可能になっており、それらの機能を導入するためのリニューアルです。
一方で歴史のあるECサイトほど、秘伝のタレを継ぎ足してきたような、複雑なサイト構成になっています。さらに、リニューアルのためにECサイトを止めるとその期間の売上がなくなるため、数日で一気に行おうとする傾向にある。その結果、リニューアルトラブルに陥りがちなことを「問題」と言っています。実際には、2019年からリニューアルトラブルは起きていましたよね。
森野さんは、ECサイトの分析やコンサルティングをしていらっしゃると思いますが、実際にはいかがですか?
森野(運営堂) 5~10年前から使っているECのシステムが、現在のECを取り巻く状況に耐えられなくなってきていると思います。だからこそリニューアルを検討するのでしょうが、オムニチャネルをはじめとする新たな取り組みを行おうとすると、単なるカートASPの乗り換えでは済まなくなっていますよね。かといって、オープンソースをもとにしたサービスにも問題がないわけではないし、すると高額なパッケージやフルスクラッチしか選択肢がないのか?となります。中小規模の企業にはとても手が出る値段ではありません。カートASPとフルスクラッチの間のサービスがないことが、今のECサイトリニューアルを難しくしているのだと思います。
田中 「オムニチャネルがやりたい」「CRM施策をもっと丁寧にしたい」といったリニューアルの目的があるはずなのに、選択肢が少ないため、選んだシステムにやりたいことが制限されてしまうんですよね。
森野 制限されていることも知らずにECシステムを乗り換えて、後から問題がたくさん出てくるということも実際には起きています。たとえば、違う会社のECシステムに乗り換えたら、URLが変わりますよね。すると、広告はリンク切れになり、データフィードは変わり、それまで積み上げてきたSEOもリセットされてしまうんです。
田中 ECの専門家で、かつSEOの領域まで精通している方は、そもそも世の中にあまりいらっしゃらないような気がしますが、いかがですか?
森野 SEOに限らず、ある部分には詳しいけれど全体がわかるという人は多くないと思います。結果的に、売上を作る人の声が大きくなって、いろんなことが決まってしまう。問題が起きた後に、「URLが変わるとSEOがパアになるって誰も気づかなかったの?」といった事態に陥るというパターンですね。
田中 全体がわからないというのは、ウェブ接客やチャットボットなどの機能についても同様ですね。それぞれのツールを別会社が提供しているので、おそらくどれかのツールが影響してECサイトにトラブルが起きたから相談を持ちかけても、「そのトラブルはうちのツールが原因ではないです」と言われたらそれまでです。リニューアルトラブルについては、原因を突き止めることも重要ですが、そもそも誰がリニューアルプロジェクトを取りまとめるのか、がとても重要だと思います。
森野 取りまとめる人がいないのであれば、リニューアルはしないほうがいいと思うんですけどねぇ。
田中 でも、ECを運営している各社に、リニューアルプロジェクトを取りまとめられる人、いるんですかねぇ。
森野 EC業界で名の知れた人くらいでしょう。そうでなければ、SEOやデータフィードなど、それぞれの専門家に集まってもらうしかないと思います。ECは本当に、かかわっている領域が広いんです。
田中 マーケティングの最前線にいる人たちは、システムの詳しいところまで把握する必要はないと思います。一方で、システムだけ知っている人だけではモノが売れないし。その間を担当する人がいないということですよね。
森野 EC統括者、というポジションがあるかどうかですよね。それも、楽天市場ができた頃から20年くらいやっています、という人でないとわからない領域もあると思いますよ。
田中 ますます見つからなくなった(笑)