「探せない」ユーザーを有用な情報に導くウェブ接客とは
ユーザーが快適と感じるコミュニケーションとは何か。そして、顧客満足だけでなく、購入にもつながるようにするにはどうしたらよいのか。深田氏は「コミュニケーションの設計を考える際に、マクロな視点で情報接触の前提から見直す必要があるのではないか」と語る。ECサイトの作りかたはここ数年大きく変わってはいないが、ユーザー側の情報の取りかたは大きく変わってきているという。
これまでのウェブは、「ユーザーが能動的に情報を見つけにいく」ことが前提にあった。優れた検索機能があり、見たいときに見たい情報は見つけられる。だからこそロングテールという考えかたも成り立ってきた。
しかし、スマートフォンの登場によって、その前提が大きく揺らいでいる。スマートフォンでの情報接触は、何か別のことを行う片手間に「ながら」で行うものとなっている。画面は小さく、情報過多の状況下でひとつの情報に対する接触時間も減っているため、じっくり探さず、ちょっと探して見つからないとすぐに帰ってしまう。つまり、これからは「ユーザーは自分で情報を見つけきれない」ということを前提に、コミュニケーションの設計をするべきというわけだ。
深田氏は「現在のウェブサイトには、会員登録や予約登録などの機能も、商品情報やFAQ、サービス利用方法などのコンテンツも潤沢に揃っている。不足しているのは、接客的なコミュニケーションや理解度・関心度に応じた誘導など、多くの情報を快適に泳いでいけるようなサポートだ」と指摘し、「それは、これまでリアル店舗や営業担当者などが行ってきた対面コミュニケーションの領域だ」と語る。
具体的にコミュニケーション方法を考える際、モデルとして考えるべきが「リアルな店員の接客」だと深田氏は言う。優秀な店員は顧客が来店した際に出迎え、観察したうえで声をかける。具体的には、下記の8ステップによって成り立っている。
たとえば「出迎え」などはウェブにはない概念だが、深田氏は「うまく表現すると、これまでにないアプローチの仕方が考えられるのではないか」と語る。つまり、リアルな接客の手法をウェブに取り入れることで、「効果的なウェブ接客」が実現できるというわけだ。
さらに、「これまでのECサイト運営は集客に注力する傾向にあった。SEO・SEM・広告出稿などさまざまな施策があるが、これらはもはやチューニングのレベルに来ており、手法・効果が頭打ちになっている。そこで『サイト内改善』が重視されるようになり、ウェブ接客やCRMなどに人々の関心が移りつつある」と深田氏は語る。
具体的なウェブ接客のタイプとして、深田氏は「ポップアップ型」と「チャット型」の2種類を紹介した。とりわけ深田氏は「ポップアップ型」に注目していると言う。
チャット型はユーザー側からの働きかけが不可欠であり、ヘルプデスクのように受け身であるのに対し、ポップアップ型は販売員のように能動的なコミュニケーションが図れることが注目の理由だ。さらにデジタルの利点として、常にトラッキングしながらさまざまなデータと連携し、その人に合った最適なタイミングで情報を提供できる。職人技に頼らず、精度の高いコミュニケーションが設計しやすいというわけだ。また、チャットによって得られる効果が「顧客満足度向上」と間接的なものであるのに対し、ポップアップ型は「購買」という成果に直結することも魅力だと言う。
また、既存サイトには手を入れずに、手軽に試行錯誤ができることもポップアップ型のメリットと言える。表示場所が決まっているリコメンドなどと異なり、好きな場所に表示することができるため、最適な場所に最適なタイミングで声をかけるような体験を作ることが可能だ。さらにはページ内だけでなく、ページ遷移やスクロールを制御して「サイト内を案内する体験」も創出できる。
深田氏は、ウェブ接客の基本として「ウェブ接客にはストーリーをもたせることが大切。たとえば、来たばかりの人に情報を押し込んでも効かない。様子を見ながら、有用な情報をタイムリーに提供することが大事である」と語った。