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「成果につながる顧客体験」とは? ウェブ接客の成功事例から見る効果的手法と取り組みのポイントを解説

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2019/10/23 11:00

 ECにおける成果獲得に欠かせない「良質な顧客体験」を作り出すには、顧客の行動心理を深く理解し、フィードバックを重ねながらコミュニケーションの最適化を行うことが重要だ。2019年10月3日に行われた「ECzine Day 2019 Autumn」にて、株式会社Sprocket 代表取締役の深田浩嗣氏が登壇し、同社の多彩な事例を紹介しながら、実践的なウェブ接客の手法と留意すべきポイントなどについて語った。

成果につながる「最適なコミュニケーション」を顧客視点で設計

株式会社Sprocket 代表取締役 深田浩嗣氏

 2014年に創業し、ウェブ接客手法によるコンバージョン最適化ツールを開発・販売するSprocket。“おもてなし”の本質をマーケティング活動に取り入れるべく、導入企業のROIにこだわって事業を展開してきた。とりわけECにおいては多彩な領域の企業を支援し、導入実績は250社にのぼる。

 こうした数多くの経験から、深田氏は「『顧客体験の課題』を考える際にマーケターが陥りがちな傾向として、チャネル横断やレコメンドのパーソナライズ、データに基づいたロイヤリティプログラムなどの施策や方法を先に考えてしまうことがある」と指摘する。もちろんこれらは重要なことではあるが、それ以前に「探しにくい」「見つけにくい」といった基本的な不満に気づいていないことも多いと言う。

 このような課題に気づいたうえで顧客体験を考えるにあたり、深田氏は「ユーザーの困りごとや求めている体験など、ユーザー側に課題発想の起点を置いて考える基本的なアプローチが大切」と語る。

 たとえば、カートに商品が入っているのに購入につながらない「かご落ち」という現象がある。6〜7割がここで脱落し、事業者にとっては悩ましいことだが、実際にその理由を調査してみると「送料・手数料が高い」が35.8%ともっとも多く、ほかにも「会員登録が面倒」「選べる支払い方法が少ない」「配送日が遅い」など、さまざまな理由が存在する。

 こうしたユーザーの気持ちに寄り添い、「どんな体験によってかご落ちが防止できるのか」という視点で施策を考えることが重要というわけだ。おすすめ商品の提示によるアップセル、クロスセルのアプローチや、「お困りのことはありませんか?」と気遣うQ&Aを表示するなども考えられるだろう。

 「どんなにすばらしいデータやプラットフォームを設計してパーソナライズを実現しても、そのコミュニケーションが『売り込み』の印象を与えてしまい、ユーザーの不安・不満を解決できていなければ、離脱は止まらない。顧客のことを考えたコミュニケーションが実現できれば、成果は数字にしっかりと現れる」と深田氏は強調する。

 ここで深田氏は、コメ兵の事例を紹介した。カートに商品が入っているのになかなか購入ボタンが押されず離脱の気配がある際に、カート内で「お困りごとはないですか」とよくある質問をプッシュ配信したところ、購入完了率はおよそ125%まで向上したと言う。

「探せない」ユーザーを有用な情報に導くウェブ接客とは

 ユーザーが快適と感じるコミュニケーションとは何か。そして、顧客満足だけでなく、購入にもつながるようにするにはどうしたらよいのか。深田氏は「コミュニケーションの設計を考える際に、マクロな視点で情報接触の前提から見直す必要があるのではないか」と語る。ECサイトの作りかたはここ数年大きく変わってはいないが、ユーザー側の情報の取りかたは大きく変わってきているという。

 これまでのウェブは、「ユーザーが能動的に情報を見つけにいく」ことが前提にあった。優れた検索機能があり、見たいときに見たい情報は見つけられる。だからこそロングテールという考えかたも成り立ってきた。

 しかし、スマートフォンの登場によって、その前提が大きく揺らいでいる。スマートフォンでの情報接触は、何か別のことを行う片手間に「ながら」で行うものとなっている。画面は小さく、情報過多の状況下でひとつの情報に対する接触時間も減っているため、じっくり探さず、ちょっと探して見つからないとすぐに帰ってしまう。つまり、これからは「ユーザーは自分で情報を見つけきれない」ということを前提に、コミュニケーションの設計をするべきというわけだ。

 深田氏は「現在のウェブサイトには、会員登録や予約登録などの機能も、商品情報やFAQ、サービス利用方法などのコンテンツも潤沢に揃っている。不足しているのは、接客的なコミュニケーションや理解度・関心度に応じた誘導など、多くの情報を快適に泳いでいけるようなサポートだ」と指摘し、「それは、これまでリアル店舗や営業担当者などが行ってきた対面コミュニケーションの領域だ」と語る。

 具体的にコミュニケーション方法を考える際、モデルとして考えるべきが「リアルな店員の接客」だと深田氏は言う。優秀な店員は顧客が来店した際に出迎え、観察したうえで声をかける。具体的には、下記の8ステップによって成り立っている。

 たとえば「出迎え」などはウェブにはない概念だが、深田氏は「うまく表現すると、これまでにないアプローチの仕方が考えられるのではないか」と語る。つまり、リアルな接客の手法をウェブに取り入れることで、「効果的なウェブ接客」が実現できるというわけだ。

 さらに、「これまでのECサイト運営は集客に注力する傾向にあった。SEO・SEM・広告出稿などさまざまな施策があるが、これらはもはやチューニングのレベルに来ており、手法・効果が頭打ちになっている。そこで『サイト内改善』が重視されるようになり、ウェブ接客やCRMなどに人々の関心が移りつつある」と深田氏は語る。

 具体的なウェブ接客のタイプとして、深田氏は「ポップアップ型」と「チャット型」の2種類を紹介した。とりわけ深田氏は「ポップアップ型」に注目していると言う。

 チャット型はユーザー側からの働きかけが不可欠であり、ヘルプデスクのように受け身であるのに対し、ポップアップ型は販売員のように能動的なコミュニケーションが図れることが注目の理由だ。さらにデジタルの利点として、常にトラッキングしながらさまざまなデータと連携し、その人に合った最適なタイミングで情報を提供できる。職人技に頼らず、精度の高いコミュニケーションが設計しやすいというわけだ。また、チャットによって得られる効果が「顧客満足度向上」と間接的なものであるのに対し、ポップアップ型は「購買」という成果に直結することも魅力だと言う。

 また、既存サイトには手を入れずに、手軽に試行錯誤ができることもポップアップ型のメリットと言える。表示場所が決まっているリコメンドなどと異なり、好きな場所に表示することができるため、最適な場所に最適なタイミングで声をかけるような体験を作ることが可能だ。さらにはページ内だけでなく、ページ遷移やスクロールを制御して「サイト内を案内する体験」も創出できる。

 深田氏は、ウェブ接客の基本として「ウェブ接客にはストーリーをもたせることが大切。たとえば、来たばかりの人に情報を押し込んでも効かない。様子を見ながら、有用な情報をタイムリーに提供することが大事である」と語った。

購入完了率が飛躍的にアップ! ウェブ接客の多彩な事例を紹介

 ウェブ接客の一例として、商品取扱数が多く、選べないユーザーをサポートするための情報収集・選択支援を行うワコールの事例が紹介された。大量の製品のなかから選びやすくするためには、ある選定条件をもとに絞り込みを行う必要がある。そこで用途別やカテゴリ別など、絞り込みをうまくできるよう提案することで、購入完了率が125%に向上したと語った。

 このような体験設計のヒントとして、深田氏は「顧客の行動をトレースすること」を挙げる。たとえば、あるページで動きが止まっているならば、何かに迷っていると想像ができる。そこから迷っている原因や解決策を想像し、施策へつなげていくというわけだ。

 また、ユーザーとの関係を深める方法として「機能の利用促進」がある。「お気に入り機能」を使ったユーザーは、そうでないユーザーに比べその後の購買率が上がっていることが明白であれば、同機能の利用へと誘導する施策が有効となるだろう。ニッセンでは、同機能を使用していないユーザーに対して使いかたや使う理由を表示したところ、利用が倍増。購入完了率も115%にまで上がった。ここでも、「そろそろこの機能を使ってもいいかな」と思えるタイミングで提案することが重要だと言う。

 ほかにも、前出したコメ兵の「不安払拭」施策や、あるアパレル企業のECサイトで行われた8種類のポップアップを用いた「レビュー投稿推進」施策も紹介された。同施策では、投稿率が179.4%に上昇するだけでなく、リピート購入率が倍に増えたと言う。これは、「レビューで『よかった』という評価をすることで自分の体験を再認識し、良い思い込みを作ることができるからだ」と深田氏は語った。

良い顧客体験を提供し続けるには試行錯誤が重要

 こうした事例を振り返り、深田氏は「いずれも良質な顧客体験の成功事例だが、はじめから正解が見えていたわけではない」と語り、「成功の鍵はデータで効果を検証しながら、試行錯誤を繰り返すことにある。デキる店員も試行錯誤を繰り返しているのと同じ」と強調した。そして、試行錯誤すべき要素として「場所(ページ)」「タイミング」「内容」の3点を挙げた。

 たとえば、前出のワコールの事例の場合、まずはデータをもとに選べないでいる「場所(ページ)」はどこか仮説を立て、検索ページや一覧ページなどで選べないと思い始める「タイミング」を手が止まるタイミングやスクロールの状況などから想像した。そのうえで、大量の商品から選べない場合に選びやすくする声がけの「内容」について考察を行った。

 このように仮説を立てて実行し、検証するための分析データが一定量蓄積されるまでには時間がかかる。深田氏によると、「ひとつのウェブ接客の検証には1ヵ月くらい必要で、ひとつの接客シナリオあたり3回程度検証する必要がある」と言う。つまり3ヵ月かけるのが妥当であることを説明した。

 なお、ポップアップ型ウェブ接客は「うざい」と思われるのではないかと懸念する人たちに向け、Sprocketで実際に行ったユーザーアンケートの結果を提示した。ある施策において、ポップアップを邪魔に感じたという人は10人中ひとりだったという。深田氏は「ユーザーから見て良質な接客体験になっていれば、『うざい』と思われることはない」と自信を見せた。

 以上を踏まえ、深田氏は「『ユーザーが自分で情報を見つけることは困難である』という前提で顧客を観察し、状態に沿った接客体験の提供が必要。そのためには試行錯誤が大切」と繰り返し、セッションのまとめの言葉とした。

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