日本人が、外国人の日本語に合わせる時代に変化している
――「やさしい日本語」とはどういうものですか?
加藤 もともと「やさしい日本語」は、1995年の阪神淡路大震災後に作られた防災・減災のための日本語です。その後、異文化共生として使う言葉としても広まってきました。今では医療現場でも使われています。
具体的にどういうものかというと、たとえば、ビジネスシーンで「これ、急ぎでやっといて」と外国人に早口で言ってもわかりませんので、「(書類を示しながら)これを、作ってください。急いでください。(あるいは「◯時までに作ってください」と具体的に)」などゆっくりとわかりやすく言い換えてあげることです。意識的に単語を選択し、規則的に話すことがやさしい日本語なんです。
日本語教育から言うと、これまでは外国の人達を日本語のレベルに合わせるというベクトルでしたが、日本人が外国人の日本語に合わせていくというベクトルに変化し始めています。今では外国人の日本語を認める時代になってきました。日本人ももう少しわかりやすい日本語を使う必要性が出てきたんじゃないでしょうか。こういう流れの結果、「やさしい日本語」が生まれてきたんです。
川下りのベテラン船頭さんも「やさしい日本語」で外国人にガイドを
――現在、「やさしい日本語」を使っている事例などありましたら教えてください。
加藤 今では日本全国、自治体、宿泊施設、店舗などで「やさしい日本語」を試みているところが増えてきました。その中から、代表的なものをいくつか挙げます。
北海道の美唄市は札幌市から北へ60km行ったところにある市です。美唄市が海外から訪れる人と住民が一緒に楽しめるような街づくりを試みるため、私にお声がかかり、数回の講義や外国人の留学生を連れて、実践体験などを行いました。その中でおもしろかったのは、こちらから連れて行ったオーストラリア人の留学生が美唄市を気に入ってしまって、あちらに移住して今では市役所で働いています(笑)。
他には福岡県柳川市は、約4kmの川下りなどができる観光資源があり、年間約24万人(平成29年)の外国人が訪れます。川下りのベテラン船頭さんは、日本語の説明もおもしろいですが、私が乗り合わせた時には台湾人4名に向けて「やさしい日本語」でガイドをしていました。
箱根温泉旅館「一の湯」さん、京都のお宿「桔穀(きこく)荘」さん、箱根の湯葉丼のお店「直吉」さんなど多数あります。中でも箱根の湯もち本舗「ちもと」さんは敬語を次のように言い換えてわかりやすくしています。 「おひとつ」→1個、「何名様ですか?」→「何人ですか?」などです。他にも「お選びいただけます」→「選べます」、「お待ちください」→「待っててください」などもありますが、これは「選ぶことができます」「待ってください」などにしたほうが効果的でしょう。
このような実例は『「やさしい日本語」で観光客を迎えよう』(大修館書店)に掲載されていますので、もしよければご参照ください。