デジタル=テクノロジーではなくイノベーション
5月30日、アバナードとサイトコアは「大規模ECには必須となる“顧客体験”というファクター」と題しセミナーを開催した。
セミナー冒頭、サイトコアの酒井代表は「eコマースや電子マネーの普及が進みモノがあふれる一方で、消費者が利用するショッピングサイトは限定されている」と指摘した。Amazonのようなメガサイトや、特定の製品を購入できる専門サイト、比較して購入できるサイトなどに消費者が集中しているためだ。これらのサイトに消費者を独占されないためにも、企業はより良い顧客体験を提供し続けなければいけない。カスタマーエクスペリエンスの時代でどのようにモノを売るのか。その考えかたや具体例、ソリューションを紹介するのが本セミナーの目的である。
基調講演に登壇したのは、アバナード株式会社でデジタル最高顧問を務め、青山学院大学 地球社会共生学部でも教鞭を執る松永エリック・匡史氏だ。
講演は「デジタルとは何か」という問いから出発した。アメリカでは既に5,000名を超える在任者がいると言われ、その立場が確立されているCDO(Chief Digital Officer、最高デジタル責任者)。CDO Club Japanの立ち上げに携わった松永氏は、同クラブのトップであるデビッド・マッソンに同じ問いを投げかけた。
「デビッドは、アメリカで最初にデジタルへ取り組んだ企業としてNapsterとMTVの名前を挙げました。それはなぜか。最新の技術を使っていたという意味ではなく、Napsterは音楽の聴きかたを、MTVは音楽の作りかたを一新し、革命を起こしたからです。デジタルはイノベーションだと彼はきっぱり言いました。このことがわかっていないうちは、日本でCDOは浸透しません」
イノベーションは消費者の側でも起こっていると言える。デジタルネイティブと呼ばれる若年層に、その変化は顕著だ。物心がついた時からインターネットを中心としたインフラがすべて整っているデジタルネイティブは、今後のECにおける主要な購買層でもある。彼らのことをきちんと理解することが、新しい商売を考えるにあたって重要だと松永氏は語る。
たとえば、ショッピングにおける行動パターンの違いについて。特定の商品に興味を持ち、購買意欲が高まってアクションを起こすというデジタル普及前のショッピングから、まずは商品を検索し、興味のある商品が見つかったらアクションを起こすというショッピングへと変わってきているが、デジタルネイティブ層のショッピングは検索すらしないと言う。
「検索もせず、興味も持たず、それでもモノを買う時代になってきています。サブスクリプションというビジネスモデルにその傾向が表れています。今までみなさんは、どこかで聴いたかっこいい音楽を自分で検索したり、レコードショップを漁りに行ったりして音楽を楽しんでいたと思いますが、最近はSpotifyなどのサービスによって、自分が好きな音楽と似た傾向の音楽が自動的に流れてきます。この場合、音楽が勝手に流れているだけでインタレストからアクションがまったく起きていませんが、毎月料金は発生しています。我々は、それが当たり前となったデジタルネイティブ層に対してどのようにモノを売っていくか考えなければなりません」
デジタルネイティブ層にモノを売る際、必ず押さえておくべきポイントがソーシャルとフリーミアムだ。
「デジタルネイティブの場合、購買の動機を自分ではなく他者に求める傾向が強いと言えます。自分の好みより他の人がいいね!を押しているかどうかを重視して商品を買ったり、自分が購入した商品に他の人からの強い共感を求めたりするケースは少なくありません。また、幼少時から親のスマホで無料のゲームをダウンロードしプレイしているようなデジタルネイティブ世代は、オンラインでお金を払うという感覚が希薄です。彼らにお金を払ってもらうことがいかにたいへんか、私たちは覚えておく必要があります」
デジタル時代にモノを売るために必要なこととして、松永氏はこうコメントして講演を締めた。
「今まではCRMという考えかたのもとお客様の情報を分析していましたが、買っている人だけ分析していても仕方ありません。まだ買っていない人やビジネスパートナーの動向、さらには社内メンバーの反応も分析する必要があります。全方位のニーズを読み取るインフラが整っていなければビジネスが回らない時代になっています」