中小のネットショップがオムニチャネルを考える理由
――オムニチャネルというと、どうも実店舗を持つ大企業の話と思いがちですが。
「アメリカのメイシーズCEO テリー・ラングレン氏が、百貨店の売上が落ち込んだ時に、『自分たちはこれからオムニチャネル企業を目指す』と宣言したことがはじまりと言われています。その後メイシーズが取り組んだ施策のうち、最も経営的にインパクトがあったのは店舗とオンラインのデータベースを統合し、在庫コストが削減できたことだそうです。そのため、オムニチャネルというと、実店舗とオンラインの連携だと思われがちです。
しかし重要なのは、ラングレン氏がなぜ『オムニチャネル』という言葉を口にしたのか。彼が言いたかったのは、ネットとデバイスの変化によって、消費者がどこにいても、自分に最適な商品を見つけられるようになったこと。『モノを探すなら百貨店』が壊れ、百貨店で買ってもらう他の明確な理由を探さなければならなくなったわけです。
あくまで、ユーザーの行動がオムニチャネル化するのであって、ショップ側にオムニチャネル化するかしないかの選択肢はない。そうしたユーザーの消費行動を踏まえて、自分たちが選ばれる理由を構築し直すこと。それがオムニチャネル対策です。
実店舗から見たオムニチャネルは、ここのところネットショップの登場で自分たちの売上が減っていたわけですから、自分たちの売上を増やしていけるチャンスです。一方、ネットショップの人たちからすると、実店舗がどんどんネット化してくるので、これまで自分たちで囲っていた市場を他から侵攻される、こわいことだと言えます」
――実店舗がいきなりネットを使っても、なかなかうまくいかないのでは?
「ネットの使いかたもいくつかあります。いわゆるAIDMA、AISAS、AISCEASと消費行動はいくつもありますが、最初のA(Attention)から最後のA(Action)またはS(Share)までのシナリオをすべてネットでまかなうのが、いわゆるネットショップ専業のやりかたです。私はそれを、クローズドウェブマーケティングと呼んでいますが。
実店舗の人たちは、そうしたクローズドウェブマーケティングをやろうとしているのではありません。最初のAが実店舗でいいなら、アクセス対策はいまさら必要ないでしょう。むしろネットが苦手なものはリアルで提供しながら、ユーザーの消費行動の段階によって、使い分けつつ提供していけるわけです」