商売人だからこそ、売上視点ではなく利益視点で話をしよう
森野 がむしゃらに売れば伸び続ける時代ではないですから、「売ること」だけを考えていてはいけませんよね。DXに取り組まなければ時間も利益も残らず、事業そのものが終焉を迎えてしまいます。
八木橋 今の時代は「買ってください」と声高に叫んでもものは売れません。売りたい人に適切に売るには、システム化をして顧客一人ひとりを可視化できるデータ収集や、分析の時間を確保するための業務の効率化も必須です。
森野 八木橋さんは、システム投資のアドバイスをされることもありますか?売上の何%を投資すべきか、判断基準があればお聞きしたいのですが。
八木橋 利益率の計算と同じでビジネスのスタイルにもよるため一概には言えませんが、かかる費用を算出し、現在の月商・年商規模に見合っているか、何年で減価償却できるかを見極めて判断するようお伝えしています。
行き当たりばったりで商売がうまくいくことはほぼありませんし、どんな計画も描いた通りに進むほうが稀です。だからこそ、確実性を上げるために計算・計画して道しるべを作り、問題が発生したら修正しながら進んでいかなければなりません。見直す機会があれば、間違った道に進んでいてもすぐに気づいて再挑戦できますから。
EC事業者とお話しすると、まだまだ月商(売上)ベースで話をする方が多く、施策視点であるがゆえに利益確保ができていないケースも散見されます。利益をしっかり得て、事業を安定させなければ社員を雇えなくなってしまいますし、事業を通した自己実現も不可能です。事業が大きくなればなるほど、利益と資金の流れの把握が鍵を握りますから、今一度基本に立ち返っていただきたいと思います。
森野 利益を上げる=顧客に高く売りつけてがめついと思われるのでは、といった偏見に囚われているのかもしれませんね。
八木橋 商売はボランティアではないので、利益確保をためらってはいけません。むしろ、社員全員で「利益を出さなければ自分たちの給与が出ない」と危機感を持てる組織でなければ、遅かれ早かれ倒産してしまいます。「広告費に50万円投下するなら、その金額も粗利に含めた上で利益を確保しなければならない」「だったら、いくら売らなければならないか」といった議論が常にできる組織を目指しましょう。
森野 広告費の話が出たところで、最後の質問です。前回の記事で吉村さんが「売上が低迷しているときこそ、広告を止めるなどコストカットに目を向け、利益を確保すべきだ」と語っていましたが、八木橋さんも同じ考えでしょうか?
八木橋 はい。まずは売れない理由に立ち返っていただきたいのですが、需要が落ちているケースが多いでしょう。すると、広告出稿しても売れません。売上だけに目を向けていると、この判断を間違えてしまうので、注意が必要です。泥沼にはまらないよう、利益が確保できる売り方の見直しや取扱商品の仕分けなど現状把握を先に行い、次の戦略につなげていくのがV字回復への近道です。
インタビューを終えて
利益にしっかり向かい合うことで企業も社員も幸せになりますし、商品開発やサービス向上など顧客のために割く時間も増えます。すると、さらに商品も売れて利益も残り、好循環ですよね。売上だけを追いかけてギリギリの資金ではうまくいかない時代ですので、商品単位の利益管理をしていきたいところです。