原価計算・利益予測 “勘ピュータ運営”から脱却しないと負け戦な時代に
森野 売上が右肩上がりで成長し続けている頃は、どんぶり勘定でもなんとか乗り切れたと思いますが、競争が激しい今の時代はしっかり収入と支出を管理しないと「気づいたら資金が足りなくなってしまった」となりかねません。
八木橋 それを避けるため、当法人のお客様に対しては商品ごとの原価計算と利益予測をお願いしています。
森野 チャネル単位ではなく、商品単位でですか?
八木橋 チャネルごとにかかる手数料などが異なるため、それぞれの可視化ももちろん行います。経費を計算した上で、「楽天市場であれば○%」「Amazonであれば△%」といったように利益率の目安を定め、その上で商品ごとの利益予測や管理をすると「売上は立っているのに儲からない」といった悲劇は防げます。
森野 取扱点数が多いと膨大な作業になりますが、ある程度グループ化して見ていっても良いものでしょうか?
八木橋 商品ごとで見るのはマストです。強い言葉になりますが、それができないのなら撤退も考えたほうがいいと私は思っています。
ECサイトは実店舗に比べて参入障壁が低く、出店・出品自体は容易にできるため、つい扱う商品を増やしてしまいがちです。しかし、限られたリソースの中で利益が出る商品をたくさん売っていかなければ、商売として成立しません。その判別をするには、カテゴリー単位での“どんぶり勘定”ではなく、商品ごとに数字を追って実際の収益状況を細やかに把握する必要があります。そして、状況に応じて「利益が確保できないなら取り扱いをやめる」といった判断も必要です。時代の流れを踏まえても勘だけで判断する“勘ピュータ運営”から脱却しなければなりません。
森野 間違った取捨選択をしないためにも、1商品ずつ見ていこうということですね。
八木橋 カテゴリー単位で管理していると、膨大にある在庫の中から持っているだけで損失になる商品の存在が見えてきません。このレベルの商品は、損切りしてでも早めに現金化したほうが良いですが、商品単位での影響度が見えていないと迅速な判断が困難です。足を引っ張っている商品を可視化するには、細かく管理したほうが良いですし、そうしないと勝てない時代になっていると私は思います。
森野 確かに、俗に言う入り口商品は利益を薄めに、リピート顧客の獲得に期待できる商品は利益を厚めに、といったメリハリも商品単位で見なければできませんよね。
八木橋 「入り口商品は赤字でも構わない」とおっしゃる方もいますが、「利益の薄さや赤字をどこまで許容するか」の定義づけは大切です。単品では赤字でも、他商品との抱き合わせ購入で黒字化するなら、セット購入率を踏まえた利益率を計算する必要があります。その計算が間違っていないか、実際に想定通りに売れているかといった検証までセットで行うようにしましょう。
森野 商品単位で見るなら、Excelやスプレッドシートでの管理は困難ですよね。ミスを避けるためにもシステム導入は必須かと思いますが、中小企業だとコスト負担が……という声もあるのではないでしょうか。八木橋さんはどうアドバイスされていますか?
八木橋 数百点程度であれば、Excelやスプレッドシートを使って各モールの手数料率、原価などを設定した粗利率計算シートを作成し、仕入れ単価を随時修正しながら管理する方法でも対応は可能です。
ただし、チャネルが増え、月商規模が大きくなると仕入れのタイミングやSKU数が増えるため、管理が追いつかなくなります。そこで作業を疎かにすると落とし穴にはまるので、ECプラットフォームとの連携も考慮した販売管理システムの導入、システム投資を検討するようアドバイスしています。
中小企業はシステム導入を出費と捉えがちですが、顧客対応を効率化するために必要な投資と考えていただきたいです。今は他のECサイトでも同じような商品が買える時代ですから、対応が遅れると顧客離反が起きたり、モール内での評価が下がって検索上位に表出しにくくなったりして、自分で自分の首を絞める状態になってしまいます。事業を成長させるためにも、必要なシステム化を適宜行える組織になるのが望ましいです。