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単なるペルソナでは対応できない「フレキシブルショッパー」の特徴
瀧本(博報堂買物研究所) 日本の「買物」の変化を読み解く本連載。第2回は、博報堂買物研究所が実施した調査をもとに、昨今の生活者の複雑化する買物行動やそれらに対応するためのマーケティング活動について、eコマースを起点とした統合マーケティング支援を行うHAKUHODO EC+の澤田さんと一緒に読み解こうと思います。
澤田(HAKUHODO EC+) マーケティングの世界において、ECと店頭を切り離して考えることは、年々難しくなっています。一気にEC強化が進んだコロナ禍を経て、現在は店舗回帰現象が起きているのが実情です。
HAKUHODO EC+にも、ECと店舗を組み合わせた「OMO体験デザイン」や、D2Cブランドのリアル店舗への進出などといった相談が寄せられるケースが増えてきました。オンライン・オフラインのデータを統合して顧客への理解を深め、一人ひとりに最適な買物体験を提供するユニファイドコマースの注目度も上がっています。
瀧本(博報堂買物研究所) リアル店舗での販売が中心だったブランドのEC展開や、D2Cブランドのリアル店舗への進出など、販売経験のない売場での魅力の伝え方について考える機会が増えてきたと思います。ECとリアル店舗を横断して商品展開をする際に、これまでの注力チャネルと同様のコミュニケーションを新たなチャネルで実施しても、商品の魅力がうまく伝わらないということは、起こりやすい問題です。
ECとリアルでは買物環境が異なり、環境に合わせて生活者の買物意識や行動も変化します。コロナ禍以降、EC普及が加速して、生活者にとって買物チャネルの選択肢が広がる中、どんな売場でも一貫した買物意識を持つ人は少なく、シチュエーションに応じて意識が変わる人のほうが多いのではないでしょうか。たとえば、自分だけが食べる食品を買う時は、店舗で価格の安さにこだわる一方、家族で使用する食品を買う際は、ECで品質にこだわるといった具合です。
実際、博報堂買物研究所が「買物チャネル」「商品カテゴリー」「用途」などの買物シチュエーションごとに、生活者がどんな買物意識をもっているのか調べたところ、一人の生活者でもシチュエーションごとにその意識がまったく異なることが判明しました。そして、当研究所では、買物するシチュエーションに応じて柔軟に買い方を変える生活者を「フレキシブルショッパー」と名付けたのです。
澤田(HAKUHODO EC+) 生活者全体のうち、フレキシブルショッパーはどの程度存在しているのでしょうか?
瀧本(博報堂買物研究所) いまや、フレキシブルショッパーは多数派だといっても過言ではありません。生活者の買物チャネル・商品カテゴリー・用途ごとの買物意識を調べてクラスター分析を行ったところ、多くの生活者がシチュエーションごとに異なる買物意識のクラスターに分類されることがわかりました。
たとえば、買物チャネル視点で検証すると、過半数の人がリアル店舗(コンビニを除く、スーパーマーケット・ドラッグストア・ディスカウントストア)とECでは異なるクラスターに分類されています。また商品カテゴリー視点、用途視点でも同様の結果になりました。ここから、多くの生活者はシチュエーションごとにまったく異なる買い方をするフレキシブルショッパーであるといえます。