D2Cの原点“コミュニケーション”に立ち返る
台湾で漢方薬局を営む父を持つ台北出身の王怡婷氏とともに、小林氏が立ち上げた「DAYLILY」。クラウドファンディングで資金を募り、2018年3月、台北の漢方薬局店内に1号店を開店した。漢方を使ったお茶が中心の商品ラインアップだが、チャイナシューズやフェイスレザーポーチなど、人々の生活に寄り添う様々な商品を取り扱っている。
台湾のガイドブックにも掲載されるなど、DAYLILYは徐々に話題となり、2019年に日本に初出店。公式オンラインショップに加え、東京に3店舗、大阪に1店舗、福岡に1店舗の実店舗を構えるまでに成長した。
自社で商品を開発し、自社チャネルで販売しているDAYLILYは、一般的に「D2Cブランド」に分類される。しかし、小林氏は2021年4月に「もうD2Cは死語。さよならD2C。」と題してnoteに記事を投稿、272いいねを集めた(2023年10月3日時点)。記事には、「D2Cと呼ばれることも、一括りにされることも嫌になっちゃうなと思っていました」と記されている。
小林氏は、「D2Cブランドを始めよう」と思ってDAYLILYを立ち上げたわけではない。ブランド立ち上げにあたって情報収集する中で、顧客と直接、対等なコミュニケーションを取る米国の新興ブランドに衝撃を受け、参考にしたのだという。
「当時、勢いのあった米国の新興ブランドは、今まで見てきた老舗ブランドや大手ブランドとはまったく異なるコミュニケーションの取り方で、顧客との関係を築いていました。フレンドリーで距離が近いけれど、対等。ブランドが偉いわけでもなく、かといってお客様を過剰に持ち上げるわけでもない距離感が、心地良いと感じたのです」
小林氏にとってD2Cは、あくまでも顧客と対等な関係を築くための手段。noteの記事は、こうした背景から生まれたものだった。
D2Cというビジネスモデルは、2010年代前半から米国内で広がり始め、2010年代後半には日本でも多くのブランドがそのスタイルを取り入れた。しかし、ブランド増加による競争激化とコロナ禍により苦戦を強いられ、事業を畳んだケースも少なくない。そんな時期を経て、小林氏のD2Cに対する考えも変化した。
「noteの記事を投稿した2021年頃には、D2Cが成功しやすいビジネス手法として、まるで魔法のように扱われていました。結局のところ、ブームの中で生み出されたブランドは、あまり残っていないように思えます。それもあってか、最近では、原点である人と人との関係性に立ち返るブランドが増えたと感じます」