8割以上が「望む商品」にたどり着けない ECサイト内検索の現状と課題
1997年よりポータルサイト「goo」を提供するNTTレゾナント。同サイト誕生から25年が経過し、同社は現在、家電などを扱うECサイト「NTT-X Store」の運営や、AI技術のAPI群「AI suite」の提供なども行っている。同社の自然言語処理技術と、NTTコンピュータ&データサイエンス研究所の音声・映像認識技術の統合により生まれた新技術「マルチモーダルAI」は、テキスト情報・音声・映像情報を使った受け答えを実現。すでに動画・音声を用いたチャットボットなどへの活用が始まっている。
そんな同社が提供するECサイト内検索・商品検索サービスが「goo Search Solution」だ。北岡氏は、DX時代のEC接客において「検索は地味な存在ながら、隠れ損失への対策として非常に有効」と語る。
「多くのECサイトはサイト内に検索ボックスを用意し、顧客に活用を促しています。購入意欲の高い顧客は、欲しい商品にたどり着くために関連したキーワードを入力して商品を探しますが、こうした行動を取る顧客は、カテゴリー検索や外部サイトから流入する顧客と比べて、約10倍の購買期待値があることが独自調査で明らかになりました。
この傾向は、特定のECサイトにかぎったものではありません。実際、すでにECサイト内検索のポテンシャルや機会損失に気づいている企業の多くが、数字を見ながら『どうしたらキーワード検索をする顧客を増やせるか』と考えているほど、関心は高まっている状況です」(北岡氏)
ECサイト内検索は、欲しいものを具体的にイメージしている顧客が利用するケースが多い。そのため、合致する商品がすぐに見つかれば、そのまま購入に至るのも必然と言える。しかし同社が実施した調査によると、ECサイト来訪者の7割以上が「まずキーワード検索をする」と答えているにもかかわらず、8割以上が「検索で欲しい商品が見つからなかったことがある」と回答していることがわかった。なお、望む商品が見つからなかった際にこうした顧客の約6割は「ほかのECサイトに行く」、約3割は「実店舗に行く」と答えている。
「SEOや広告の最適化など、ECサイトへ呼び込む施策に力を入れる企業はすでに多く存在しますが、呼び込んだ後の『接客』は果たしてどこまでできているでしょうか。実店舗では『商品がどこにあるのか』といった顧客の疑問にスタッフが答えることが当たり前とされていますが、ECではその感覚が抜け落ちているケースが多く見られます」(北岡氏)
北岡氏は、ECを百貨店にたとえて解説を進める。百貨店は、目につく場所にインフォメーションカウンターが存在し、質問をすれば目的の商品が販売されているフロアを教えてくれる。ECサイトにおける検索は、こうしたカウンターや案内スタッフと同様の役割を果たす機能と言える。
しかし、実情は8割以上が同機能に不満を持つ状況、つまり明らかな齟齬が生じていることがうかがえる。これは裏を返せば、検索機能を強化して見つからない状況をなくすことにより、8割以上の顧客に購買機会をもたらすことができると言えるのではないだろうか。
顧客が求める検索結果を作るための2ステップ ロングテールの磨き込みが鍵に
では、なぜすでにECにサイト内検索を実装しているにもかかわらず、欲しい商品が見つからない状況が生まれるのだろうか。その理由として、北岡氏は「対応範囲の広さ」「専門技術の高さ」「スタッフ個人のスキルへの依存」の3点を挙げた。
ECサイト内検索で顧客の満足度を高めるには、ロングテールのキーワード攻略が鍵となる。たとえば「ゴミ箱」を探している顧客が10人いた場合、全員が同一キーワードで検索するケースは稀だ。「ゴミ箱」「ごみ箱」「ダストボックス」「ごみ入れ」といったように入力される単語は多岐にわたり、すべてのキーワードを人間の手で拾い、対応するには限界がある。
また、世にあふれる機能であるため誰でも触ることができると思われがちだが、実は高度な専門技術を要する点も、検索の磨き込みが進まない理由のひとつと言えるだろう。手動で精度を上げるのは担当者のスキルへの依存度が高く、業務の属人化や担当者の退職・異動などによるノウハウの消失といった問題も存在する。
「検索を導入して終わりにしていないか。EC利用者が増える今こそ、一度立ち止まって考えていただきたいと思っています。ツールの導入はあくまでスタートラインです。キーワードに合致した商品を表示するだけでなく、検索結果に顧客が求める商品がきちんと表示されているか。『商品を見つけて、買ってもらう』という検索の本来の目的に立ち返り、見つけてもらうための調整や工夫が必要です」(北岡氏)
「顧客が求める商品を表示する検索の実現には、大きく分けてふたつのステップがある」と続ける北岡氏。第1ステップは、「キーワードを正しく解釈する」作業だ。たとえば「レンジ」というキーワードで検索された際、部分一致の「オレンジ」ではなく、略称として定着している「電子レンジ」を表示する。これは、自然言語処理の主要テーマのひとつである「形態素解析」と呼ばれる作業であり、「顧客が何を求めているかを理解すること」ととらえるとわかりやすいだろう。
第2ステップで重要となるのが、「表記のゆれを吸収する」という作業である。「ゴミ箱」のように、ひとつの商品をとってもさまざまな表記が存在する。これらを吸収して目的に合致した商品を表示できる状態にすることは、検索の利便性を高める上で欠かせない。
なお、表記ゆれの種類は「大文字/小文字」「送り仮名」「数字」「ひらがな/カタカナ/漢字」など多種多様だ。ヒューマンエラーにより起きる「入力ミス(勘違い)」も見逃せない要素となる。
「顧客が求める商品を検索結果にきちんと表示するには、正しいキーワード理解と表記ゆれの吸収は欠かせません。その上でさらに成果につなげるには、顧客が求める順番に並び替えて表示させることも必要です」(北岡氏)
売れ筋順≠顧客が求める並び順 細かなチューニングを要する検索最適化
ここまで説明したポイントを踏まえ、「売れ筋順に並べれば、CVR向上につながる」と考える人もいるかもしれないが、それは必ずしも顧客が求めている並び順ではないことに注意しなければならない。
「たとえば、『Tシャツ』というキーワードの検索結果を単純な売れ筋順にした場合、商品の説明文に記載された『Tシャツ』の文言も拾ってしまいます。Tシャツを探している顧客に対し、スニーカーやパンツなど異なるカテゴリーの商品を表示しても、当然ながら購入にはつながりません」(北岡氏)
こうした齟齬を是正するには、「Tシャツ」と検索された際にきちんと該当カテゴリーの売れ筋商品を表示させる必要がある。テレビや雑誌などで話題になった商品が上位表示されると、なお反響を高めることができるだろう。しかし、こうした細かなチューニングを隅々まで行き届かせるのは非常に困難だ。それが検索の最適化の難しさと言える。
そこで北岡氏が提案するのが、AIを活用して顧客の行動ログを分析し、最適化を行う方法だ。NTTレゾナントが提供するgoo Search Solutionは、「表記ゆれに強い」「ユーザー行動ログを活用できる」「運用の手間がかからない」といった強みを持っている。北岡氏は「ECサイト内に蓄積された行動ログは、宝の山」と説明し、「来訪から離脱までのすべての行動とそれにともなうデータをAIで分析すれば、人間がなし得ないロングテールまでの最適化ができる」と続ける。
「goo Search Solutionの最適化は、ニーズの有無のみで表示結果を調整するといった単純なものではありません。メディア露出や話題性などはログに反映されるため、そこからAIが調整を行うほか、表記ゆれについては、『gooで25年間蓄積した辞書』と『専門用語、独自キーワードをカバーしたクライアント企業のログから作る辞書』の双方を用いて、AIが毎日自動生成を行います。人では気づかないような毎日の細かなチューニングは、AIだからこそ実現できるのです」(北岡氏)
SHIPS・トイザらス事例紹介 「待てない顧客」への対処法は?
続いて北岡氏は、「ミライの検索」と称してgoo Search Solutionで新たな検索体験の構築に取り組む企業の事例を紹介。ひとつめは、セレクトショップ「SHIPS」の事例だ。
SHIPSの自社ECサイトでは、キーワード検索を行うと商品だけでなくコーディネートや特集、スタッフの情報が表示されるようになっている。検索結果一覧ページの上部には、「アイテム」「スタイリング」といったタブを設置。種類の異なる情報を整理して表示することで、顧客へスムーズな検索体験を提供している。
「近年、商品にまつわる情報やコーディネートなどのコンテンツを強化する企業が増えています。検索でこれらを表示すれば、探している商品と親和性の高いコンテンツを表示でき、コンバージョンの向上にもつながります」(北岡氏)
ふたつめに紹介したのは、おもちゃ・ベビー用品の専門店「トイザらス」の事例だ。同サイトでは、「ブラックフライデー」とキーワード検索した際には、商品の検索結果ではなく、該当する特集ページに直接遷移する仕様となっている。
「ブラックフライデーと検索する顧客の深層心理を紐解くと、同一名の商品を探しているわけではなく、セールイベントで値引きされている商品やそれらがまとめられた特集コンテンツを探しに来ていることがうかがえます。こうした顧客のインサイトをくみ取り、検索に組み込むことも、goo Search Solutionでは可能です」(北岡氏)
さらに北岡氏は「パーソナライズ検索」の可能性に言及した。顧客1人ひとりにあった提案はマーケティングの文脈ですでに実践する企業も多いが、「検索にも対応している企業はまだそれほど多くない」と語る。
たとえば、冬に「スコップ」と検索した顧客が北海道に住む場合は雪かき用のスコップを、沖縄に住む場合は園芸用のスコップを上位に表示するといったように居住地や現在地に応じて検索結果を出し分けるのもパーソナライズと言えるだろう。実際にある小売ECでは、「砂糖」と検索した顧客が法人顧客の場合は業務用を、個人顧客の場合は家庭用を上位表示するといったような取り組みをすでに実施しているそうだ。
「当社が実施したアンケートでも、36.7%の顧客が『過去の自分の履歴や行動履歴から、自分に合った商品を選んで表示してほしい』という意向を示しています。とくに若年層ほど、パーソナライズに対して肯定的です。これはYouTubeやTikTokなどでOne to Oneの提案に慣れていることが理由だと考えられます。また、この結果は『自分に合わない情報が表示されることにストレスを感じる顧客が増えている』ととらえることもできるでしょう」(北岡氏)
同アンケートでは、パーソナライズを求める場面・場所についても聴取している。もっとも多かったのは「検索結果」だが、この結果は北岡氏も予想外であったと補足した。しかし、検索は欲しいものを見つけるための行動であることを踏まえると、パーソナライズでスピーディーに該当する商品へたどり着きたいという需要の高さは当然と言える。
ここで北岡氏は、検索結果の最適化による成功例を紹介した。まずは、製菓・製パン材料を扱うECサイト「cotta」の事例だ。同サイトはパーソナライズの実施により商品のマッチ度を向上させ、goo Search Solution切り替え後の法人向け商品検索CVRを1.7倍以上に伸ばしている。
ほかにも検索精度の改善による成功事例として紹介したのは、TSIホールディングスが運営するアパレルブランド「ナノ・ユニバース」の事例だ。同ブランドは検索結果の最適化を行い、CVRを85%アップさせている。売上は2倍超、ひとりあたりのPVが1.5倍となっている点もポイントと言えよう。
また、さらなる事例として北岡氏は再びトイザらスを挙げた。人手による検索改善の工数を大幅に削減したことで、同社はECと実店舗のシームレス化促進に工数を割くことができたと言う。検索が直接もたらした効果については、0件ヒットの改善やCVR400%アップなどが紹介された。
「goo Search Solutionでは、このほかにもさまざまな導入事例を紹介していますので、ぜひ参考にしていただければと思います」(北岡氏)
最後に北岡氏は、検索がもたらす効果についてこのように語りセッションを締めくくった。
「AIは継続的な学習により効果を発揮するため、時間が経つほどじわじわと効果が上がる傾向にあります。また人間と異なり、疲れることも退職することもありませんので、継続した細部までの最適化が可能です。ECサイトの成否を分けるロングテールをカバーするには、AI活用が必須となります。AIによる最適化を繰り返すことで顧客体験は向上し、売上という結果にも結びつきます。
今は時代の流れが非常に速くなっており、『待てない顧客』も増えています。つまり、ECサイトにおいては迅速性も重要です。トレンドをとらえ、顧客が求める検索結果をいかに速く表示できるか、それらを実現できる機能や体制構築にも目を向け、一度見直しをしてみてはいかがでしょうか」(北岡氏)
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