2023年には520億ドルの市場規模予想も 欧米で進むリテールメディアの取り組み
Web2.0の時代は双方向型のサービスが増え、個人による情報発信が容易になった一方で、多くのユーザーのデータがGAFAMに代表される大手プラットフォーマーに集中し、Webの中央集権化が進んだ。今、注目されているWeb3.0は、大枠としてはこうした中央集権型の構造から脱却し、Webの世界を自律分散型に再構築しようという潮流である。
Web3.0の世界では、ユーザー自身が個人情報をはじめとしたさまざまなデータを分散管理するのが基本だ。サードパーティCookie規制の本格化も、こうしたWeb3.0の大きな流れにマッチした動きと言える。
「すでにAppleのSafariブラウザは、サードパーティCookieをブロックしており、GoogleのChromeブラウザも2023年後半までにサポートを廃止する方針を示しました。これらのCookie規制によって、従来のデジタルマーケティング、とくにリターゲティング広告の配信が大幅に制限されていくと考えられます。
こうした規制によって落ち込む広告効果をどのようにカバーするかが、多くの企業にとって喫緊の課題と言えます。そこで新たな広告戦略として昨今、欧米で注目されているのが、リテールECサイトを広告媒体(メディア)として活用する『リテールメディア』の取り組みです」(山崎氏)
本セッションにおける「リテール企業」の定義を、「ブランド・メーカーから商品を仕入れて販売する企業」と示した山崎氏。店舗も捉えかたによってはメディアになり得るが、デジタルマーケティングを前提とすることから、今回は「ブランド・メーカーのECサイト」をリテールメディアと定義し、話を進めた。
「リテールメディアを最初に大きな事業として立ち上げたのは、Amazonです。2021年は、312億ドルもの広告収入を得ています。また、ECサイトとしてはAmazonより小規模ですが、リアルも含めた全体では世界最大規模のリテール企業であるウォルマートも取り組みを始めており、同年の広告収入は21億ドルでした。この2大リテール企業をはじめ、アメリカではリテールメディアに注力している企業が多く、2023年には全体で520億ドルを超える規模になるという予想もあります」(山崎氏)
日本では、まだ大々的にリテールメディアに取り組む企業は少ないが、Amazonを頻繁に利用する人であれば、商品検索ページに表示される検索連動型広告を目にしたことがあるのではないだろうか。
リテールメディアへの広告配信では、購買データをはじめとした各種ファーストパーティデータを活用することで、より高い精度でパーソナライズされた広告アプローチが可能となる。それは顧客にとって、買い物に役立つ情報が提供されるということでもあり、CX向上につながる大きなメリットだ。さらに、リテールメディアを訪れる顧客は購買に前向きである可能性が高いため、その顧客の購買意思決定プロセスの最終段階に近いタイミングで広告を露出することで、効果的にコンバージョンを後押しできる。
CX向上につながるクチコミ活用 エンゲージメントを高めて価値創出へ
Cookie規制という外的要因により、広告媒体としてのリテールメディアへの注目度は、以前よりも高くなっている。ただし、急に価値が高まったわけではなく、「以前よりメディアとしてのポテンシャルを有していた」と山崎氏は語る。
「リテールメディアは、家電量販店と類似しています。家電量販店はさまざまなブランド・メーカーの商品を扱い、売場では各メーカーのスタッフが自社商品の説明や接客を担当しているケースも多く存在します。ブランド・メーカーにとっては、潜在顧客にリーチしてエンゲージメントを高め、購入まで後押しできる貴重な場となっています。
複数ブランド・メーカーの商品を扱うリテールメディアも同様で、ブランド・メーカーは同メディア内で自社商品のエンゲージメントを高め、価値を創出したいと考えています。ここでリテール企業側が行うべきは、家電量販店のスタッフにあたる広告出稿媒体としての費用対効果があると認めてもらうこと、つまりリテールメディアの場そのものに可能性を見出してもらうための価値創出です」(山崎氏)
リテールメディアとしての価値を高めるには、CX向上が重要となる。この課題に大きく寄与するのが、「クチコミ(レビュー)の活用」だと山崎氏は続ける。
「ZETAでは、5年ほど前からレビュー・クチコミ・Q&Aエンジン『ZETA VOICE』の提供を開始していますが、直近2年は急激に導入のご相談が増えています。日本でもクチコミの有用性が広く認識されてきたと言え、クチコミの機能や活用法も進化しています」(山崎氏)
クチコミの代表的な要素に、商品に対する「評価」がある。山崎氏によれば、日本のECサイトにクチコミが導入され始めた当初は評価項目が総合評価のみというケースも多かったが、最近は評価項目が複数設定され、「性能」「デザイン」「価格」など評価を行う観点を明示したECサイトが増えていると言う。検討中の顧客にとっては情報の精度が高いほうが参考となるため、当然CXも向上する。
「ZETA VOICEでは評価項目を複数設定できるだけでなく、レビュアーのプロフィールも登録可能です。こうすることで、『どのような顧客がそのクチコミを投稿したのか』まで検討中の顧客に示すことができ、より高いコンバージョンにつながります」(山崎氏)
たとえばアパレルであれば、「性別」「年齢」「体型」などの条件が類似した顧客のクチコミを参考にしたいと考えるケースが多い。また同一商品でも、顧客のスキルや経験値によって評価が大きく変わるスポーツ用品や工具などの場合は、レビュアー情報も含めて提供されていることで、より有益な情報となる。
「商品の特性に応じた複数の評価項目に加え、レビュアーの情報といった詳細なクチコミを収集・提供できれば、多くの顧客にとって有用なECサイトとなります。そして、検討段階の顧客がクチコミで不明点や懸念事項を払拭し、納得した上で商品を購入できれば、結果として返品率の改善およびコンバージョン向上といった効果も期待できます。これが、CX向上につながるクチコミ活用です」(山崎氏)
コミュニケーション活性化に寄与するQ&A 店舗購入の後押しにも
クチコミの進化系として、顧客同士の双方向のコミュニケーションを支援する機能が、ZETA VOICEでも提供されている「Q&A」だ。山崎氏は、同機能により「コマースのソーシャル化が促進される」と言う。
クチコミは、ECサイト内で顧客が情報発信するという点においてはWeb2.0の性質を持つUGC(User Generated Contents)だが、Q&A機能で双方向性を付与することで、TwitterなどのSNSと同様にコミュニケーションの創出が可能となる。ECサイトの活性化やブランドへの愛着につながる要素を持つという意味で、Q&AはWeb3.0の時代と親和性の高いコンテンツと言える。
「購入検討者および購入者を含む複数顧客が参加するQ&Aは、通常のクチコミ以上に影響を与える情報が集まるため、閲覧のみの顧客にとっても有益な情報になり得ます。その場にブランド・メーカーの商品担当者やカスタマーサポートが回答者として加われば、情報の信頼度はさらに高まります。また、不明点や懸念事項の解消につながる情報が既存のクチコミにない場合は、質問者としてQ&Aに投稿すれば求めている情報を直接手に入れることが可能です。あらゆる顧客のCX向上につながっていくと考えられます」(山崎氏)
実際にQ&Aはコンバージョンにも大きく影響することが、すでに明らかとなっている。山崎氏は、「Q&Aで『続きを見る』などのアクションを行った顧客は、ほかの顧客に比べて157.1%コンバージョンが高くなる」というPowerReviews社の調査結果を紹介した。
「クチコミやQ&Aは、ECサイトにとって非常に重要な集合知であり『資産』であると言えます。蓄積すればするほどSEOにも強くなり、オーガニック検索からの流入増加にもつながります」(山崎氏)
また、山崎氏は補足として、クチコミやQ&Aの重要性はEC特有のものではなく、店舗での購入においても大きく影響すると解説した。
「店舗で何らかの商品を購入しようとする際に、スマートフォンでその商品のクチコミを検索する行動が当たり前となりつつあります。そこで注意すべきは、顧客を他社ECサイトに逃がさないことです。顧客を店舗から自社ECサイト内の該当商品のクチコミなどに誘導し、そのまま店舗あるいは自社ECサイトでの購買につなげる。こうしたスムーズな仕掛け作りが今後さらに重要となるでしょう」(山崎氏)
山崎氏は最後に、ZETAが展開する「ZETA CXシリーズ」より、EC商品検索・サイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」および、OMO・DXソリューション「ZETA CLICK」を紹介し、セッションを締めくくった。
▼ZETAが提供するECマーケティング・リテールDXを支援するソリューション「ZETA CXシリーズ」の資料は、資料ダウンロードページよりダウンロードいただけます。