オムニチャネル時代のCXデジタライゼーション
──顧客側についてはいかがでしょうか。近年のコロナ禍によって5年はDXが進んだのではないかと言われていますが。
近年での一番大きな変化は、店舗などリアル側の役割ではないかと思います。現在もリアルの場は、直接商品を見て触って選べ、購入や契約ができることに変わりありません。しかしながら、ECが普及してデジタルでも購入や契約ができるようになったことで、「見て触って選ぶ」という顧客体験の場、魅力を伝える場としての価値がより高まっているように思います。逆に言えば、コロナ禍によってリアルに来店できなくなったことで発見や出会いが減り、「なにか良いものがあれば購入する」という行動はかなり減ってしまっている。デジタルでは、このような顧客体験を提供するのは難しいため、オンオフ両面のチャネルについてもう一度役割を捉え直し、再構築し直す必要があるのではないでしょうか。
それはtoBでも同様で、リアル営業が難しくなったことで、インサイドセールスやオンライン相談などが登場しました。購入までは一定程度構築できたと思いますが、導入支援のオンボーディングや導入後のカスタマーサクセスなどで、人との触れ合いが不足すると不満・不安につながりやすい。いかにオンラインで人の存在を感じさせられるかが、今以上に必要になってくるように感じます。
──そのような課題を解決するために、コールセンター側としてどのように対応していくべきだと思われますか。
ひとつは、オンオフのさまざまなチャネルで選択肢が広がっており、それに対応していくことは必須でしょう。かつて電話やメールが主なチャネルだった頃は、「不満があるけれど、連絡するほどでもない」サイレントカスタマーが多かったと思われます。しかしチャットbotなど、気軽にコミュニケーションできるチャネルが増えれば、これまで問い合わせをしなかった層も行うようになるでしょう。それは企業にとって望ましいことではあるのですが、コールセンターとしてはオムニチャネルで対応し、それぞれのチャネルでの応対の整合性をとる必要が生じてきます。最後の砦として対応してもらえるという期待感はそのままに、マルチタスクが前提になり、負担が増大するのは間違いありません。業務量が増えるのを放置すれば対応がぞんざいになり、企業としての信用に傷をつけることにもなりかねません。
そこでまずはコンタクトセンターの役割や、そこでのCXの重要性を経営層が再認識し、その上で現場のCX観点から「何のために何をすべきか」というパーパスやミッションを再定義し、明確化することが重要です。まずはサイレントカスタマーの”お申し出”を促進し、関係を深めてロイヤルカスタマーにしていくこと。そしてもうひとつは、ロイヤルカスタマーのメリットとなる「サービスの向上」で、ロイヤリティをさらに高めることです。これが浸透すれば、コンタクトセンター自身も工夫し、行動していくようになるでしょう。そのためにはあらゆるチャネルで目的を共有し、ひとつのゴールを目指すとした上でKGIを設定し、役割に応じてチャネルを分岐させ、「お申し出率」や「満足度」などのKPIに落とし込んでいくことが大切です。そこがバラバラになれば、対応にも齟齬が生じてきますから。