CX改善を目的とした VoCの分析・活用を実践
━━NTTマーケティング アクトProCXは、その名のとおりCX(Customer Experience)に特化した事業を展開しているとうかがいます。その中でとくに顧客企業のCX改革のため、どのようなソリューションを提供されているのかお聞かせください。
当社はもともとNTT 西日本のコンタクトセンター事業に端を発し、顧客企業に対してコンタクトセンターBPOの提供を主事業としています。現在、その中でもとくに力を入れているのが、VoC(Voice of Customer)の分析と利活用です。当社の共通基盤であるCXプラットフォーム「ONE CONTACT Quality Management」では、ナイスジャパンによるふたつの技術、音声やテキストなどを定量化する「Nexidia(ネクシディア)」と、AI がオペレーターや顧客の感情を定量化する「Enlighten(エンライテン)」を活用し、VoCを収集・分析できる仕組みを提供しています。そこに当社が持つ品質管理のモデルや体系的な評価スキームを追加し、CXの向上を実現するために活用しています。
具体的には、応対内容を体系的に27項目の評価指標に振り分ける作業を、デジタルで自動的に行う仕組みを構築し、それに基づいてアドバイスしながら、コールセンターのオペレーション品質を改善していきます。かつては1人ひとり個別にヒアリングし、アナログで振り分けていたものが、一気に自動化されることとなり、効率的かつ的確にCX向上に役立てられるようになりました。これを「VoC分析コンサルティング」というソリューションとして顧客企業に提供しています。
たとえば、何かお問い合わせがあったとして、同じキーワードでも困っているポイントや求めている情報が違うことがあります。また、スピーディにわかりやすくお伝えしたほうが良い場合や、売上につなげるようにしっかり説明したほうが良い場合など、状況によってもお伝えすべき内容は異なります。そこで、VoCを分析して、ケースごとに最適なトークの順序や内容をスクリプトとしてまとめたり、NGワードやGoodワードを抽出したり、さらには各社が求めるKPI指標にカスタマイズを施すなどして、業務が円滑かつ効果的に遂行できるように最適化を行っていくわけです。
すでに150社ほどに導入いただいており、中にはコールセンターの改善だけでなく、VoCを商品やサービスの改善、プロモーション効果の測定、ECなどサイトの動線・UX改善、コンテンツの反響測定などにも活用されるケースが出てきています。
テクノロジーとノウハウの融合でVoCを利活用
──コンタクトセンターで収集したVoCをセンター自体の改善・最適化に活用するだけでなく、他の部門や事業の改善にも活用できるようになってきているのですね。
このVoCの利活用の自動化は実にパワフルで、顧客の反応がリアルに反映されていることに驚かされます。たとえばこれまで顧客の声を集めるためには、グループインタビューやアンケートなどさまざまな調査が行われてきましたが、対象は限定され、かつ恣意的に情報を取らざるを得ませんでした。しかし、コールセンターに随時寄せられるVoCは、お困りごとや要望など確固たる目的があり、リアルかつバイアスがかかっていません。
ある意味「オーガニック」と言えるVoCを、データとしてしっかりと分析してレポーティングすることは、顧客の実態を把握することにほかなりません。当然ながら、それに合わせた対応が可能になり、商品やサービス、プロモーション、ウェブサイトなど、あらゆる顧客接点の最適化に活かすことができます。
だからこそ、あらゆるVoCをデータ化して分析・活用することが理想的であり、デジタルの力が必要になってきます。データ量もさることながら、私たちが扱うVoCは音声などの「非構造化データ」であるため、システムが扱う「構造化データ」に変換する必要がありました。以前はこの作業がたいへん難しく、音声をテキスト化するだけでも誤変換が起きがちでしたが、ようやくテクノロジーが追いついてきました。とはいえ、業界用語などカスタマイズが必要になったり、コンテキストまで把握する必要があったり、VoCとして活用するにはかなりの精度が求められます。そこにAIやディープラーニングの技術が進化して、音声データのテキスト化および精査が効率的に行えるようになってきました。もちろん、クラウドなどサーバーが大容量となり、データを大量に蓄積できるようになったことも、VoCの利活用に大きく貢献しています。
また当社の場合は、アナリストがもともとコンタクトセンターの人材育成やアドバイス業務の経験者が大多数を占めているため、「このような場合はこう改善すれば良い」という知見やノウハウを持っています。よって分析結果から文脈を読み解き、方向性をレコメンドすることができます。デジタルと人との掛け合わせがうまくいっているところが、効果につながっているのだと思います。
オムニチャネル時代のCXデジタライゼーション
──顧客側についてはいかがでしょうか。近年のコロナ禍によって5年はDXが進んだのではないかと言われていますが。
近年での一番大きな変化は、店舗などリアル側の役割ではないかと思います。現在もリアルの場は、直接商品を見て触って選べ、購入や契約ができることに変わりありません。しかしながら、ECが普及してデジタルでも購入や契約ができるようになったことで、「見て触って選ぶ」という顧客体験の場、魅力を伝える場としての価値がより高まっているように思います。逆に言えば、コロナ禍によってリアルに来店できなくなったことで発見や出会いが減り、「なにか良いものがあれば購入する」という行動はかなり減ってしまっている。デジタルでは、このような顧客体験を提供するのは難しいため、オンオフ両面のチャネルについてもう一度役割を捉え直し、再構築し直す必要があるのではないでしょうか。
それはtoBでも同様で、リアル営業が難しくなったことで、インサイドセールスやオンライン相談などが登場しました。購入までは一定程度構築できたと思いますが、導入支援のオンボーディングや導入後のカスタマーサクセスなどで、人との触れ合いが不足すると不満・不安につながりやすい。いかにオンラインで人の存在を感じさせられるかが、今以上に必要になってくるように感じます。
──そのような課題を解決するために、コールセンター側としてどのように対応していくべきだと思われますか。
ひとつは、オンオフのさまざまなチャネルで選択肢が広がっており、それに対応していくことは必須でしょう。かつて電話やメールが主なチャネルだった頃は、「不満があるけれど、連絡するほどでもない」サイレントカスタマーが多かったと思われます。しかしチャットbotなど、気軽にコミュニケーションできるチャネルが増えれば、これまで問い合わせをしなかった層も行うようになるでしょう。それは企業にとって望ましいことではあるのですが、コールセンターとしてはオムニチャネルで対応し、それぞれのチャネルでの応対の整合性をとる必要が生じてきます。最後の砦として対応してもらえるという期待感はそのままに、マルチタスクが前提になり、負担が増大するのは間違いありません。業務量が増えるのを放置すれば対応がぞんざいになり、企業としての信用に傷をつけることにもなりかねません。
そこでまずはコンタクトセンターの役割や、そこでのCXの重要性を経営層が再認識し、その上で現場のCX観点から「何のために何をすべきか」というパーパスやミッションを再定義し、明確化することが重要です。まずはサイレントカスタマーの”お申し出”を促進し、関係を深めてロイヤルカスタマーにしていくこと。そしてもうひとつは、ロイヤルカスタマーのメリットとなる「サービスの向上」で、ロイヤリティをさらに高めることです。これが浸透すれば、コンタクトセンター自身も工夫し、行動していくようになるでしょう。そのためにはあらゆるチャネルで目的を共有し、ひとつのゴールを目指すとした上でKGIを設定し、役割に応じてチャネルを分岐させ、「お申し出率」や「満足度」などのKPIに落とし込んでいくことが大切です。そこがバラバラになれば、対応にも齟齬が生じてきますから。
価値の可視化でコンタクトセンターはプロフィットセンターに
──ロイヤリティやサービス向上は重要だと言われながらも、売上や利益と比較すると後回しにされる傾向が否めません。その両立はどのように図れば良いのでしょうか。
冒頭で紹介したソリューションについても「アウトバウンドコールで売上につながる」といった目的のほうが、KPIが上がれば売上も上がるという関係が見えるため、導入されやすいのは事実です。そして、カスタマーケアというサポート業務がどのように業績に貢献するかは、現場も経営も理解できていないことは多々あります。
そこで当社ではCXへの投資対効果として、「回避できた遺失利益の定量化」に関するフレームワークを確立させています。満足度の裏の不満足度、推奨度の裏の非推奨度があり、収益へのインパクトはLTVと掛け合わせるとかなり大きいものなんです。シンプルに言えば、「お申し出率」と「不満足度」を掛け合わせると、トータルの遺失利益が可視化でき、「お申し出率」を高めて「サービスを向上」させると、その損失利益をカバーできることがわかっています。必然的にDXに関する投資対効果も、コスト削減効果以上に”価値の創出”にあることを示すことができます。
つまり、トラブル体験をして「お申し出をする・しない」で満足度が変わり、さらにサービスの継続や推奨、クチコミに影響します。それらの掛け算で損失リスクが算出され、「何もしなければ」それが確定するわけです。母数が大きいので、かなりのインパクトになることがおわかりいただけるでしょう。
──コンタクトセンターの価値が大きいことがとてもよくわかりますね。すると、営業部門のようにプロフィットセンターとして位置づけられるでしょう。そこのイメージはどのように変えていけば良いのでしょうか。
このような数字も含めて、社内アピールは大切だと思います。そして、お客様の声という「ファクト」を握っている存在感はやはり強いもの。製品開発もマーケティングもA/Bテストなどで試してみないと予想がつきません。しかし、コンタクトセンターにはすでに「こうしたほうが良い」と答えがわかっている場合が多いのです。問い合わせに不満や要望、期待が隠れているわけで、それをしっかりと吸い上げて各部門にフィードバックしていくことが重要だと思います。それがコンタクトセンターとしてのプレゼンスを示すことにつながっていくでしょう。
そのためには、VoCをそのまま受け取って場当たり的に処理するのではなく、先回りしてサービス向上につなげていく。そのために商品開発部やマーケティング、アフターケアなどの部門も巻き込んでいく。さらに言えば、問い合わせというビジネスの起点を持ちながら、最後の砦として顧客のお困りごとを解決する役割も担うという位置づけですね。そうしたポジショニングについての合意形成を行うことが重要だと思います。
おそらく、10秒以内に電話を取る「即応率」や、1日に何件対応するかといった「完了率」など、すでに与えられたKPIで動いているコンタクトセンターも多いと思います。しかしながら、それが本当に自社の利益につながっているのか、本質的なところに立ち戻って考えてみてほしいですね。それができれば、顧客視点で目的意識をもって運営ができるうえ、1人ひとりのオペレーターのふるまいや行動も変わってくるでしょう。稀に来る「感謝のお手紙」よりも、きちんと自分たちの仕事が会社の利益を支えている自覚が生まれれば、「望ましい対応」も共有され、より良い組織になっていくはずです。もちろん、そのための評価やコーチング、情報共有の仕組みなど、環境整備も重要です。
あるワークショップでは、各部署の方々が参加して、顧客のお困りごとである“痛点”について話し合いました。そこで、コールセンターの方々からの話が各部署に大きな気づきを与え、たいへん役に立つことがわかりました。日々顧客の声に接しているオペレーターの方々は、インナーカスタマー的にお客様の気持ちにシンクロしていることが多いのです。その時に、ファクトとしてリアルなお客様の声や分析結果を示せれば、説得の武器にもなり、プレゼンスを示すことで仕事のやりがいにもなるのではないかと思います。
人による提供価値向上をサポートするCXソリューション
──オムニチャネルやOMOなど、デジタルとリアルの融合が進んでくると、コールセンターだけではなく、店舗や営業部門なども、それぞれがVoCを集め、共有することで、全社的なCXの実現にもつながっていきますね。
そこはやはり、デジタルありきの世界が強いです。オンラインが先行して、オフラインがそこにマージされるという考えかたが基本になっています。しかし、プラットフォームやシステムでも吸収ができない部分は人がカバーし続けているのが実態だと思います。“その人”が提供できる価値というのは大きく、人がその企業の魅力を作るものと考えるのが本質的でしょう。となれば、テクノロジーやデジタルツールはあくまでブースター役、カバー役であり、そう考えることはDXでもCXでも重要だと思います。
そうしたDX時代のCXについて、私たちは3つの価値を提供できると考えています。まずひとつ目は、顧客理解を徹底して行い、企業全体かつ部署横断でしっかりとCXに向き合うことを浸透させていくために、「CXコンサルティングサービス」を提供しています。そしてふたつめは、CXにとって重要なファクト、お客様の声をしっかりと形にして捉え、分析する「VoC 分析コンサルティングサービス」。これはかなり技術的な領域も大きいので、ここからご利用になられるケースも多いです。
最後に3つ目は、「VoC分析コンサルティングサービス」によってデータを分析・レポーティングしたものを、コールセンターの運営の中で徹底して活用する仕組み。それを、ナイスジャパンと共同開発したCXプラットフォーム「ONE CONTACT Quality Management」で提供しています。とくに日本のコンタクトセンターでは、オムニチャネルCXにおいて応対品質の体系化にはお悩みの企業様も多く、仕組みの基盤とノウハウがセットですぐに始められるものとして好評を得ています。役割の目的セットとともに、より高いパフォーマンスを底上げするトータルなKPI管理を行います。
またコールセンターのオペレーションについても、業務アウトソーシングという形で請け負うことも可能ですから、ぜひご相談いただければと思います。