全社的にCXを向上する 有人&無人サービスの最適配置を考える
安藤 企業にとって、消費者の情報を収集する機能としてコンタクトセンターは非常に重要であると考えられ、力を入れており、消費者からの満足度も高い。しかしそこで満足して終わってはいけない。コンタクトセンターで得たナレッジやデータを、他のチャネル、そして企業全体としてのCX向上に活用できるはずです。
米林 満足度が高いのは、デジタルでの対応が増加し人々が素っ気なさを感じる中で、あえて人が応対するという価値が評価されているのだと思います。会社の窓口の最後の砦として、不満足を満足に変えられる存在なのでしょう。さらに、店舗が数人の知見・経験で応対するのに対して、コンタクトセンターは全社のナレッジが集められていると表現しても過言ではありません。だからこそ、コンタクトセンターに蓄積する情報が、店舗や各部門に共有できれば、全社的なCXの底上げがかなうでしょう。
竹谷 人材不足やコスト面からも、有人から無人のサービスにリソースを振り分けざるを得ないため、セルフサービスのレベル向上は大きな課題です。もちろん人の代替にはなりえないので、人が担う部分との連携をデザインすることがカギになります。たとえばチャットボットは、その前に見ていたFAQを踏まえてコンテンツを表示し、それでも解決が難しい場合はその情報とともに有人サービスにつなぐという使いかたができます。単にツールを導入するのではなく、デジタルと人の連携を設計することが必要です。これについても特効薬はなく、消費者層やニーズなどによって適切な動線を見出し、データを分析しながら試行錯誤するほかないでしょう。
安藤 「人に寄り添う」チャットボットは理想です。チャットボットからは企業側の都合が透けて見えることが多く、“振り分け”のために設問を置いているだけのものも少なくありません。その結果、設問の階層が深いばかりで最終的に何も解決できず、満足度を低下させていることが多いですね。
なお、「問い合わせ業務におけるスムーズな対応」について消費者と企業に満足度を尋ねた調査によると、企業側は「だいたいスムーズにできている」と評価しているのに対し、消費者側は「とても満足している」と「まったく満足していない人」の割合が企業に比べて高い。よりシビアにジャッジしていることがうかがえます。とはいえ、すべてのチャネルや問い合わせの目的が合わさっての評価ですから、何をもって「スムーズに対応したか」は、もう少し分析する必要がありますが。
米林 消費者が何を求めているかを把握することは、チャネルを設計する上で重要なポイントです。すぐに人につな消費者が何を求めているかを把握することは、チャネルを設計する上で重要なポイントです。すぐに人についだほうが良い場合もあれば、たとえばパスワードの再発行のようなものはRPAで自動化したほうが消費者も助かるでしょう。満足という評価についても、内訳は「親身になってくれた」「早かった」「丁寧だった」など状況によりさまざまです。たとえばメール文面の半自動化についても、人が介在する「丁寧さ」を担保できるのであれば、うまく価値を提供できるでしょう。何を求められているのかを的確にとらえ、設計する必要があります。
竹谷 作業効率化や知見の共有などさまざまな施策がありますが、それをいかに活用するかは人でなければ判断できないですからね。ざっくりとした分類ではありますが、パスワードの再発行など『案内系』は自動化、トラブルシューティングなど複雑な『相談系』は人が担うといった具合でしょうか。もちろん『相談系』も一定体系化して、初心者でも一定レベルの品質で対応できるようにするなど、デジタルが効果を発揮できる余地は大いにあります。
米林 当社の場合は、「コンタクトリーズン」をVOC分析によって、企業と顧客の重要度を2軸とする4象限にマッピングし、顧客にも企業にも重要なことは人が応対、どちらにも軽い内容ならセルフサービスでという切り分けかたをしています。とはいえ、意外と真のリーズンとして「なぜ」が不明なことも少なくありません。その場合は、たとえば項目づけのセンスも必要ですが、コンタクトセンターのスタッフが聞いてはじめて判明することも多いです。そこに人が介在する意味があると思います。